映画の中の障害者(第21回)『時には懺悔を』

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Photo by Geoffrey Moffett on Unsplash

『下妻物語』『告白』など手掛けた中島哲也監督の最新作『時には懺悔を』を公開初日に鑑賞しました。本作は当初、昨年公開が予定されていたのですが、個人的にもずっと注目していた作品です。しかし同時に、鑑賞前は大きな不安も抱いていました。というのも、事前情報の段階で映画『月』と重なる要素があまりにも多かったからです。
  • 原作小説がある
  • 重度障害のある当事者が多数出演
  • 露悪的な表現が特徴の中堅・ベテラン監督が長年映画化を望んでいた作品
  • 障害や介護の暗部を見て見ぬふりせず描く
こうした共通点から、反多様性の潮流に乗った「健常者目線の暗くて冷たい障害者観」を植え付ける懸念を拭えませんでした。公開初日に劇場へ駆けつけた際も、どこか斜に構えて「コラムでツッコミを入れてやろう」という邪心すらあったのが本音です。しかし、その予想は良い意味で鮮やかに裏切られ、心を揺さぶられる驚くべき作品となっていました。

※以下、一部ネタバレを含みます。

重度障害者と真正面から向き合うストーリー

生きていく。たとえ神様なんていなくても——
探偵がひとり、殺された。「死んだほうがマシな人間」と呼ばれた男・米本(佐藤二朗)。調査することになったのは、元同僚の一匹狼・佐竹(西島秀俊)と、助手で修行中の聡子(満島ひかり)。調べを進めるうちに、9年前に起こった新生児誘拐事件にたどり着く─。殺された米本が死の間際に調査していたのは、9年前に失踪し今は父親の明野(宮藤官九郎)と二人で暮らす、重い障がいのある少年・新。過去に傷つき、誰かを傷つけ、孤独に彷徨う大人たちが出会った「新」という小さな命。家族から目を背けた男、娘に捨てられた女、子を生きる糧にした男、産んだ子を愛せなかった女。

「生きているのが奇跡」と言われたそのひとつの小さな命が、逃げ場のない現実にもがき苦しむ大人たちの心を動かしていく─。
(公式ページより引用)

故・内海文三氏が障害者の息子を育てた経験をもとに1994年9月に発表した原作を映画化。二分脊椎症に水頭症を併発している24時間ケアが必要な重症児が本作の重要なキャラクターです。本作でも医療的ケアが必要な子ども達が多数登場します。リサーチにも時間をかけ、専門のアドバイザーが全面的に参加しています。

過酷な日常の中の光が差し込む瞬間

「生まれてこない方が幸せだった」「こんな出来損ない」など劇中には切り取るとギョッとするような強烈なセリフも登場します。しかし、鑑賞後、嫌な後味が残ることはなく、温かさを感じ取れる作品になっています。『月』や『市子』といった作品同様、過酷な現実描写をしながら、なぜここまで受け取り方が異なるのか。色々考えて行き着いたのは「監督が映画と世界に込めた願いの質」です。

特に強く心を揺さぶられたのは、宮藤官九郎さん演じる父親・明野が、障害児の新くんを介護するシーンでした。映画の中でこの介護の様子が非常に時間をかけて、丁寧に描写されていることに驚かされます。後半やや駆け足に真相が明らかになるのにバランスが悪くさえ思えますが、それでも監督は重度障害児の「実在」を描くために必要な時間として省く事はしません。

明野の印象的なセリフ、

「薄汚いものにまみれ吐き気に耐えて生きる、1年365日の中でたった2日か3日悪くないと思える、そんな日がある」

過酷な日常の中にも、ふっと光が差し込む瞬間がある——その奇跡を、監督が何度も諦めず描こうと、もがいるように感じました。これは障害あるなしに関わらず生きる上で普遍的なテーマで、これを監督はどうしても描きたかったことが伝わります。

「きれいごと」を見て見ぬふりしない

映画『月』『市子』は、現実を盾に犯人に寄り添い、障害者を単なる「厄介な存在」として「加害者にも一定の理がある」という危ういメッセージを発していて強い脅威を覚えていました。しかし、本作はそれらとは明確に一線を画しています。

劇場パンフレットを読んだところ、中島監督は最初から本作を「感動できる作品にする」という強い意図を持って制作に臨んだそうです。作中で描かれる世界は、ともすれば「きれいごと」と受け取られるかもしれません。しかし、アートや映画という表現には、「きれいごとを現実にする力」が確実にあるはずです。中島監督がその力を「見て見ぬふりせず」信じ、過酷な現実を描きつつも希望ある作品として昇華させたことに深く胸を打たれました。

同じく病や介護をテーマにした作品として、今年公開の『急に具合が悪くなる』とはまた異なるアプローチですが、『時には懺悔を』も観る者の価値観を大きく変えるはずです。

ぜひ一人でも多くの方に、劇場でご覧いただきたい一作です。


【参考リンク】
    • 映画『時には懺悔を』公式サイト
https://www.tokizan.jp/
    • 原作「時には懺悔を」 (角川文庫) 
https://www.kadokawa.co.jp/product/200103000555/
    • 中島哲也監督インタビュー
https://youtube.com/watch?v=Eh5y_-hfefA&si=HlX7RaGnACPlX7zS
    • IDOBATA_channel
本作に子役出演のお母さんによるポッドキャスト(撮影裏話など語られています)
https://youtube.com/watch?v=oDZMePyiRu4&si=sZ7TvXC1TSlcY7_R

MXU

MXU

新潟県在住の映像作家。内部機能障害。代表作「BADDREAM」(2018年)。
多様性をモチーフにした映像制作プロジェクト「NICEDREAMnet」で毎月作品を発表しています。
https://www.youtube.com/channel/UCBtMFlHg3tJidPZTrjRLoew

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