発達障害のある人は、相手の顔と名前を覚えるのが苦手?

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発達障害の方から耳にするエピソードの一つは、「人の顔が覚えられない」ことです。私自身も人の顔や名前を覚えるのに、時間を有するタイプです。人の顔や名前が出てこない、というのは障害者に限る話ではありません。それでも、今後は研究が進むと思いますが、顔認知の難しさは、発達障害の特性に関係するようです。そのことについて、今回も私自身の幼少体験をふまえて紹介します。

相手の存在を忘れる

幼い頃の私は今とは考えられないほどに、自分の世界にこもるのが好きな子どもでした。そのせいか、相手の顔も名前も覚えようとしませんでした。相手と何をして遊んだということは記憶に残りますが、相手が誰なのかを分かっていませんでした。後に母から、「あの時あの場所で〇〇君と楽しそうに遊んでたよ?」、と聞かされても「え?誰?」ってなることがあります。

さすがに顔を毎日合わせれば、私も相手の顔と名前を覚えられます。それでも昔から今も、場面が変わると相手が自分の知っている人がどうか認識し辛いことがあります。一度覚えたとしても、しばらく会っていないと「あの人を知っているはずなのに、名前何だったっけ?」、と時間をかけてしまいます。大学時代では、同じゼミの同級生Aさんを知っているはずなのに、別の教室で声をかけられるとその方がAさんだとすぐに認識できませんでした。だいぶ時間が経ってから、「あー!あの人Aさんだったじゃないか。何で私気付かなんだ!」、と自己嫌悪に陥っていました。中学校では、BさんをCさんと間違えて呼んだことで、「違うよー!」と相手に散々怒られたりもしました。

そういった特性に加え、小学校・中学校時代の傷つき体験もあってか、私は多くの人と親しくなることを避けるようになりました。せっかく相手が私のことを覚えてくれたというのに、自分は相手を忘れている。仕事や学校以外の場面では、相手に不快な思いをさせたくないと思い、つい相手のことを知っているフリをし、話を合わせてしまうことがあります。そんな失礼な自分を責めたくなることも、時折あります。

顔と名前が出てこない理由

発達障害、とひとまとめにはされても、種類はありますし、同じ診断名を受けても症状には個人差が大きいです。私の特性でもある自閉スペクトラム症の方の場合、人の顔と名前を覚えない、思い出せないのは、「コミュニケーションと社会性の困難」に由来すると思います。自閉スペクトラム症は、興味が非常に限られているため、自分の好きな鉄道や記号、高度な専門知識などに詳しい反面、流行りものや常識がよく分からない方が多いです。彼らにとって「興味を抱けない」対象には、「他者の存在」も含まれています。また非言語的コミュニケーション(ジェスチャーや表情の微妙な変化から相手の感情を想像する力)が苦手な方も多いです。

最近の研究では、発達障害者には脳機能の一部の働きが弱いことが知られています。特に人の顔を認識する、他者に興味を抱く部位が活性しにくいようです。その特徴は、特に自閉スペクトラム症に強く出ます。忘れっぽさが特徴の一つである注意欠如多動性障害や、書くことや計算などが苦手な学習障害の場合も、自閉スペクトラム症の傾向が入っていると、顔認知に弱いところがあるようです。

自分なりの工夫・対策で不安を解消

最近の私が心がけていることは、「相手の名前をメモする」ことです。相手の顔と名前を覚えにくいことに加え、聴力の弱さから相手の名前を聞き取れないことも多いです。そのため相手の了承をあらかじめもらったうえで、名前をメモさせていただきます。名前を覚えようとするのは、相手に関心を抱いている証であり、嫌な気分になる人はめったにいないと思います。

二つ目の工夫は、「予告の力」です。自分の特性について、自分の方からあらかじめ相手に「予告」しておくと、互いに気が楽になります。状況にもよりますが、障害や診断名まで話す必要はなく、ただ「〇〇が苦手だから〇〇をして工夫しますが、よろしいですか?」、と伝えるだけでも効果的です。この時も、ただ苦手なことを伝えて終わるのではなく、自分なりの工夫・対策を述べると、相手も理解を示してくれると思います。交友などのくだけたシーンでは、「人の顔を思い出せない症候群です!」、とユーモアを交えて予告しておくと、相手も自分も気楽になれました。

おかげで今は、一緒に外出したいと思える親しい友人ができるようになりました。幸い、本音で話し合えるほど親しくなることができれば、その人達の顔と名前は忘れないようになりました。未だ試行錯誤と練習を重ねている最中ですが、今後も続けていきたいと思います。

まとめ

・発達障害の方が人の顔と名前を覚えにくいのは、生まれつきの脳機能の特性から来るもの。
・相手とのやりとりにおける不安を軽減するため、なによりも相手と良い関係を築くために工夫や対策を考えることはできます。
・対人恐怖や、工夫・対策が上手くいかなかったことで、落ち込むこともあります。
・その場合、「メモ」や「予告」も一つの方法ですが、自分にとってやりやすい方法を誰かと相談しながら一緒に考えていくのも、いいと思います。

顔と名前を覚えるために、あなたが自分なりに工夫しているのであれば、それはちゃんと「誠意」として相手に伝わると思います。

皆様にとって少しでも参考になれば幸いです。ご拝読ありがとうございました。

参考文献

岡田尊司(2013年)『アスペルガー症候群』幻冬舎

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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