大阪・寝屋川の事件で問題になった「統合失調症」とは?(後編)

統合失調症

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発症



一人暮らしを初めて約10ヶ月。昔から抱えていた違和感が、ついに形となって現れる日が来ました。ある朝、起きてみると身体の中を何かが走っている様な錯覚に襲われました。前日お酒を飲みすぎたかなと、シャワーを浴びて暖かいお風呂にも浸かりましたが全くその感覚は抜けず、身体を壊したのではないかと言う不安に襲われました。

風邪をひいた訳でもなければ、インフルエンザを患ったわけでもない。理由も無く身体の中から噴水のように「何か」が湧き上がってくるのです。さっぱり理由が分からなかった私は、数年ぶりに病院に行くことにしました。

家を出てみると、世界は一変していました。道行く誰もが、わたしを名指しであざ笑うのです。通りすがりの子どもたちや若い男女のカップル、すれ違ったおばあさんですら、わたしを指差して暴言を吐いてくるのです。

わたしは怖くなりましたが、身体の余りの変調の恐ろしさの方が先立って、名前は知っていたけれど行った事のなかった、近所の病院に行くことにしました。

病院での時間は、本当につらいものでした。誰も彼もがわたしの噂話をして、名指しで責め立てる。これまでの恥の多い人生を何故か皆が知っていて、それをぶつけてくるのです。

病院では入院を勧められましたが、わたしは断りました。その時考えていたのは、「家に帰りたい」と言うこと。それも一人暮らししていた家ではなく、数キロ離れた実家へ帰る事でした。

実家へ帰る道すがら、おかしな事が起こりました。二人組の男女がわたしの後ろからついて来るのです。遊び半分に笑いながら、後ろから追いかけてくるのです。わたしは恐ろしくなり駆け出し、半狂乱になりながら実家のドアを開けました。そんな様子が気になったのか、母親が何かあったのかと問いただしたので、わたしは見たままあったままを伝えました。「そんなものはない。お前の見間違えだ」と言うので実際に下まで降りてみたらば影も形もない。

それでも、実際に声は聞こえるのです。わたしは本当に怖くなりました。自分に何が起こっているのか。全く分かりませんでしたが、「何か」が起こったことは間違いありませんでした。

それから1週間の間、実家から職場に通うことになりました。


そして離職



1週間後、発作はようやく落ち着きをみせ、わたしは再び自分の家に帰りました。それから数ヶ月間は何の問題も無く過ごせていたように思います。

ただ、職場内でも自分が悪口を言われているのではないかと言う不安は消えず、(幻覚かも知れませんが)実際にその場面にも遭遇していたので、平穏に暮らすことは出来ませんでした。

それから暫くして、再び謎の発作が起こり、わたしは救急車で病院に運ばれました。その時の幻覚は凄まじいもので、病院中の人々に「臭い」と中傷を受け、看護士の方々からも暴言を吐かれて、只々震えることしか出来ませんでした。

しかし、その様を見た先生が「これはただ事ではない」と悟ってくれた為に、わたしは別の病院を勧められて、その病院で初めて「統合失調症」と診断を受け、直ちに入院することになったのです。

こんな状態でしたので、家族には本当に迷惑をかけました。こんな状態ではとても一人暮らしなど出来ないと部屋を解約し、家具を全て移動させ部屋の大掃除まで・・

職場に電話したら「大変なのは分かったから、元気になったらまた連絡してきてください」と言う一言のみで、詳しい話もできません。

止む無く、その職場は離職することになってしまいました。


入院、そして社会復帰へ



「統合失調症」と診断を受けたわたしは、生まれて初めて入院をする事になりました。初めて入院した日は、ベッドの横にトイレがあり、外から扉を閉められる構造の部屋でしたが、何がなんだか分からない自分はただ眠るしかありませんでした。

翌日からは一般的な病室に移ることになり、約一ヶ月の入院生活が始まりました。心細い入院生活ではありましたが、比較的世代の近い友人が大勢出来たこともあり、特に問題の無い時間を過ごすことが出来ました。眠れない夜もありましたが、朝夕二回の投薬の影響か発作も次第に薄れていった、穏やかな時間。その時間は今でも、私にとって大切な思い出になっています。

この入院機会の間に幻聴や妄想はなりをひそめ、問題ないと思ったわたしは、次に社会復帰への道のりを模索し始めました。


デイケアと就労移行支援



退院したわたしは、その翌日から病院の方々の勧めでデイサービスに通うことにしました。家に居てもやることが無いし、何より家族に迷惑を掛けてしまうと考えたからです。自然に囲まれた場所で、ヨガやストレッチ、作業療法やソフトボール等をして体力をつけながら他の利用者さんと会話しているうちに自然と心が安らぐようになっていきました。そしてそこのスタッフさんに紹介されたのが今通っている就労移行支援施設です。

様々な世代の人たちが、色んな問題を抱えながらそれでも必死に就職へ向けて頑張っているその場所は「大変なのが自分だけではない」という勇気をくれます。今は暖かいスタッフの皆様と家族の支援を受けながら、就職へむけ毎日トレーニングをしているという現状です。体調は万全そのもの。デイケア含め出席率は100%を保持し、殆ど問題なく日々の生活を楽しんでいます。


まとめに



統合失調症は、その実態を知らない人には恐ろしい病気に見えるかもしれませんが、適切な治療と周囲のケアがあれば、問題なく社会生活を再開することができる類の病気です。わたしの場合は周囲の理解があった為、事なきを得ましたが、今も尚、寝屋川の事例の様に大変な目に遭われている方がいるのではないかと思い、この度は筆を執らせていただきました。

此処までお読みいただいて、ありがとうございます。どうか、私の拙い経験談が誰かのお役に立てればと願わずにはいられません。


参考文献

4段階のステージ - 統合失調症ナビ
https://www.mental-navi.net

寝屋川監禁事件 精神疾患の家族は地獄
http://t-yoshimura.doorblog.jp

「療養生活させていた」「満足の食事与えたつもり」「『暑い』と言って服を脱ぐ」…再逮捕の両親、容疑を否認 大阪府警 - 産経新聞
http://www.sankei.com

KENT

KENT

大阪府出身の30歳、男性。
古くから精神的な違和感を抱えており、2017年に、統合失調症と診断されました。
現在、精神保健福祉手帳を申請中。
就労移行支援事業所に通いながら、長期就労を目指しています。
趣味は読書、音楽鑑賞、野球。特技は朗読、歌唱、水泳です。

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