「本人が必要なルールを、本人と決める」――東京・グループホームまんまるが挑む意思決定支援

暮らし

合同会社LIVENOW代表の大堀芳幸さん


今日の夕飯を何にするか。何時に寝て、休みの日にどこへ出かけるか。障害のない人が意識せずに重ねている小さな決定は、障害のある人にとって、長いあいだ家族や支援者に委ねられがちなものでした。この「決める」を本人の手に返す取り組みが「意思決定支援」です。2026年は、成年後見制度を抜本的に見直す民法改正が成立し、国の意思決定支援ガイドラインの改訂案も示された、大きな転換点の年になりました。東京都練馬区・西東京市などに障害者グループホーム「まんまる」を展開する合同会社LIVENOWは、その意思決定支援を事業の軸に据えてきました。代表の大堀芳幸さんと現場の管理者を訪ね、実践を聞きました。

2026年、「決める」の仕組みが変わる

2026年6月17日、成年後見制度を見直す「民法等の一部を改正する法律」が成立し、同月24日に公布されました。成年後見制度とは、認知症や知的障害などで判断能力が不十分とされた人の契約や財産管理を、後見人らが本人に代わって担う仕組み(判断能力が不十分な人を法的に支える制度)です。改正では「後見」「保佐」「補助」の3類型が「補助」に一元化され、必要な期間だけ利用できる制度に変わります。2000年の制度開始以来、約26年ぶりとなる骨格の見直しです。施行は公布から2年6か月以内と定められています。 

背景には、障害者権利条約の存在があります。2022年10月、国連の障害者権利委員会は日本への総括所見で、支援者側が「本人の最善の利益」を判断するという従来の発想に懸念を示しました。軸足を、周りが考える最善ではなく、本人の「意思と選好」へ移す。この流れを受けて厚生労働省は2026年7月、「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」の第2版案を審議会に示しました。案は意思決定支援を「本人が意思決定できる状態を可能な限り支えること」と定義し、失敗をなくすために本人の選択を制限するのではなく、リスクを軽減する工夫を尽くして「やってみる」を支える方向を打ち出しています。

その最前線のひとつが、障害者グループホーム(制度上の名称は共同生活援助)です。利用者は年々増え、令和4年時点で全国約15万8,000人にのぼります。まんまるは練馬区・西東京市を中心に首都圏と大阪などで約50ユニットを展開し、定員は約200名、現在約182名が暮らしています。運営する合同会社LIVENOWは、2019年(令和元年)9月の創立です。 

「本人が必要なルールを、本人と決める」


共用リビング

訪ねたホームの共用リビングには、木目のダイニングテーブルと椅子が並んでいました。どこにでもある一軒家の居間のような空間です。ただ、この家には、入居者みんなに共通する起床時間も、消灯時間も、門限もありません。

「一般的には、グループホームの管理者目線のコントロールしやすい状態で、朝の時間とか消灯の時間とか全部決めて回していく事業者さんが多いというのが私の感想なんですけど、私たちはそこが一切なくて、本人が必要なルールを本人と決める、みたいなところをベースにしています」と大堀さんは言います。本人の特性上、共同生活や社会とぶつかる場面が出てきたときにはじめて、本人と相談して個別のルールをつくります。食事も、ホームの提供を受けるか自分で用意するかを本人が選びます。

効率だけを考えれば、時間を決めて一斉に回すほうが安上がりに思えます。ところが、大堀さんの答えは逆でした。

「管理しようとすることの方が、実は支援が難しくなっていくというのが私の思っている答えで。管理しないで本人がやりたいことを支援していくと、本人ができること、やりたいことが増えていくので、支援のボリュームは少しずつ下がっていく。必要なときにだけ支援すればよくなっていくんです」

自分で選び、失敗しても立ち直れた経験が、次の「やってみたい」を生みます。その積み重ねで管理のための支援が減り、結果としてコストも下がるといいます。「障害者支援って、イレギュラーしかない業態なんです」という言葉が印象に残りました。イレギュラーしかない場所に画一的な仕組みをはめ込もうとすれば、かえって統制のコストが膨らむ、というわけです。


管理者の江崎晴代さん(左)・川上貴志さん

現場を案内してくれた管理者の江崎晴代さんは、日々の関わりをこう話します。

「できないことに対しての支援はできるんですけど、できることに対しての支援をしてしまうと、転ばぬ先の杖になってしまったり、その人ができることの能力を奪うことになってしまう。だから、それをそのまま本人に伝えます。すると納得して、『ほんまにちょっとやってみようかな』と、ちょっといい気持ちになってくれるんです」

職員のシフトは入居者に開示されていて、苦手な職員の日は自分で関わり方を調整する人もいるそうです。それもまた、日常のなかの小さな「決める」の練習になっていました。

「支援する側が満たされていないと、支援は提供できない」


共用スペース

こうした現場を支えているのは、意外なほど内向きの取り組みでした。今後の展望を尋ねたとき、大堀さんが当面の最重点に挙げたのは事業の拡大ではなく、職員の教育だったのです。

「支援する側が満たされていないと、支援を提供するというのはやっぱり難しい。だからセルフケアとか、自分の内面の世界の捉え方とか、そういうものを社内で教育しています」

自分の状態を理解し、自分で選んで動けている実感のある人だけが、他者の「決める」に伴走できる。まんまるの意思決定支援の礎は、チームと組織のつくり方、そして支援者自身の自己理解に置かれています。

その思想を象徴するのが、社内で共有されている「ふねの物語」という一編の物語です。「これからお話しするのは、今の私たちの姿ではありません。私たちが乗っているふねの、目指すべき姿です」と始まる物語は、支援の仕事をこう言い切ります。「このふねでは、運ばれるだけの人を作らない」。誰かを受け取るだけの席に座らせたままにすることは、その人から一番大きな喜びを奪うことだから――。だから船の仕事はただひとつ、「支える相手が、送る側に立てる形を作ること」だと続きます。ミスが起きたときには「誰が踏み抜いたかではなく、なぜ板が緩んでいたかを見る」。人を責めずに構造を直す組織論まで、物語の言葉で貫かれています。

実際、スタッフの多くは福祉の資格を持たずに入職し、働きながら学校に通い始めた人もいるといいます。一度つくった人事評価制度が現場に合わず、自然に手放されていった話も、笑い交じりに聞かせてくれました。まずやってみて、合わなければやめる。利用者に勧める前に、組織自身が「やめるのも選択のうち」を実践しているようでした。

実現支援か、代理決定か――「根拠」をつくるためのAI

大堀さんは、もともと福祉の人ではありません。工学系の学校を出て技術職として約13年働き、新潟県で福祉事業を営む兄の勧めで、半年間の勉強を経てグループホームを立ち上げました。新潟で育ち、18歳で上京した技術者の目に、福祉の現場はこう映ったといいます。

「本人がやりたいというところが結構抑制されている現実があるな、というのが私の福祉への感想でした。それをどうやったら本人の意思として認めて、関係者を含めて実現することができるんだろうと考え続けてきたのが、このまんまるという事業所の方向性でした」

意思決定支援には、大きな分かれ道があります。本人の意思の実現を支える「実現支援」へ進むのか、本人に代わって周囲が決める「代理決定」に踏み込むのか。まんまるの原則は「本人の意思は、不必要に代理決定してはならない」。そのうえで大堀さんがこだわるのは、実現支援を選び抜くための「根拠」です。

「本人に明らかに不利益がある場合には代理決定をしなければいけない、というところがボーダーラインになります。でも、それを定量的に数値化して、関係者への根拠として持っていないと、『本人の意思を尊重します』と言っているだけの、詐欺をしている福祉事業者になっちゃうなと思っていて。本人の意思を実現するのであれば、ちゃんとした根拠を作って、その根拠のもとに関係者を説得できる力を持っている事業所にならなきゃいけない」

その根拠づくりを担うのがAIです。まんまるでは本人とのやり取りをすべて記録としてデータベースに残し、ICF(国際生活機能分類。障害を心身の状態だけでなく環境との相互作用で捉えるWHOの枠組み)に基づくリスク評価をAIに学習させています。蓄積された記録から、失敗から立ち直る「回復力」のような個人特性の指標を導く構想も進んでいます。

目指す基準を、大堀さんはこう説明します。「本人に8割以上の確率で、取り返せない不利益が訪れる場合。これを多角的な情報をもとにAIで数値化して、意思決定支援の根拠にします。リスクが5割を超える項目は、関係者に説明して理解を得られるよう策を尽くすし、本人の意思が本心かどうかの判定も併せて行います」。そして、こう付け加えました。「これはまだ未完成の意思決定支援です。支援者の労働量が過剰にならないところまで簡素化して、実現させたいと思っています」

数値で意思を扱うことに、冷たさを覚える人もいるかもしれません。けれど、大堀さんの意思観はその逆でした。

「意思は揺れ動くものだ、というのが大前提です。揺れ動いて、リスクが低いものに関しては、やりたいと思ったらやってみればいい。途中でやめちゃうのも意思なので。ひとつに固定化されたものは機械的な意思であって、人間的な意思というのは、すごく揺れ動いていて、曖昧なものなんです」

揺れて、迷って、撤回する。その全部を意思として尊重するために、本人から決定を取り上げる側にこそ厳密な根拠を課す。記録の蓄積とICTの活用を推奨するガイドライン第2版案の方向とも、この実践は重なります。仕組みは意思決定支援に特化したAIシステムとして、他の事業所へのデモ提供も始まっています。


居室

「取り返せない」の手前で

では、リスクが8割を超えたら、すぐに代理決定へ進むのでしょうか。まんまるの答えは、ここでも「すぐには決めない」でした。大堀さんは言います。「8割を超えても、すぐに代理決定ではなく、代替手段でリスクを下げられないかを検討して、提案していきます」

この発想は、ガイドライン第2版案が示す例とも響き合います。疾病で食事制限のある人が制限された物を食べたいなら、影響の少ない量や同種の食べ物を工夫する。大きな買い物には、お金を積み立ててから臨む。一人での外出には、練習と見守りを組み合わせる。選択そのものを禁止するのではなく、失敗の可能性ごと「やってみる」を支えながら、リスクだけを削っていく考え方です。

取り返しのつく失敗は、奪うべきものではなく、経験です。取り返せない不利益の手前に、どれだけ工夫の余地を積み上げられるか。まんまるの挑戦は、その余地を「根拠」とともに広げていく試みなのだと感じました。

大堀さんは事業の数字ではなく、人の話で取材を締めくくりました。

「職員自身も、自分たちでも何かいろんなことができるんだ、と、やりたいことを思い立ってもらう。そうすると、この事業とかこのサービスのスタイルが、たぶん広がっていくだろうなと思っています」

自分で選べて、決められる環境は、暮らす人だけでなく、働く人のものでもある。揺れ動いて曖昧な、人間的な意思を面倒がらずに扱う住まいが、練馬や西東京の住宅街に静かに増えていました。


(関連リンク)
厚生労働省「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン(第2版)案」(障害者部会第157回・参考資料1)
https://www.mhlw.go.jp/content/12201000/001720537.pdf

法務省「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html

合同会社LIVENOW 公式サイト
https://livenow.tokyo/

障害者ドットコムニュース編集部

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