全般性不安障害とは?〜抑えきれない不安に囚われて

パニック障害・不安障害

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あなたが日常生活で不安になることは何ですか?電車が今日こそ脱線したらどうしよう。今日こそ車で人をひいてしまったら。恋人からの電話が減っている理由は心変わりでは?
私達は日常にありふれた不安を抱えながらも、何とか生活しています。しかし、あまりにも強い不安が急に浮かび、仕事や勉強にも手が付けられず、体調まで崩してしまう方がいます。
ただの心配性とは違う「全般性不安障害」とは何か、治療について解説します!

全般性不安障害とは?

全般性不安障害とは、日常的なあらゆる出来事に対する過剰な不安が続いている状態のことです。とはいえ、不安というものは生きている限り、大きかれ小さかれ誰もが抱くものです。では、普通の心配性と全般性不安障害の不安との違いは何か、二つの例を比べて説明します。

A子さんとB子さんは、共に40代で専業主婦をしています。最近、二人の子どもが大学進学をきっかけに、遠く離れた街で一人暮らしを始めました。実家で一緒に暮らしてきた我が子がいなくなり、夫も仕事の関係で帰りが遅いので、二人ともさびしさを覚えました。

A子さんの場合:大学に通いながら一人暮らしをしている子どもを、当然心配していました。ちゃんとご飯は食べれているのか、大学で友達と上手くいっているのか。時々そんな心配もありますが、A子さんは我が子なら大丈夫と信じています。電話も、時々かけるくらいでいいだろう、と考えています。子どもと過ごす時間がなくなったので、最近は気晴らしに近所のママ友とお茶をしています。

B子さんの場合:大学進学に一人暮らしの子どものことが、常に心配でたまりません。大学で友達と上手くやれているのか。サークルで悪い人にからまれたり、酒飲みを強要されたりしていないか。最悪、近い将来救急車に運ばれるような事件に巻き込まれるのでは。不安でたまらないB子さんは、子どもに毎日電話をかけました。子どもは特に問題はないようですが、それでも不安は治まらず、B子さんは家事や趣味にも手が付けられません。最近やけに肩こりがひどく、寝不足も続いています。

このように同じ心配ごとを抱えても、A子さんのようにやり過ごせている場合と、B子さんのように過度な不安で日常生活に支障が出る場合があります。B子さんは、大学進学と一人暮らしの子どもを心配し過ぎるあまり、起こりうる悪い状況が次々と浮かべてしまいます。さらに最悪の想像まで広げてしまい、日常生活にも手が付かない状態です。通常ならやり過ごせるはずの不安も強くてたまらず、仕事や勉強、人付き合い等の日常生活にも手がつかないのです。本人も気にし過ぎだと分かっていても、不安や心配をコントロールすることができないのです。

全般性不安障害の診断

DSM5(アメリカの精神医学会が作った精神疾患の診断基準マニュアル)では、漠然とした不安が日常的に続いていることに加え、以下の症状6つのうち3つ以上が、6か月以上続いていることが条件です。

①緊張が強く落ち着かない
②疲れやすい
③集中力の低下
④やけに怒りっぽい
⑤体の筋肉のコリがひどい
⑥眠れない、熟眠できた気がしない

どれくらいの人が、何故なるのか
・全般性不安障害の生涯有病率は3%〜5%で女性に多く、100人に3〜5人は一生の内に全般性不安障害になるということです。

・全般性不安障害になりやすい性格として多いのは、「〇〇しないといけない。失敗してはいけない」という完璧主義や、「きっと失敗する」、「必ず悪いことしか起きない」、「まったくダメ、できていない!」等否定的な考えや不安に囚われやすい特徴が見られます。

・最近では、本人の性格や心理的ストレスに限らず、脳を含む生物学的要因の関与も考えられるようになりました。
①セロトニンと呼ばれる、安心感や意欲を与える脳のホルモンが少ない、敏感な気質等。
②がんや心臓病等の身体疾患、うつ病やパニック障害等の精神疾患の影響。
他の精神疾患にも言えることですが、脳を含む遺伝的要因から身体的要因、人間関係やストレス等の心理的要因等が互いに影響し合うことで、全般性不安障害は発症すると考えられます。

・パニック障害との違い:パニック障害では、動悸・息苦しさ・めまいなどの身体症状が強く、発作時間も約数分から長くて1時間で治まります。また電車に乗っている時等、パニック発作を起こす状況やきっかけが、本人にも明確なので、「乗っている時に、また発作が起こったらどうしよう」、という予期不安があります。
全般性不安障害ではむしろ①状況や理由がはっきりしない②実際に悪いことが起きていない時も過度な不安が襲ってくる、という違いがあります。

最近は不安障害よりも、不安症と呼ばれるようになっています。理由は、「障害」を強調すると、治らない病気だという誤解を抱く人もいるからです。とはいえ障害という言葉を使う方が、全般性不安障害は単なる心の弱さや心配性ではなく、専門的な治療を必要とする状態だという正しい知識と理解に繋がる等、賛否両論もあります。

全般性不安障害の治療と対処

代表的な薬物療法
ベンゾジアゼピン系の抗不安薬:心身の緊張や不安を和らげ、神経を鎮めてくれるので、睡眠の改善にも有効です。即効性は高く、飲み方と量を守れば安全です。ただし飲み過ぎや他の薬との併用によっては、眠気やふらつき、依存等の副作用が強く出ます。

SSRI(セロトニン再取り込み阻害薬):抗うつ剤の一種で、安心感や意欲、リラックスを与えるセロトニンが脳で増えるようにします。抑うつの他、不安や緊張等にも効果的です。効果が出るまで二週間以上を必要としますが、新薬で有効性は高いです。ただし、人によっては飲み始めの頃に、※賦活症候群によって逆に不安発作や緊張、焦燥が高まることもあります。服薬の際は、医師とよく相談し、異常があればすぐに受診してください。

※詳細は、過去のコラム「パニック障害VS賦活症候群〜治るために薬を飲むか、飲まないか」を参照してください。↓
https://shohgaisha.com

心理療法によるアプローチ
①認知行動療法
物事のとらえ方や考え方が偏っている・悲観的であることが、過度な不安を増長させると考えます。認知行動療法では、自分を苦しめる考え方から脱し、より現実的な思考・行動パターンへ修正していきます。修正と聞くと堅苦しく感じますが、偏った考え方を変える認知行動療法には、患者さん本人との信頼関係と納得が前提となります。

B子さんの例で考えると、①「子どもが大学の友達と上手くやれているか」という出来事に対し、②「大学は友達やサークルによる一気飲みや事件等、危険なもの」という不安・考え方が浮かび、③「子どもは大学で悪い友達や事件に巻き込まれているかもしれない」という結果の想像と「毎日電話しないと不安で何もできない!」という行動に繋がっています。

認知行動療法では、②の考え方と③の行動に働きかけます。まず②の考え方に根拠はあるのか、別の可能性や解釈についても一緒に考えます。B子さんの子どもが友達作りを苦手としていなければ上手くいっている可能性、最近の事件を考慮し、安全配慮と注意喚起に取り組んでいる大学やサークルもあること、一気飲みなどがあったとしてもB子さんや仲間がちゃんと断れている可能性等、を考えてみます。さらに③では、「毎日電話をかける」という行動に代わるものを考えます。危険が起こった際の対処法等について子どもと打ち合わせをしておく、家で一人にならないように外出する等、不安を和らげる適切な行動を身に付けていきます。

②支持的精神療法・心理カウンセリング
医療機関の精神科医による支持的精神療法では、患者さんの不安や話を傾聴し、苦しみや努力に対するねぎらいや励ましの言葉をかけることによって、安心と自己肯定感を取り戻せるようにします。臨床心理士等による心理カウンセリングにおいても、傾聴によって患者さんのありのままの想いを受け止め、肯定し、気持ちの整理ができるようにします。

全般性不安障害の患者さんの中には、家庭や仕事、お金、将来への不安を含む生活面や人間関係の悩みを抱えている者も少なくありません。生活や人生における大きな悩みや不安が、全般性不安障害等の苦しい状況を強めている可能性も考えます。服薬によって心身のリラックスを促す治療、心理療法なども組み合わせることによって、より効果的な治療が期待できます。上記の代表以外にも、あるがままを受け入れる森田療法や、呼吸法を取り入れたマインドフルネスなど、様々な心理療法を試してみる手もあります。

まとめ

全般性不安障害について、以下にまとめます。

・全般性不安障害とは、日常生活の何気ない不安が過剰に出てしまい、それによって日常的な心身の不調や社会生活の問題が続いている状態です。

・100人に3人〜5人が生涯のうちに発症する身近な病気であり、女性に多いです。

・発症する要因は、完璧主義や悲観主義など性格や心理的ストレスに留まらず、脳の敏感さや身体疾患など、様々な要因が考えられます。

・代表的な治療は、薬物療法による心身の不調改善とリラックス、心理療法によって偏った認知と行動の修正、不安を悪化させるストレスや悩み、心の整理への働きかけなどがあります。

全般性不安障害とは違いますが、私も不安が強い性格です。特に小学校でいじめと不登校を経験し、20代で自閉スペクトラム症である自分、他人の視線を意識するようになりました。それ以降は、不安発作にも悩まされました。当時の私は、「こんなことぐらいで不安になる自分は弱いのでは」、「不安が高じてトイレが近くなり、友達との食事にすら気遣う私は変なのか」、と自分を情けなく思っていました。

けれど今の私は不安を感じてはいけない、と自分を追い詰めることをやめました。むしろ「不安を感じてもいいよ、失敗してもいいよ」、「よく頑張ったね」、と自分を褒めてあげるようにしています。正直な所、実際に上手くいかなかったことや、人に怒られた時は不安が悪化し、ひどく落ち込むことはあります。

それでも、「結果的には上手くいかなかったけれど、良い経験値をつめたね、お疲れ様」、と相手や周りが何を言っていても、自分なりの考えを持つように心がけています。

また不安が強い人のほうが、同じように不安や苦しんでいる人に対しても、理解と思いやりができると思います。おかげで、私の周りには私と一緒にいると安心すると言って、理解を示してくれる友人にも恵まれました。

あなたの不安が、いつかあなたや周りへの思いやりや希望に繋がる日が来ることを祈ります。

参考文献

・日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き』医学書院

・日本精神保健福祉士養成校協会(2016)『精神疾患とその治療・第2版』中央法規

・越野好文・他(2011)『好きになる精神医学』講談社

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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