ADHDの報酬系と趣味や嗜好~好みにも障害特性があらわれる?
発達障害皆さんはどういった趣味をお持ちでしょうか?また、好みにはどんな傾向があるでしょうか?今回は、ADHDを持つ筆者の趣味嗜好の傾向を、ADHD(多動・注意欠如)の特性・・・特に報酬系との関連性から振り返りたいと思います。
報酬系とは?「ごほうび、まだなの?」
報酬系とは脳の仕組みの一部で、この仕組みが活性化すると“快感”を得られます。報酬系が活性化するタイミングとして、“報酬を得る”時だけではなく、“報酬を期待している”時にも活性化します。特に後者は行動の動機付けや、モチベーションの維持に関わってきます。通販で例えるならば、注文した商品が届いたというのが“報酬を得る”時、商品を注文して届くのを待っているというのが“報酬を期待している”時ですね。 ADHDを持つ人の場合、この報酬系の働きに特徴があることがわかっています。先に挙げた“報酬を得る”時と“報酬を期待している”時のうち、前者ではADHDを持たない人と比べて報酬系が強く働くのに対し、後者では報酬系の活動が比較的弱い、という特徴があります。つまり、報酬をまだ得ていない時にはなかなか快感を得られず、報酬を受け取った時にやっと快感を得る、という性質です。 この性質の為、ADHDを持つ人は成果を得る為の行動に対するモチベーションが起きにくく、またモチベーションを長期間維持し辛いという傾向があります。そのため、モチベーションを長期間維持する必要のあること・・・受験勉強や将来を見据えた貯金、健康維持のための運動などは苦手となるようです。逆に、成果や結果がすぐに出るようなことを好むという傾向もあるようです。言い換えれば、“なかなか得られない報酬よりも、すぐに得られる報酬を好む”と言えます。この件に思い当たる節があるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。ちなみに筆者も長期的なモチベーションが必要なことは大の苦手です。特に受験勉強については受験が目前に迫ってから始めるという有様でした。
趣味や嗜好の傾向 ~筆者の場合
では、筆者の趣味嗜好を報酬系という視点から見ていきましょう。まず趣味嗜好の大きな傾向として、受動的な娯楽はあまり好みではありません。受動的な娯楽の例としてはTV番組やラジオ、音楽を聞くなどが挙げられます。これらの娯楽を“単体で”楽しもうとすると、まず間違いなく退屈してしまいます。コンサート鑑賞や映画館での映画鑑賞は出来るのですが、湧き出てくる退屈を抑えているためか鑑賞後は非常に疲れてしまいます。自分のペースで楽しめない、言い換えるならば楽しくなるまでじっと待つ(=報酬を待つ)、というのはやはり苦手なようです。ただし、これらの娯楽を全く楽しまないかと言えばそうではなく、後述する能動的な娯楽と一緒であれば、退屈を覚えずに楽しむことが出来ます。では、自分が好む能動的な娯楽とは何か。いの一番に出てくるものとしてはやはりゲームでしょうか。ゲームと一口に言っても、ボードゲームやTCG、体験型ゲームなど様々ありますが、一番好きなものはやはりコンピュータゲームです。自分の操作や選択がすぐ結果として表れる(=短期間で報酬を得られる)ので、報酬系を活性化させるのには適しているのでしょう。移り気しやすい(気が散りやすい)という特性もあるため、途中でゲームを止めて他のことをすることもままありますが、操作を途中で止めても問題が無くつづきから再開できる、という意味では一人用のゲームが最適です。言ってしまえば、“自分のペースで結果(報酬)を得られる”という点が自分には合っている気がします。
他に自分の趣味としては、漫画、料理、単身での旅行などがあります。こうして並べてみるとどれも自分のペースで楽しめるものばかりですね。他に特筆するものとしてはプラモデルでしょうか。動かして遊ぶためにはまず完成させる必要あるため、先ほど述べた報酬系の話からすると若干食い違っているようにも見えます。ですが実のところ“組み立てること自体が楽しい”ため、退屈どころか逆に時間を忘れかねないほど集中してしまいます。これも組み立てるという作業が“自分のペースで結果を得る”行為に該当するのだと思います。 先ほど、能動的な娯楽が一緒であれば退屈せずに受動的な娯楽を楽しめる、と述べましたが、実際に家でプライベートを過ごす時は2画面のPCのうち1画面で所謂ブラウザゲームを開き、残るもう1つの画面で音楽や動画、TVを流したりして過ごしています。気の散りやすさを2画面でコントロールしつつ、能動的な娯楽で報酬系を少しずつ刺激して受動的な娯楽も飽きずに楽しむ、という形でしょうか。
おわりに ~自分のペースで結果を得る
最後に、筆者の“自分のペースで結果を得る”ものを好むという傾向を、物事を継続する方向で活かせないか考えてみようと思います。 思いついた方法としては“成果(=報酬)を目に見える形で小分けにする”方法です。例えば長期間の貯金を行う場合、貯金の目標額を一日単位に分割し、実際の貯金も一日ずつ行います。更に日々の貯金額を表などの形で目に見えるように記録することで、貯金額の目標を達成したという報酬を“毎日”自分に与えます。また、目標額を達成できない時があったとしても、挽回の機会が一日後と大変近い為、モチベーションが低下する前に報酬を得るタイミングが来ます。最初から毎日続けることに抵抗がある場合はまず一週間ごと、それで続かなければ次は数日ごと・・・といった形で、自分が物事を続けるために必要な報酬のペースを見つけます。ポイントとしては“大きく得難い報酬(目標)を、小さくて得やすい報酬(目標)に分割する”ことです。勿論、目標を分割する場合は自分の望むペースで達成できるような大きさまで分割しましょう。貯金以外の例として、例えば就職という大きくいつ達成できるか分からない目標を、就職活動(書類作成や面接練習、応募など)の実践という小さい目標に分割して一日ずつ消化していく、という置き換えも出来るかと思います。 いかがだったでしょうか?今回、筆者の趣味嗜好の傾向を障害特性という視点から見ることで、筆者自身も考えていなかったような工夫の仕方が見つかりました。皆さんも、いつもとは違う視点でご自身のことを再確認してみると新たな発見があるかもしれません。
参考文献
「ごほうび、まだなの?」―ADHDの科学を子どもたちに説明する | 沖縄科学技術大学院大学 OIST
https://www.oist.jp/ja対人関係や依存症…ADHDの大人が陥りやすい諸問題:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com
行動嗜癖 - 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp
注意欠如・多動性障害 - 脳科学辞典
https://bsd.neuroinf.jp
注意欠陥多動性障害(ADHD)