「字幕が溢れた世界は、聴者のためのものだと思ってもらってもいい」──難聴うさぎ・斉藤りえ議員らが語った「デフ×IT」の現在地【DEFCONレポート】
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会場全景
9月26日午後、東京・赤坂。会場の拍手は音を出さず、両手を上げてひらひらと振ります。聴覚障害のあるエンジニアのためのカンファレンス「DEFCON(Deaf Engineer's Future Conference)」の第1回が、赤坂インターシティコンファレンスで開かれました。テーマは「デフ×ITがつくる未来」。主催は聴覚障害のあるエンジニアを採用して育てるIT企業・株式会社C4C、共同主催はSNS総フォロワー80万人超の難聴うさぎさんです。デフ×ITを掲げた壇上に国会議員、上場企業のCEO、当事者のエンジニアが並び、法定雇用率2.7%という数字の先と、「字幕は誰のためのものか」を語った3時間を報告します。
「デフのエンジニアが登壇をする機会というのが、なかなかないんです」── 初開催のDEFCONはなぜ生まれたか
DEFCONは「Deaf Engineer's Future Conference」の頭文字をとった名前です。主催の株式会社C4Cは2010年設立、東京・東日本橋のIT企業で、聴覚障害のあるエンジニアを採用して育てる「デフエンジニアリング事業部」を持っています。事業部長の有馬哲平さんは、事業は「立ち上がって9年目」で、「聴者と変わらない評価基準と条件でデフエンジニアを育てる」ものだと説明しました。開催の目的は2つあります。障害者雇用で起きているミスマッチを発信することと、デフエンジニアが人前で話す機会をつくることです。
「今、世の中でITの勉強会やカンファレンスというものがたくさんあるんですけれども、デフのエンジニアが登壇をする機会というのがなかなかないんです」
民間企業の法定雇用率は2026年7月に2.7%へ引き上げられました。一方、厚生労働省が2025年12月に公表した集計では、当時の法定雇用率2.5%を達成した企業は46.0%にとどまります(2025年6月1日時点)。有馬さんは、雇用された後も障害への理解や知識のない企業や上司のもとでスキルが積み上がる仕事を任されず、労働条件も上がらない例が「たくさん起きています」と話しました。会場の左のスクリーンにはリアルタイム字幕が流れ、壇上の脇には手話通訳が立ちました。

事業部長の有馬氏
「片耳75万円。車が買えますね」── 難聴うさぎさんが語った補聴器と、SNSの外側の半生
最初のセッションは、共同主催でもある難聴うさぎさんの15分でした。生まれつき両耳が聞こえず、1歳半健診の耳の検査で分かりました。補聴器を外すと電車の音が聞こえる程度で、つけていても言葉はぼやけて聞こえるため、口の動きを見ないと分からないといいます。いま使っているのはイヤホンのような見た目の耳あな型です。値段を会場に問いかけてから、自分で答えました。
「片耳75万円で、両耳で150万円くらいです。車が買えますね」
会話が苦手だった中学時代に夢中になったのはゲームでした。なかでもオンラインゲームの話は、この日のテーマそのものでした。
「この世界は、頭の上に吹き出しが出て、誰が何を喋っているか分かる世界。だから、耳が聞こえない人は、誰か喋っているのは分かるけど、誰が何を喋っているかが分からない。この世界は、吹き出しが出ることで、何を言っているか分かるから、めちゃくちゃハマりました」
松江工業高等専門学校を経て建設会社に就職し、24歳のときには船で世界一周に出ました。21カ国をまわる船内で「手話ができるだろう」と声をかけられ、当時はほとんどできなかった手話を船の上で覚え始めたそうです。

難聴うさぎさん
「聞こえることと、その音の方向が分かることは違うのです」── 3本のライトニングトークが示した「選択肢を増やす」IT
続くLT(ライトニングトーク)には3人が登壇しました。1人目は筑波技術大学3年の田本さんです。研究のきっかけはゲームで、足音は聞こえても、どこから聞こえるのかが分からなかったといいます。
「ゲームだけではありません。日常生活の中でも同じです。聞こえることと、その音の方向が分かることは違うのです。それが僕の研究のスタートとなりました」
補聴器を使う人に音の方向を伝える研究を進めるうちに、「入り口は音だけなのでしょうか」という疑問がわきました。通っている大学では、チャイムの音をランプで知らせています。
「もし初めから問い合わせが電話だけではなくて、別の方法があれば、特別な配慮をお願いする必要はなくなります。そういう選択肢を増やす。それが私が今考えていることです」
2人目はIT企業でソリューションアーキテクトとして働く井上さんで、テーマは「ITコンサルが会議の前後にやっていること」。手話は第一言語ではないため、口話で話しました。
「AIやITは、多くの人は仕事を早くこなすために使い始めると思うんですね。そして、難聴者は仕事の穴を埋めるために使い始めます」
会議の前に議題の背景とゴールをAIと整理し、会議の後に要約と自分の理解を突き合わせる。「共通しているのは、会議中に全部をやろうとしないことですよね」。効率のための工夫だと思っていたが、振り返ると聞こえていない自分をかばう動きでもあった、と井上さんは続け、「これは私だけのための工夫ではない」と話しました。
3人目はC4Cのテックリード、村上龍平さんで、テーマは「AI時代の議事録の取り方」。会議の音声をAIに渡して決定事項と要約をまとめさせ、「マージ」のような専門用語が別の単語に化けないよう先に教えておく。自分は話を追うことだけに集中できるようになった、と締めくくりました。
村上龍平さん
「難題の無い人生は"無難"な人生」── 壁は人を止めるのか、動かすのか
後半のパネルディスカッションでは、司会のお題に登壇者がスマートフォンから30文字以内で回答し、全員の答えがスクリーンに一斉に表示されます。このアプリは村上さんが開発しました。斉藤りえさんは各テーマへの回答を事前にテキストにし、司会が代読しました。進行役は難聴うさぎさん。壇上には斉藤さん、岩田進さん、田本さん、村上さん、そして株式会社セールスフォース・ジャパンに勤め「デフエンジニアの会」に所属する佐藤真美さんが並びました。
最初のテーマは「難題は人をどう変えるか」。司会は斉藤さんの著書『筆談ホステス 67の愛言葉』(光文社)の一節、「難題の無い人生は"無難"な人生。難題のある人生は"有難い"人生。」を引いてお題を出しました。
岩田さんの回答は「大好物」でした。「艱難汝を玉にす、という中国の言葉がありまして、難しい難題こそが人を玉にして磨いていく。しんどいこととかあると、これは自分の玉を磨くすごい機会なんだなと、自分の中では常に考えて」。「漢字が読めなくなるくらい難しい言葉」と難聴うさぎさんが返すと、岩田さんは「一応上場企業なので、ちょっと賢そうなことを言っておこうかなって」と受けました。
佐藤さんの回答は「難題は可能性の入り口になる」でした。突破したいと考えたとき、周りには「そりゃ無理」「黙っておとなしくしてろ」という意見が多かったといいます。
「言われたときに『分かった』って我慢したら、もう社会を変えることができないんですよね。(中略)壁が社会を変える入り口になると、私は信じております」
斉藤さんのテキストは、壁を個人の問題で終わらせない、というものでした。
「一人の努力では越えられない壁も、制度や仕組みを変えることで、次の人にとっては壁ではなくなるかもしれません。壁は人を立ち止まらせるものにもなります。でも、同時に社会を変える出発点にもできると、私はそう考えています」
パネル全景
「2.7%をゴールにしてはいけない」── 数字の先にある「双方が幸せになる雇用」
2つ目のテーマは「双方が幸せになる障害者雇用」でした。難聴うさぎさんの回答は「『できない』で終わらせず、どうしたらできるかを一緒に考える」でした。
「例えば、耳が聞こえないから電話ができないって言うじゃないですか。スマホでスピーカーにして、相手の音声を文字起こしにして、相手が何て言っているかを目で確認して、私は一方的に喋るみたいな感じで、電話ができるようになりました」
岩田さんは「100点の人って世の中にいないので、それぞれの強みを生かして、弱みを補いながら」と受け、周りの人間も互いの強み弱みを分かったうえで一緒に成果を上げていく環境設計が大事だと話しました。同時に、経営者としての線引きも示しました。
「働く方自身が自ら社会に対してどういう価値を生み出していけるのか。それは聞こえないの問題ではなくて、仮に聞こえていたとしても価値がなかなか出せなければ、会社としても雇用することが難しい」
村上さんの回答は短いものでした。
「簡単にまとめると、仲良くなればいい。仲良くなれば、実は言えないことも言えたりする」
何をしてもらえれば力を出せるかを面接ですり合わせ、もやもやがなくなるまで話し合える関係になれば、お互いにいい気持ちでいられる、という趣旨です。佐藤さんは手話で話し、手話通訳が声にしました。
「障害者だけが頑張るのかな、と。(中略)障害者も、いつも頑張って、頑張る努力を見てもらうということに、すごく疲れる人もいると思うんですよ。障害者ももう頑張らなくてもいい」
斉藤さんのテキストは、企業側に向けた問いから始まりました。
「まず職場の側にも変えられることがないかを見ることが大切だと思います。例えば、会議、研修、雑談、緊急連絡、評価面談。一つひとつの情報が、障害のある人にも同じタイミングで届いているでしょうか。私自身、聞こえないことで感じてきたのは、仕事そのものができないのではなく、情報が届かないために参加できないという場面が少なくないということです」
「2026年7月から、民間企業の法定雇用率は2.7%になりました。しかし、私は2.7%をゴールにしてはいけないと思っています。何人雇用したかだけではなく、どんな仕事を任されているのか、適切な評価を得られているのか、研修や昇進の機会があるのか。そして、その人が能力を発揮しながら働き続けられているのか。これからは雇用率だけではなく、雇用の質にも目を向ける必要があります」
「雇用の質」は、いま国の制度でも中心にある言葉です。厚生労働省の研究会は2026年1月30日、雇用率だけでなく「雇用の質」を重視する報告書をまとめ、労働政策審議会で次の制度に向けた議論が続いています。障害者職業総合センターが2025年3月に公表した調査では、業務指示を受ける場面で困難を感じている聴覚・言語障害のある人は73.8%にのぼる一方、同じ場面で困難があると認識している企業は43.6%でした。壇上で繰り返し出てきた「ミスマッチ」は、統計にも表れています。

斉藤議員・難聴うさぎさん
「字幕が溢れた世界は、聴者のためのものだと思ってもらってもいい」── デフ×ITで世界はどう変わるか
3つ目のテーマは「デフ×ITで、世界はどのように変わるか」でした。難聴うさぎさんの回答は「聞こえる、聞こえない関係なく情報を受け取る世界」でした。そう言って、会場のスクリーンを指しました。
「今、こちらに字幕があるじゃないですか。これって、聞こえない人のためだって思っている方が多いと思うんですけど、聞こえない人のためのものなんだと思わないで、聞こえる人も、自分のために見てほしい。テレビの字幕とか、色とかアニメーションとか、楽しいじゃん。だから、この世界に字幕が溢れた世界は、聴者のためのものだと思ってもらってもいいって、私は思いました」
佐藤さんは会場に問いを返しました。
「もしもこの世界に障害者がいなかったら、どういう世界に変わると思いますか。障害者がいなかったら、字幕とかエレベーターがあるかどうかもわからないですよね。(中略)私たち障害者が要望を出した結果が、このような社会になったんです」
技術の現在地を補っておくと、iPhoneでは2025年秋のiOS 26から「ライブキャプション」が日本語に対応し、アイシンが聴覚障害のある社員約300人と開発した音声認識アプリ「YYProbe」はシリーズ累計300万ダウンロードを超えました。一方で、手話を音声や文字に翻訳するAIは国内では実証段階で、自動字幕の限界は後半の質疑でも語られました。
呼び方をめぐる話は、このテーマの終わりに岩田さんが「もう一個進めると」と切り出したことから始まりました。
「障害者という呼び方は良くないんだと思うんですよね。なんかすごい問題があるような感じになっちゃっていて、そうではなくて、個性とか、ある意味特性というものだと思うので」
村上さんの受け止めは違いました。障害者という単語がある以上、自分を説明するときには使った方がいいと思っていて、ネガティブなイメージは持っていない、と話しました。佐藤さんは、「障害を持っている人」と言われて「好きで持っているわけじゃないよ」と返したことがあり、「障害がある人」なら分かる、と付け加えました。

スクリーンに表示された回答
「ろう者って言われた方が嬉しい」── 呼び方をめぐって、会場で挙がった手は半々だった
会場からの最初の問いは、このイベントの情報保障についてどう思うか。答えを求められた岩田さんは、言葉を選びながら話しました。
「正直、あまりいい答えが思いついておらず、というところなんですけども。(中略)当事者の人は全くそうではなくて、そんなきれいごとを言うなよと、正直今の生活の中で相当困っているんだぞ、というところを、もっと自分の体感として知れればいいかなと思っています」
佐藤さんは、聞こえない人が一番困っているのは学ぶときだと話しました。オンラインの勉強会や動画は字幕が出ないことが多く、頼むと「YouTubeの自動字幕があります」と言われる。
「わかりました、ということで自動字幕を見せると、まあ、脱落が多いこと。エンジニアにとって専門用語ほどきちんとした精度で出さなければいけないのに、それができない」
ろう者と難聴者のあいだの情報保障も挙げました。難聴者は手話がなかなかできず、ろう者は音声認識アプリの文字を見ても分からないことがある、という指摘です。
2つ目の問いは、ろう者、難聴者、中途難聴者など、自分はこう呼ばれたい、という呼び方はあるか、というものでした。難聴うさぎさんは「本当に何も気にしないです」と答え、説明のしやすさからYouTubeではほとんど「聴覚障害者」を使っているといいます。佐藤さんは違いました。
「私、手話で生きているので、そういう意味でも、ろう者って言われた方が嬉しいかなって。でも、難聴って言われたい人ももちろんいますよね。本当にみんなそれぞれですので」
ここで岩田さんが「すごい基本的な質問、いいですか」と手を挙げました。
「今、ろうと呼ばれた方がいいって話もあって、それすごい驚きだったんですけど。あんまり差別用語的で、使ってはいけない言葉みたいな感じで認識してたんですけど」
司会は、手話を第一言語とする人は「ろう者」と呼ばれることが多いと補足したうえで、会場の当事者に、「ろう者」と呼ばれても構わない人、ちょっと嫌だと思う人、と順に挙手を求めました。手を挙げた数は「ちょうど同じ数くらい」でした。難聴うさぎさんは、聞こえの程度やろう学校・手話の経験で受け止めは変わる、だからそれぞれなのだ、と補いました。
最後に司会が「聴覚障害があってよかったこと」を尋ねると、難聴うさぎさんは「ぐっすり寝れるところです」と答え、佐藤さんは仲間のことを挙げました。
「聞こえないからこそ出会いがあって、仲間となり、手話のおかげで。もし私が聞こえて生まれていたら、会えなかった仲間たちがいっぱいいるわけですよね」
締めくくりは斉藤さんからの質問で、AIやITが便利だと分かっていても最初の一歩を踏み出せない人を取り残さないために何が必要か、というものでした。登壇者からは、便利さを伝えることも大事で、普及が今後の課題だという答えが返りました。
左から、株式会社C4C 亀山社長、斉藤議員、難聴うさぎさん、株式会社イルグルム 岩田社長、C4C事業部長 有馬氏
DEFCONは今回が第1回です。この日、壇上で話した聴覚障害のある登壇者は、難聴うさぎさん、斉藤さん、佐藤さん、田本さん、井上さん、村上さんの6人でした。有馬さんが開催の理由に挙げた「デフのエンジニアが登壇する機会」は、少なくともこの日、赤坂に用意されました。次回の開催は、本稿執筆時点では発表されていません。
編集後記(川田祐一)
僕がこの日いちばん持ち帰ったのは、村上龍平さんの「仲良くなればいい」でした。福祉の現場に30年、相談支援専門員として13年、いろいろな障害のある人の職場の相談を受けてきましたが、こじれる原因の多くは配慮の中身ではなく、困ったと言えない関係でした。斉藤りえさんが書いた「情報が届かないために参加できない」も、聴覚に限った話ではありません。会議の資料が前日に届かない、口頭の指示が飛び交う、雑談で決まったことが共有されない。うちの会社は17名中13名が障害のある社員ですが、僕らが毎日やっているのは特別な支援ではなく、情報を同じタイミングで全員に届けることと、困ったと言える関係を保つことです。岩田進さんが壇上で「学びに来た」と言ったのは、経営者だけでなく、支援する側の僕らにも向いた言葉だと受け取りました。会場の拍手は最後まで音を立てませんでした。聞こえる側が少し変わるだけで、その場は全員のものになる。両手を振りながら、そう思いました。
記念撮影
DEFCON 公式サイト:https://def-con.net/
株式会社C4C:https://portal.c4c.co.jp/
厚生労働省「令和7年 障害者雇用状況の集計結果」:https://www.mhlw.go.jp/content/001614830.pdf
聴覚障がい者とITがつくる未来、デフ×ITイベント「DEFCON」9月26日赤坂で開催(2026年9月11日)
https://shohgaisha.com/column/grown_up_detail?id=3491


