発達障害の私がアルバイトをしない理由
仕事 発達障害発達障害者の悩みの一つに、アルバイトがあると思います。当事者の話や自伝著書のエピソードにおいても、アルバイトでの失敗談などがよく聞かれます。仕事にもよりますが、アルバイトの大半はマルチタスクや不測の事態への適切な対応、人間関係など、発達障害者にとっての難問が立ちはだかります。私自身のアルバイト体験談やそこから見えた課題、やってみてよかったことなどについて紹介します。
ケーキ屋でのアルバイト
私の趣味の一つとして、お菓子を作るのも食べるのも大好きです。なので大学時代、私はケーキ屋で人生二度目のアルバイトを体験しました。ケーキ屋さんは一見華やかな仕事ですが、手先の器用さやマルチタスクが常に要求されましたし、常にメモが欠かせませんでした。
ケーキ屋の仕事で苦手、大変だったことをピックアップします。
①お金の計算が頭の中で上手くいかない
発達障害の特性によるものか、頭の中での計算や金額の高い安いのイメージが上手くできません。レジ打ちで明らかに計算が違う(金額が異様に高い)のに、お客さんに指摘されるまで気付けなかったことや、うっかり商品の金額を打ち忘れたりもしました。
②手先が不器用で動作もゆっくり
リボンのラッピングやケーキ、焼き菓子の包装、卵を割る作業には苦戦しました。紙幣や包装用紙も指でめくれないため、時々紙で指を切ってしまいました。焼き菓子やケーキの数量にあったサイズの箱と、そこへ詰め込んでいく時のバランスも私には難しかったです。
最初は、店長さんの対応が非常によかったので、不器用ながらもなんとか半年ほど続けました。私のミスや気になったことに対して、店長さんは「今度からはこうしてほしい」、という具体的な指示や、「みんなにも言っていることだから、あまり気にしないでね」、というフォロー、「メモを取り、分かるまで質問しやすい雰囲気」など、適切な配慮をしてくれました。私一人では対処が難しい事態にも、店長さんは決して無理をさせず、「何かあれば連絡して」、と助けてくれました。
しかし、アルバイトリーダーは非常に厳しい方でした。その方は、「わざわざメモ取らなくていいから」、「臨機応変に対応して」、と言うことが多く、言われたことしか上手く対応できない私に呆れていました。その方から新しいラッピング法を教わった時も、聞き取りの弱い私がすぐに理解できていないと、すぐにいらっとした顔を見せるので、なおさら緊張して頭に入りません。その方とシフトの重なる繁忙期では、メモをとることもできず、新しい商品の金額や種類、ラッピング、対応などの激しい変化に上手く対応できず、私はケーキを落とす失敗をしました。「どうしよう、また怒られる、いやそれよりお客様にどう伝えよう、いやまずは片付けないと」、とパニックになりました。しかしその方の目には、私がお客さんを無視してぼーっと突っ立ているように見えたのです。その後、「動きがにぶいのよ!もっと素早く動いてよ!」、と強く叱られました。
「私はなんてグズでダメなアルバイトなんだろう」、とすっかり自信をなくした私は、ストレスで胃腸がやられ、じんましんも出ました。しかしお店に迷惑をかけてはいけない、と追い詰められた私に、父は「あんたにそんな苦しい思いをさせるアルバイトは、今すぐにでもやめていい」、と言ってくれました。結果、繁忙期の直後にやめました。文句を言われつつ無事にやめることはできましたが、「上手くできなかった私が悪い」、という思い込みが解けるまでに一年はかかりました。そして、いまだにアルバイト恐怖症が残っています。
試験監督官のアルバイト
人生三回目のアルバイトは、全国入試模試の試験監督官(日雇い)でした。受験でお世話になった恩師の紹介でやってみました。仕事内容は、模試の前日に研修と書類の準備、翌日の模試の試験監督、会場のセッティング、学生への対応、回収した解答用紙の枚数確認などでした。
試験監督官のアルバイトで大変だったことを挙げます。
◎試験会場のセッティングから学生への案内、試験開始までの時間配分が上手くできない
模試の前日に与えられた「マニュアル」をちゃんと読んでいたにも関わらず、私は試験会場のセッティングに手間取りました。実際に担当した試験会場は、当日でないと確認できませんでした。そのため、いざセッティングを行うと、書類や受験番号をどの机にどっちの方向、どの順番で置いたらいいのかわかりません。しかも、スタッフの一人に「何やってんの、しっかりやってよ。ダメな奴」、と注意されたことでパニックになりました。その後、プロのスタッフの機転でその場をしのぎました。しかし、緊張で声も顔もこわばり、汗だくな姿がすごく恥ずかしく、「なんでダメなんだろう」、と落ち込みました。けれど終わりの時間まで我慢し続けるしかなかったです。
発達障害の場合、マニュアルを頭に入れることはできても、実際の場所で実際に練習してみないとイメージしにくい特性があります。しかも、不測の事態への対応が苦手なので、パニックが高じて動けなくなります。
介護施設でのアルバイト
私の初めてのアルバイトは、介護施設の水回りでした。こちらをあえて最後にした理由は、この仕事がもっとも気が楽で、嫌な思い出がほとんどないからです。シフトも自由に利かせてもらったので、働きながら学業に専念できました。仕事は、おしぼりや食器の片づけ、洗濯、トイレ掃除、食事の配膳と片付け、利用者さんの見守りなどです。当時の私は職員や利用者様と何気ない会話をするのが苦手でしたが、基本は決まった業務をこなせばよかったので気楽でした。もう一つの大切な仕事は、主に認知症の方が車いすから立ち上がり、転倒したりすることのないように見守ることでした。色々な利用者様との接し方には、当然悩みました。しかし、よかったこともたくさんあります。
まず、トイレにいつも行きたがり、帰宅願望の強い利用者様がいました。私は、おしぼりをたたむ仕事をしながら、その方の寂しさや家族への想い、昔やっていた仕事の話などを、たくさん聞かせていただきました。そうしている内に、その方も話を聞いてもらえて安心したのか、トイレのことも忘れて笑顔を見せ、私と一緒におしぼりをたたんでくれました。他の利用者さんからも、「いつも笑顔が素敵」、「あなたのように優しい方が来てくださってよかった」、と言われ、他の職員にも「接し方が優しいから、利用者さんを見てくれていて助かる」、と必要とされたことも嬉しかったです。水回りのアルバイトは、受験等の都合で今はやっていませんが、私に合った職場でした。
まとめ
・発達障害者の苦手とするアルバイトには、「マルチタスクが多い」、「不測の事態や臨機応変を要求される場面が多い」、「手先の器用さが求められる」、「ぶっつけ本番の仕事」、「接客がメイン」、「業務内容や方法の変化が激しい」、「スピード・効率性を要求される仕事」などが考えられます。
・ただし、得意・不得意もその人や発達障害の種類によって異なります。
・良いアルバイト先としては、「メモを取らせてくれる」、「質問にちゃんと答えてくれる」、「できないこと、練習しておきたいことをハッキリと言える」、「困った時にフォローしてくれるスタッフがいる」、「人格を否定するような注意をしない」、などの条件が良いと思います。
発達障害者の多くは、アルバイトでの失敗経験で自信を失っていると思います。しかし私から見れば、それは大変すごいことなのです。私はアルバイトを探してみても、「これは無理そうだから却下」、とあれこれ理由をつけて行動に移せていません。なので、むしろ「たくさんのアルバイトでたくさん失敗した」方は、誇りに思っていいのです。その経験と失敗こそ、あなたや私、他の当事者様にとって「働くこと」を考えるうえで参考になる「財産」なのですから。
最後まで拝読ありがとうございました。
発達障害