発達障害と共感覚~そのリンゴは何色か
暮らし 発達障害出典:Photo by Greyson Joralemon on Unsplash
みなさんは「共感覚」をご存知でしょうか。例えば「黒い色で書かれた文字に色がついて見える」といった感覚をもつ人たちがいるのです。その割合は、最近の研究では人口全体のおよそ4%といわれています。そして、私もこの共感覚をもっています。今回はこの共感覚、そして発達障害との関連についてお話していこうと思います。
共感覚とは
そもそも共感覚とはいったい何なのでしょうか。関西学院大学の長田典子氏によると「共感覚(synesthesia)は,『一つの感覚の刺激によって別の知覚が不随意的(無意識的)に引き起こされる』現象である」(『日本色彩学会誌 第34巻 第4号』348頁 長田典子著 2010年)とされています。
具体的には冒頭で触れたように「(色のついていない)黒い文字で書かれた文章に色がついて見える」「音を聞いて味を感じる」「香りを嗅ぐと色を感じる」などといったものです。
共感覚の中でもっとも多くみられるのは、私のように「文字や数字を見ると色を感じる」=色字といわれています。つまり、私にはこのコラムが赤や青、緑や黄色といった「色とりどりに見えている」ということになるのです。
共感覚者である私の実際
おそらく多くの人々、つまり世の中の9割以上の人たちからすると、にわかに信じられない、もしくは想像がつかない感覚かもしれません。
ちなみに、私は共感覚をテーマにする某大学の研究に被験者として参加しており、その際「本当に共感覚者かどうか」のテストを受け、無事(?)合格しました。その意味では、一応専門家にお墨付きをいただいているといえます。
例えば、「あいうえお」という文字列では「あ」は赤黒く「い」は白っぽい水色「う」は薄い黄色「え」は朱色「お」はこげ茶色に私には見えます。
「12345」という数列だと「1」は赤「2」は青「3」は黄色「4」も赤「5」も青……といった具合です。
私が「自分は共感覚者かもしれない」と自覚したのは大人になってずいぶん経ってからでした。ある共感覚を扱うテレビ番組を偶然見たことがきっかけでした。そのときは非常に驚きました。
なぜなら、この感覚は生まれてこの方、誰もがみなあたりまえのようにもっているものだと思い込んでおり、疑うどころか他人に話したこともなかったからです。ところが、世の中の大多数の人は自分と違ったわけです。軽いショックを受けたことを覚えています。
なお、さきほど「私にはこのコラムが赤や青、緑や黄色といった色とりどりに見えている」と書きましたが、正確には少し違います。
多くの方と同じように黒色の文章の上に、もう一階層「文字に色のついたレイヤー」が重なって見える……といった感じなのです。そのため、普段は「文字に色のついたレイヤー」を意識しなければ、色を感じることはほとんどありません。逆に、その「文字に色のついたレイヤー」を意識すると、一転カラフルな文字列の世界が広がる、ということになります。
例えば、みなさんも遠くで道路工事の音が聞こえているけれど、気にはならない……といったことがあると思います。しかし、意識してその工事の音に耳をそばだてると重機の音や地面を削る音、鉄骨を運ぶ音などが聞こえてくる。その感覚に近いと言えます。
発達障害と共感覚
一説では、自閉スペクトラム症(ASD)の人は定型発達の人と比べて共感覚をもつ人の割合が高い、といわれているそうです。ほかでもない私も自閉スペクトラム症の当事者です。
その理由や原因、背景としてはいくつかの説が挙げられているようですが、総じていうと、脳の神経回路の分化が未発達なため、ある感覚刺激に対して複数の領域が反応してしまうことが考えられるとのこと。
これはまったくの私見ですが、発達障害(自閉スペクトラム症)の特性のひとつである感覚過敏や感覚鈍麻とも何か関連があるのかもしれません。
おわりに
私は共感覚をもっていますが、そのことで取り立てて得をしたこともなければ損をしたこともありません。強みとして役立てられることもなければ、障害として困ることもありません。それらがもしかしたら、共感覚というものが世の中であまりフィーチャーされることがない理由のひとつなのかもしれません。ただ、そのうえで私がみなさんにお伝えしたいのは、この世界は見る人によってまったく違う姿に見えている、という事実です。リンゴに目を向けたとき「私には赤く見えているから、他の人にも『同じように』赤く見えているはず」ということは決めつけや思い込みでしかないのです。
人によって物事から感じ取る情報や情緒、それらによって引き起こされる感情は千差万別。このことを意識するだけで、これまで行き違いやすれ違いを起こしていたコミュニケーションも少しずつ解決に向かうかもしれません。
参考文献
【日本色彩学会誌 第34巻 第4号 2010年 348―353】
https://hsi.ksc.kwansei.ac.jp