脳科学の知識をメンタルヘルスに活かす
暮らし現代医学でも、脳というのは、まだまだ未知なことが多い臓器の様です。それでも脳については様々なことが近年わかりつつあります。その中から、特に私の様なうつ病やパニック障害に悩まれている方々に、少しでも有効な情報をお伝えできればと思います。
近年、うつ病などの精神疾患に苦しむ人が増えて来ているのは、急激な時代の変化に脳の進化が追いついていないことが、大きいと私は考えます。生物学的な脳の進化には、百万年単位の年月が必要とも言われていますが、ここ数十年単位で、時代は大きく変わりました。特にIT技術の進歩(インターネット、スマホ、PCなどの普及など)は、人類の生活を大きく変えたと言ってよいでしょう。これまでは、脳の使い方、運用方法など何も意識することなく、オートマティックに生きてこられた人類も、急激な時代の進歩に合わせる為、脳を意識してマニュアル運用しなければならない時代になってきたと言えるかもしれません。
大まかな脳の構造について
この記事で、脳内の個々の臓器の説明をするつもりはありません。脳には論理的な分け方が幾つかあります。右脳、左脳という分け方もその一つです。私がこの記事で説明したいのは、人間の進化の過程で出来た脳の三層構造という論理的な分け方です。脳は進化の過程より、内側から脳幹(生命脳)、大脳辺縁系(感情脳)、大脳新皮質(理性脳)の3つに分類することが出来ます。古いものが内側にあり、進化した新しいものほど外側にあります。
【脳の三層構造】
・脳幹(生命脳):最も内側にあり、昆虫にもあると言われる、最も古来からある脳の機能。生命の維持に関わる脳の部分で自律神経にも直結する。
・大脳辺縁系(感情脳):中間層にある、哺乳類全般にある脳の機能。主に感情を司ると言われる。
・大脳新皮質(理性脳):最も外側にある、人間、チンパンジーなど高等哺乳類にしかない脳の機能。理性や知性を司ると言われる。
脳の構造についての法則
この三層構造に関わる法則を私なりにまとめてみました。
○第一法則(反応速度)
脳や身体に刺激があった場合の反応速度は内側からとなり、①脳幹(生命脳)→②大脳辺縁系(感情脳)→③大脳新皮質(理性脳)の順番です。大脳辺縁系(感情脳)で反応して一瞬イラっとしても、暫くすると、大脳新皮質(理性脳)で考えて冷静になれるのはこの法則のせいだと考えられます。
○第二法則(決定権)
脳での決定権(権力)の強さは、第一法則の逆となり①大脳新皮質(理性能)→②大脳辺縁系(感情脳)→③脳幹(生命脳)です。つまり理性で感情は制御可能ということです。
○第三法則(影響範囲)
基本的にこの三層は隣り合った層にしか、直接影響を及ぼせません。大脳新皮質(理性能)から脳幹(生命脳)に直接働きかれることは基本的に出来ません。真ん中の大脳辺縁系(感情脳)を経由しなければならない訳です。三層構造の真ん中に位置する大脳辺縁系(感情脳)の役割は重要で、特にその中の一部である『扁桃体』は、脳の司令塔とも呼ばれ、脳のあらゆる働きの中心になっていると言われています。
○第三法則の例外(呼吸)
例外として、大脳新皮質(理性能)から脳幹(生命脳)に直接働きかけれる方法が一つだけあります。それが呼吸です。よく呼吸をテーマにした健康本が出版されていますが、呼吸を整えれば、自律神経が整うと言われています。緊張状態や興奮状態を抑えて、リラックスしたい(自律神経を整えたい)場合は、大脳新皮質(理性能)を使い、意識的に深呼吸をするのが最も手っ取り早いでしょう。3秒吸って6秒吐くと良いと言われていますが、息を吸うと交感神経(緊張)、息を吐くと副交感神経(リラックス)が優位になる為、吐く時間を吸う時間の倍くらいするのが良い様です。
なぜ人は感情に振り回されてしまうのか?
なぜ人は感情に振り回されて苦しむのでしょう?嫌なことや辛いことばかりを思い起こしてしまうのでしょう?
その原因は、上でも述べた脳の中心構造の大脳辺縁系(感情脳)にある、脳の司令塔『扁桃体』によるものと考えて良いでしょう。『扁桃体』は古来の動物脳の機能で、好き(快)と嫌い(不快)を最初に判断する所と言われています。特に嫌い(不快)なことに強く反応し、それを記憶します。嫌い(不快)の判断基準となるのが、過去の失敗です。古代人類においては、何かに失敗すること(例えば狩りや農耕での失敗)は、生命の危機にも直結したことから、失敗の記憶は『扁桃体』から短期記憶を司る海馬を通し、長期記憶を司る側頭葉にまで記録されることになります。人が嫌い(不快)な事ばかり強く記憶してしまうのは、そもそも脳が嫌なことばかりを記憶する様に出来ているのです。
脳の三層構造をサッカーに例えると
脳の三層構造をサッカーに例えると、脳幹(生命脳)がDF(ディフェンダー)、大脳辺縁系(感情脳)がMF(ミッドフィルダー)、大脳新皮質がFW(フォワード)に例えられると私は考えます。この3つの連携が上手くいき、バランスが取れていることが重要です。私の様な感覚過敏でネガティブな出来事に反応しやすい人は、MFの大脳辺縁系(感情脳)がテクニシャンで運動量が多過ぎるのです。サッカー選手であればメッシの様な存在でしょうか?その為、FWやDFとのバランスが取れなくなり、MFが暴走している状態と言えます。
感情に振り回されなくするには?
私のお勧めの対処方法は、ゲームキャプテンをMFからFWに交代する事です。人はオートマティックに生きていると、司令塔であるMFがキャプテンを務めがちです。感情に振り回されなくするには、キャプテンをFWに委譲し、決定権を委ねる(脳の第二法則を活かす)ことだと思います。それが感情に振り回されなくなる第一歩だと私は考えます。それが出来るのがマインドフルネスや瞑想であり、それらは感情を理性で制御する練習にもなるのです。大脳辺縁系(感情脳)にある『扁桃体』に振り回される脳体質を、大脳新皮質(理性能)の『前頭前野』主導に切り替えることが、理性を取り戻し、知的な生活を送れる第一歩ではないでしょうか?
恨み、妬み、扁桃体暴走の末路
恨み、妬みというのは、他の動物にはない人間特有の複雑な感情の様です。この種の感情は、『扁桃体』から湧きおこり、『前頭前野』で拡大化されて、それが再び『扁桃体』にフィードバックされます。この悪魔のループが繰り返され、この種の感情はエスカレートします。人に対する恨みや妬みから、殺人や犯罪が起こるのも、この脳の仕組みによるものと言われています。
脳は鍛えられる、変えられる
ストレスに弱い、プレッシャーに弱い、そういった課題を克服するにはどうすればいいいでしょう?
私の提案は、上記の理論を取り入れ、脳を鍛えることです。つまり大脳新皮質(理性能)で大脳辺縁系(感情脳)を制御する訓練を積み重ねれば、メンタルは段々と強化されます。それを最も実践出来るのがマインドフルネス、瞑想です。感情脳の動きを冷静かつ客観的に理性脳で観察し制御する。この訓練を極められれば、人間性を高めることが出来、感情に振り回されない、素敵な人間になれると私は信じてやみません。
参考文献
脳を守る、たった1つの習慣 感情・体調をコントロールする(NHK出版新書) 築山 節
扁桃体パワーが幸せを引き寄せる—“成功脳”の秘密がわかった!(徳間書店) 塩田 久嗣