経営不振のA型事業所が潰れるまでの実録

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就労継続支援A型事業所には、利用者への給料は事業の利益から捻出せねばならないルールがあります。昔は、福祉事業として国から支給される補助金を利用者への給料に充てることが出来ていました。しかし、そのせいで補助金をあてにした小遣い稼ぎがまかり通っており、これを経営者に教えるコンサルまで存在したそうです。こうした事業所は障害者の飼い殺しでしかなく、社会進出を妨げる存在です。

ルールが厳格化された2017年は、すべてのA型事業所が襟を正すことを強いられた巨大な転換点となります。週20時間でも最低賃金となれば1人あたり月7~8万円は出さなくてはいけません。これまで補助金頼みで運営していた事業所が、B型と変わらない軽作業でこれだけの利益を出すのは、ハッキリ言って無理です。

2017年を境に、補助金頼みで利益の出せないA型事業所は経営不振で次々と倒産していきました。自力で稼いで利用者へ賃金を出せる事業所しか生存を許されない時代となったのです。ただ、この「健全化」の裏で潰れた事業所が全て怠け者だったわけではありません。努力が利益に結びつかず、やむなく補助金を切り崩していた事業所もまた、「健全化」の奔流に呑まれていきました。

私はかつて、この時代の転換に鉢合わせて儚く消えたA型事業所に所属していました。経営不振に陥り潰れた事業所の記憶を保持しているわけです。そこで、A型事業所が潰れるまでの経緯を実体験から書いていきましょう。

出来たての事業所に受かる

その事業所は2015年9月に設立され、A型事業所としての仕事を11月から始める予定でした。私を含めた5~6人くらいの男女がそこの採用で受かり、出来たての事業所で最初のメンバーとして働くことになります。そう、実際に雇用契約を結んで“働く”のです。

最初はとても緩い雰囲気の事業所でした。疲れたら横になれるスペースもありましたし、茶菓子をつまむことさえ出来ました。12月のある日には、午後時間をすべて使ってささやかなパーティーも開かれ、宅配ピザを囲んだことも覚えています。

主な仕事はデータ入力で、親会社が仕事で必要とするテレアポ用の名簿などを皆で作っていました。それ以外にも色々なことに挑戦しており、古着などを通販サイトで販売したり、外国人向けに日本の色々なものを解説する記事を作ったり、こうした事業を各々に適した作業でこなしていました。

利用者や職員の増減はあったものの、傍から見てもよく仕事が出来ている利用者も何人かいました。最初はXP搭載の古いノートパソコンだけだったのが、仕事内容のグレードアップに伴い当時の現行に近いデスクトップへと進化していきました。

2016年の間はパソコンでの仕事を中心に受注へ励んでいたと思います。特に執筆系の業務には力を入れており、タイピングの絡まない作業は無かったでしょう。内職のような軽作業はごくまれで、台本のある執筆もデータ入力くらい、元となる記事があっても文章を考えるのは自分です。事業所の個性は確立されましたが、個性だけで生き残れなくなる時代は目前に迫っていました。

貧すれば鈍する

2017年に入ると、段々と事業所の雰囲気がピリピリしてきました。法改正は4月からですが、それ以前から経営改善のため奔走しており、実を結んでいなかったのでしょう。出来て間もないA型事業所に安定した業務を発注してくれる場所など、なかなか見つからないものです。

クラウドソーシングでの仕事探しに着手しだしたのもこの辺りからです。実働は1日5時間と他のA型事業所よりは長いですが、クラウドソーシングで仕事を受注する身としては少ないでしょう。限られた実働時間でもこなせる仕事をクラウドの場に求めたのです。実際に受注して執筆したのは、情報商材や出会い系などの誘導記事が多かったです。

経費削減かデスクトップが何台か減らされ、古いXPのノートパソコンが復活しました。成績や能力が低ければそこへ移すという脅しに感じられたものです。この方針をサビ管(この時4代目くらい)は「良いパソコンが宝の持ち腐れになることもある」「皆の反感を集めるのも、支援員の仕事のうち」と強気に説いていましたが、何の言い訳にもなっていませんでした。

かつて茶菓子を置いてパーティーを開いた頃の面影はもうなく、法改正による経営の行き詰まりがそのまま事業所の雰囲気へと反映され、職場環境は悪くなっていきました。仕事の出来る利用者から離れていき、更なる悪循環に陥ります。いわゆる「悪しきA型」ではなく、寧ろ必死に仕事を探しているようでしたが、真面目に努力をしてもそれが利益に結び付くかどうかは別問題です。

小手先の仕事探しやコストカットが功を奏する筈もなく、事業所は設立から2年を待たずに2017年8月末をもって閉鎖されることとなりました。親会社からも仕事は発注されており、親会社の社長も施設長の舅というコネまであったのですが、事業所の存続には何ら関係なかった訳です。

「アガリさん」の暴走

事業所の落ち目を象徴していたのが、ある男性支援員の存在でした。彼は元々利用者だったのですが、何の因果か支援員として採用されることになった人です。利用者上がりで支援員になった彼のことは「アガリさん」の仮名で呼びましょう。

率直に言って、アガリさんは「無能な働き者」そのものでした。事業所の経営が悪化するに従って彼の独り善がりな暴走はエスカレートし、職場環境をより悪くしていったのです。利用者の時に何を気に入られたのかは知りませんが、彼は決して目上に置いて指導させるのに適した人材ではありませんでした。

ある日の朝礼、アガリさんはある利用者に(皆の前で)きつく注意をしました。通院で欠席していたので詳細は知りませんが、どうやら前日に喧嘩しており、それが尾を引いていたようです。その利用者はアガリさんの説教に納得がいかないのか、わざとらしく溜息をつきます。

すると、アガリさんは烈火のごとく怒り出し「その態度は何だ!この際ハッキリ言わせてもらうが、お前みたいな奴が一般就労など無理だ!」と(皆の前で)激しく面罵しだしたのです。その利用者は泣き出して早退し、アガリさんは他の支援員に宥められ、他は不気味なほどに何の反応も示さない地獄のような朝礼となりました。

別の利用者に「皆の前で怒鳴りつけるのはよくない」と窘められても、「こんなことはどの会社でもやっている。一般企業なら当たり前だ」と自己正当化する始末です。結局、施設長から指導されるまで自らの間違いを認めませんでした。

アガリさんのエピソードは他にもあります。気に入らない態度を見かけたらすぐ飛んでいき、肩をバンバン叩きながら“指導”することが数回ありました。仕事ぶりの良かった利用者が「他人に気安く触れないでください」と言い返したのを最後に辞めた出来事もあったので、利用者が離脱した原因の一つであることは間違いないでしょう。

「利用者のパソコン画面を監視するツールを入れた!」と誇らしげに宣言したのもアガリさんでした。しかし執筆に必要な調べ物をしていても「なんでこのサイトを見てたんですか?サボってたんじゃないんですか?」と詰めてくる有様で、結局「指導している」というポーズをとるための道具で終わりました。他の支援員に指摘されたのか、監視ツールはいつの間にか止めています。

これほどの問題児でありながら、アガリさんが中途退職することはありませんでした。猫の手も借りたいということなのでしょうか。業績を回復させるために頑張ろうとした気合は伝わりますが、その為にやったことがどれも的外れで空回りしていた点は否めません。利益を上げるのに必要な仕事探しはほとんど、設立当初からいた支援員がやっていました。先人の教えに逆らって「無能な働き者」を要職に就けるとどうなるかの貴重な実例を目の当たりにしました。

最後の義理

施設長はあまり顔を出さないものの、アガリさんや4代目サビ管に比べればずっとまともな人間でした。不適切な指導を改善させようとしたのもそうですが、何より好感を持てたのは「非常につらい時でも、人としての義理をちゃんと果たしてくれたこと」でした。

事業所は潰れてしまいましたが、私を含む利用者たちは全員「会社都合による失業保険」を受けることが出来ていました。企業として当たり前の事ですが、自分が一番つらい状況の中で「当たり前の事」をしっかり出来るのは人間としての強さでもあります。最後の義理を果たして閉所を受け入れた施設長は「武士」だったと思います。

故に、法改正の事を知る前から事業所そのものには悪い感情を持っておりません。寧ろ、法改正について知ってからは「時流に見放された被害者」とすら思っています。とはいえ、倒産で放り出されたからこそ移行支援から今の仕事へと繋がっている訳なのですが。

これは余談ですが、閉所に際して2代目サビ管だった人が、閉所後のアドバイスをしたいからと駆け付けてくれました。私には「執筆のスキルはあるから、それを就職に活かすべき」と伝えてくれましたが、実はこの時点で私に「文章が書ける」と褒めてくれたのは小学5年生の時の担任と2代目サビ管だけでした。国語の先生に文章を褒められたことは一度も無かったのですが、今こうして執筆を生業としているということは、予言者としてはあの2人の方がずっと上だったのかもしれません。(ひとくちに文章の執筆と言っても、小説や論文やネット記事などで必要な素養が異なってくるそうですが)

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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