映画『NO 選挙,NO LIFE』多様な全ての候補者と向き合う畠山理仁さんの想い
エンタメ前田亜紀監督の新作「NO選挙,NO LIFE」が公開されています。この映画は、「全員取材」を掲げてあらゆる選挙候補を取材するフリーライター・畠山理仁(みちよし)さんを主役とする密着ドキュメンタリーです。いわゆる「泡沫候補」と呼ばれる人々にも真摯に向き合い、候補への取材で全国を駆け巡る畠山さんの生き方は、マイノリティを取りこぼさない姿勢として一種の共感を覚えます。どのような想いで取材されているのかを聞いてみました。
政治家を志す者こそ無名の記者を大事にせよ
──取材のモチベーションは何ですか
「僕自身が無名のフリーランスライターなので、取材先でぞんざいな扱いを受けることも多いです。僕の取材先は選挙で公の職に就こうとしている人なのだから、誰に対しても開かれた人間であってほしいと思うのですが、『知らないライターの取材を断るのは政治家の自由だ』という風潮を痛感しています。無名な記者こそ大事にしてほしい気持ちがある中、世の中から相手にされなくても自分のやりたい事をやる候補者の方々にシンパシーを感じています。彼・彼女らの事を知ってもらいたいし、取材の中で候補者たちの熱量も知っています。彼らを切り捨てて安穏としている主要政党の候補などには、こうしたパワフルな存在に対して焦ってもらいたい」
「今の選挙には競争や緊張感というものが乏しく、今まで通りの選挙戦で仲間内の支持を固めれば議席が取れる状況です。だからこそ、一人ひとりの候補者が同じ土俵で戦えるようになって欲しいと思って活動しています。また、日本人は選挙に出る人を馬鹿にする傾向が強いのですが、それは無名の有権者である自分すら貶めているのだと知ってもらいたいですね。一人ひとりが大切にされ、好きなことをやっていいと肯定される社会こそ豊かなのだと思います。他人を馬鹿にして仮想敵を叩くことでしか自分の存在確認が出来ないのは貧しいですからね。それぞれが権利を主張し、誰もが持つ被選挙権を認められるようになって欲しいです」
「勝てないと言われている候補も、当選するため頑張っている一方で勝ち目の薄さを分かっています。それでも自分のやりたい事を貫く姿勢は凄いことですし、そういう年上の候補を見ると自分にとっても元気を貰えます。だから選挙取材の行脚は僕にとって温泉旅行のように元気が出ることなのです」
当選だけが価値ではない
(C)ネツゲン
──障害者やマイノリティの立候補を増やすにはどうしたらいいですか
「先人となる立候補者は何人かおりまして、例えば舩後靖彦さんや木村英子さん、『あかさたな話法』の天畠大輔さんには勇気づけられた当事者もいらっしゃるのではないかと思います。また、世の中には色々な人間がいるからこそ社会が成り立っています。マイノリティがどんどん立候補するためには、社会が候補者を馬鹿にしないこと、そして立候補が権利で保障されていることを理解することが必要です。報道する側も、取材しやすい主要政党ばかりでなく、声が届きにくい候補者のことも世間に発信していくべきではないでしょうか。力のない者や声の小さい者も一緒に社会を作っているという意識を共有するには、社会全体が豊かになって余裕がないといけません。余裕を作るには、結局選挙の機会を活かして候補者を増やしていく必要があります」
「それにしても、障害を持つ方が立候補することで社会や制度は確かに変わっています。かつて発声できない候補が立候補して、無言の政見放送をしたことがありました。それで次から原稿を提出すれば、政見放送はアナウンサーが代読でできるように改められました。手話通訳も許可されました。また、政見放送に介助者が映り込めるようになったのも天畠さんの功績です。当選が唯一の価値ではなく、立候補だけでも価値があるのだと人々に認識してほしいなと考えています」
蔑ろにされてきた泡沫候補のために
──中立的な立場を保つ一方で、候補者に対して畠山さんの思いを発言する場面には、ハッとさせられました
「独立系の候補は、自分が軽んじられていることを意識しています。なので、取材に行くと『畠山のことを探していた。自分を一人の候補者として見てくれるのは畠山だけだ』とよく言われます。いつも他人から蔑ろにされてきた存在なので私もその気持ちはよくわかります。他の候補が、公の職に立候補しながら他人の人権に対して無頓着な様子には怒りを覚えたので、思わず言ってしまいましたね。一人ひとりの権利というのは、最低限守られるべきものです」
映画『NO 選挙,NO LIFE』は、東京のポレポレ東中野、大阪の十三の第七藝術劇場、京都の京都シネマなどで全国で公開中。1月12日からはMOVIX昭島にて上映予定。
映画『NO 選挙,NO LIFE』公式サイト
https://nosenkyo.jp/