「自分のつらさを言い訳にするな」誹謗中傷にハマっていた匿名男性の重い言葉

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Photo by Tom Pumford on Unsplash

2024年2月、「弁護士ドットコムニュース」はある一人の匿名男性を取材していました。その男性は、いわゆる企業Vtuberに対して誹謗中傷やプライベートへの質問といった「荒らしコメント」を2000件以上繰り返した前歴がありました。耐えかねたVtuberは活動を停止し、所属企業も大きな損失を被ります。

誹謗中傷にドハマりしていた男性へ送られたのは、損害賠償請求訴訟の提起を予告する書面でした。男性には支払い能力が無く、必死に企業と交渉して示談へと持ち込んだそうです。男性は取材に対し、誹謗中傷にハマった原因となる生い立ちなどを語りました。

毒親育ちの過去

男性の母親はかなりの「毒親」で、良い事は「自分が信心深く祈ったから」と自惚れ、悪い事は「お前の信心が足りないからだ」と責めてくるような人間でした。大学進学も認めず、高卒フリーターで得た僅かな給料もほぼ全部搾取する有様で、度重なる人格否定と経済的虐待によって男性はうつ病を患います。幸運なことにネットで知り合った善良な有志の手引きで男性は家を離れて一人暮らし出来るようになりました。

しかし、物理的には離れられても毒親の記憶は常に男性を蝕み苦しめてきます。暴言や人格否定がフラッシュバックするたびに男性は不安定となり、SNS上の知人に被害妄想をぶつけて絶交され後悔するようなことを繰り返していました。訴訟のきっかけとなる荒らし行為もその延長線上にあり、「みんな不愉快な気持ちになればいい」とヤケになっていたそうです。

始めは衝動的でしたが、男性は荒らし行為にすっかりのめり込んでしまいました。「ブロックされたら別のアカウントで荒らす」「起きている時間は全て荒らしに費やす」「誹謗中傷と見られないよう疑問文にする」「自分がされて一番嫌なことをする」と、荒らしていた当時の心理状態を振り返ります。

やがて、標的にしていたVtuberが引退を表明すると、男性はひどく焦ったと言います。訴訟の予告通知が届くまで1年ほどありましたが、男性は「辞めた原因は自分の荒らし行為ではなく、別にある筈だ」などと現実逃避をしていました。訴訟が現実味を帯びたことで後に引けなくなった男性は、ようやく企業へ謝罪と交渉を重ねることとなります。

自分のつらさに他人を巻き込むな

どうにか示談にしてもらったとはいえ、誹謗中傷にハマったせいで強烈なしっぺ返しを食らった男性。元加害者として、誹謗中傷関連のニュースでは加害者側の境遇にも思いを馳せることがあるそうです。その上で、取材に対しこう訴えかけました。

「誹謗中傷の報道をニュースで見るたび、加害者の中には無職の人や私よりひどいと思われる状況にある人も見受けられる。そうだとしても、それは言い訳にならないし、誹謗中傷をする前に立ち止まることができると思う。自分の辛さに他人を巻き込むのは何よりやっちゃいけない。私は立ち止まることができなかったが、もう二度と同じことをやってはなるものかと覚悟している」

毒親育ちの傷から誹謗中傷にハマった過去を持つ人間ならではの重みがある言葉です。過去につらい経験や事件があったとしても、被害者にとって知ったことではないですし、加害を正当化する言い訳として持ち出すのは卑怯というほかありません。

ネット上では、過去の傷を言い訳に好き勝手しているアカウントが掃いて捨てるほど存在します。支援学級絡みの嫌な体験からヘイトをばら撒く障害者アンチや、異性からの酷い仕打ちを理由に性の差別や分断を煽るミサンドリストやミソジニスト、受験の失敗をいつまでも引きずる学歴コンプレックスなどです。いくら被害者感情を表に出したところで、今やっている加害行為が許される道理はありません。

しかし、彼/彼女らはあの匿名男性以上に荒らしや誹謗中傷へ依存していますし、なんなら同じ思想の人間で集まって過激発言を競い合ってすらいます。最近でも、あるミサンドリストが「聴覚障害が残るほど男児を引っ叩いてやった!」と暴力事案を誇らしげに投稿し、これに礼賛する同好の士が湧き出てくる出来事がありました。当人なりの理由があったにせよ、子どもに後遺症が出るほどの暴力を振るって褒められるようなコミュニティは率直に言って異常です。

話は逸れましたが、過去につらい体験をしたからといって、いわゆる「指殺人」が正当化されるなどという甘っちょろい考えは、大の大人が持っていいものではないです。思慮や社会経験の乏しさからくる誹謗中傷についても同様で、いかなる言い訳も被害者にとっては知ったことではありません。それを理解していないから過激な書き込みをしているのでしょうけれども。

「家庭の問題であって、社会に不満は無い」

この匿名男性は未だ社会との接点を持てておらず、動画の視聴やSNSの投稿は「生きがい」として続けています。ただ「次は本当に罪に問われる」という意識もあってか、投稿の前に一呼吸置いて考え直す癖をつけるようになり、途中で書き込みをやめることも珍しくなくなったといいます。

「誹謗中傷にハマった」とは書きましたが、私見だとこの男性は“軽いほう”ではないかと思います。依存症治療のメソッドで考えるなら、以前と同じネット環境のままでは程なく再犯する未来しか見えません。しかし、書き込みに対して思慮深くなり、問題を再発させず今まで過ごしています。

社会の問題もあるのではないかと記者に尋ねられると、男性は「私に限れば完全に家庭の問題。社会への不平不満は無いし、寧ろ感謝すらしている」と答えました。家庭と社会を弁別した回答でした。訴訟寸前まで陥って一皮剥けたのか、元々そうだったのかは分かりませんが、この男性は本質的に「強者」だと思います。弱者叩きで虚勢を張るような見せかけの強者にないものが、あの回答には込められています。

どれほどつらい過去を抱えていても、どれほどつらい境遇の中にいても、好き勝手に他人へ突っかかったり傷つけたりしていい理由にはなりません。巻き込まれた被害者にとって知ったことではないですし、何より「苦痛の連鎖」を自ら繋ぐ愚行ですらあります。ゆえに、この言葉をもう一度載せましょう。「自分の辛さに他人を巻き込むのは何よりやっちゃいけない」

参考サイト

ライブ配信に2000回以上「荒らし」連投、匿名投稿者の半生と後悔
https://news.yahoo.co.jp


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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