発達障害の気持ちや活動の切り替えをコントロールできるようになるには~集中・不安と対処法

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発達障害で気持ちや活動の切り替えができず、お子さんはかんしゃくやパニックを起こす、大人の方では仕事で上手くいかず、困っていませんか?いつまでもおもちゃで遊び続け、止めようとすると「不安」で泣いてしまう。誰かが声をかけない限り、休憩も食事も忘れて同じ作業をずっと続けてしまう「過集中」。発達障害は、何故切り替えが苦手なのか、どうすれば切り替えができるようになるのかを解説します!

気持ちや活動の切り替えが苦手

発達障害のある子ども・人は、しばしば気持ちと行動の切り替えが難しく、パニックやかんしゃく、フリーズ(どうすればいいのか混乱し、体と思考が凍りつく)を起こしやすいです。

【子どもの例:集団生活を始めた頃から困りやすい】
・ゲームでいつまでも遊び続ける←ご飯の時間、交代の時間だよと伝えても聞いてくれない。やめさせようとするとパニック・かんしゃくを起こす。
・周りが移動教室へ向かう中、一人だけ教室に残ってしまう。
・運動会で自分の種目に参加していない。
・決まった日時と場所で散歩するために、大雨でも外出しようとする。
・※反復・常同行動に夢中になって、周りの指示が入らない、活動をしてくれない。

【大人の例:就職した頃に、トラブルや困りごとが増える】
・休憩と食事を忘れて、いつまでも仕事に集中し、倒れてしまうことも(過集中)。
・突然の予定変更や移動にパニック・かんしゃく、フリーズを起こす。
例:「午後2時予定の会合が1時半に変更になりました。」→「そんな!この作業を2時までに済ませるつもりだったのに、間に合わない、でもどうしよう!」

※反復・常同行動とは、単純で無意味に見える行動・フレーズ・姿勢を繰り返すことを指し、発達障害(主に自閉スペクトラム症)に多いです。常同行動は人によって様々ですが、壁に頭を打ちつける、体を左右に揺らす・飛び跳ねる、同じフレーズをずっと口ずさむ、好きなモノを触り続ける・いつまでも凝視する等です。

切り替えが苦手というのは、自分の置かれた状況や変化に合わせて、自分の行動や思考、気持ちを別のモードへ修正することが難しいことを意味します。例えば、算数の課題に集中している途中に突然チャイムが鳴れば、通常はそこで課題を中断させ、次の国語の授業に頭を切り替えられます。普段着からスーツに着替えて仕事に行けば、丁寧な敬語と礼儀正しい振る舞いを即座にできます。しかし、多くの人が日常生活で何気なくできている切り替えを、発達障害の方ではすぐに実行へ移しづらいのです。たとえ、できているよう見えても、本人は無理をしていることが多いです。

【切り替が苦手な理由】
・見通しを立てるのが苦手:発達障害は、自分の状況と未来・結果を想像する力が弱くなります。作業に要する時間量や優先順位を測ること、スケジュール管理も苦手です。
私が旅行先で予定外の場所を観光した時、「集合時間に間に合わせる」時間の計算と見通しを立てられずに、バスに乗り遅れることは何度もありました。

・こだわりが強い:今やっていることを済ませてからでないと、次の行動に移すことができず、中途半端を嫌がります。今やっている仕事の片手間に別の業務も済ませておくなど、マルチタスクが苦手であることも、一つのことへの固執を強めると考えます。

・感情・行動のコントロールが苦手:発達障害のある方は、今自分が「すべきこと」よりも、自分の「やりたいこと」を優先しがちになります。好きなことに一度熱中すると、中々そこから抜け出せず、勉強や仕事、周りが目に入らなくなります。常同行動に対しても同じです。また「不安」の感じやすさも、今やっていることを途中で投げ出す、普段とは違う場所で違う活動をすることに、気持ちがすぐに追いつかないのです。

・具体的な行動・指示が分かっていない:次の活動へ切り替えることが難しい背景には、「なにをすればいいのか分からない」ことも多いです。小学校時代の私は、運動会やイベントの準備で移動する時は、毎回迷子になり、周りから「ぼさっとしてないで、自分の班に行って」、とよく注意されました。しかし、当時の私は耳から入ってくる指示を聴き取れないので、普段とは違う活動へ切り替えることは難しかったです。たとえ「あなたは〇〇班です」と聞けたとしても、なら「いつ」、「どこで」、「どの位置で」、「何をするのか」、具体的で細かい指示や見本がないとできませんでした。

切り替えのコントロール方法①

①見通しの「見える化」

・一日のスケジュール表やイラストカード、〇×のチェックリスト、時計・タイマーを活用します。項目は本人の特性に応じて考えますが、時間帯・活動内容・必要道具等に、分かりやすくイラストを描くと分かりやすいです。スケジュール表やチェックリストは、本人の目に留まりやすい場所を決めて貼ります。人・子どもによっては、表や図にあまり多くのことを書き込むと、どこを見たらいいのか混乱します。その場合は、なるべく短くシンプルなデザインにし、気が散らないように部屋はモノを片づけて整理整頓しておきます。

最初の内は、スケジュール表とチェックリストを確認する習慣を身に付けるために、周りはこまめに声をかけて促します。スケジュール表等を確認するというルール・習慣を一度身に付ければ、持ち前のこだわりでルール・習慣をしっかり守れます。

・活動空間を区分します。例えば、居間は遊び・ゲームをする場所、自室の机は勉強をする場所、食卓はご飯を食べる場所、という風に活動を場所ごとに分けます。活動を場所ごとに区切ることによって、「ここでゲームしても何も言われなかったのに、何で今はダメなの?」といった本人の混乱を防ぎ、切り替えをしやすくします。これら①の工夫をスムーズに行い、本人に習慣を身に付けてもらうためには、後述する②の対処も不可欠です。

②早い段階で予告する+具体的な言葉かけ
スケジュールの変更があった時は、なるべく早い段階で本人に伝え、心の準備を整える時間を与えます。

予告の例:
・「10分後にご飯を食べるから、ゲームは〇時〇分までだよ」=具体的な時間と次の活動内容を予め伝えるだけでも、安心しやすいです。予め時間と内容を伝えても、本人が納得しない場合もあります。その場合、「なら、何分後ならいいかな?」、「今やっているのは、後どれくらいで済みそう?」、と本人の都合と気持ちにも耳を傾け、コミュニケーションを積極的に取ります。さらに発達障害の場合、予め声かけをしても耳から入る情報に弱く、記憶から抜けてしまうこともあります。その特性を考慮し、声かけをするだけでなく、タイマーや時計等を活用し、①の「見える化」を加えるとより効果的です。

・「ご飯を食べる時」→「キッチンで手を洗う」→「食卓の前に座る」→「いただきます」→「食べる」をしてね。
早い段階での予告も切り替えに有効ですが、そこに「何をするのか」という具体的な言葉・指示も付け足します。ゲームを終了した後に「ご飯を食べる」という大きな目標に辿り着くために、「手を洗う」、「食卓に座る」等の簡単で小さな目標を一つ一つクリアさせていきます(スモールステップ)。発達障害の場合、多くの指示を一斉に聞く・理解する・行動に移すのが苦手なので指示を細分化し、一つ一つクリアするごとに次の指示を伝えていきます。

・課題を区切る・細分化するのも有効です。私の場合も:
「〇〇時くらいまでに課題Aを済ませよう」
→時間がない場合「今やっているパート2だけでも済ませてから終わろうかな」
→それでも時間がない場合「パート2のこの一問・一行だけ済ませたらにしよう」
時間を予め決めたうえで課題に取り組むと、安心できる方もいれば、私のように「〇〇時までに完成させないといけない!」、「時間内に終わらない、どうしよう」、とかえってプレッシャーを感じる方もいます。そのため私は、時間に応じて課題をさらに細分化することによって、キリのいい所で終わらせ、達成感と安心を持てるようにします。

切り替えのコントロール方法②

③予行演習・シミュレーションしておく
発達障害の方は、予期せぬトラブルにおいて気持ちや行動の切り替えが上手くできずに、困ってしまうことが多いです。学校、職場、家庭等で日常生活を送るうえで、ハプニングは避けて通れません。ぶつけ本番とトラブルの想定が苦手な発達障害のある方には、トラブルが起きた際に取るべき行動、相談相手とその方法を予め「練習」するのが有効です。

お茶くみの例:「午後2時の来客にお茶を出す」
・トラブル1:来客10分前に準備を始めてから、給湯器が壊れていることに気付いた!
・トラブル2:仕事中に、来客が約束より早めに来てしまった。でも、まだ仕事が終わっていない、それよりお茶の準備ができていない!

こういった時の切り替えと対処がスムーズにできるように、起きうるトラブルを想定した練習・シミュレーションをしておきます。実際にやってみることで、この作業を自分はどのくらいの時間で、どこまでやりきれるのも把握できます。SST(社会生活技能訓練)であれば、練習は他の誰かとグループで実行しますが、これは非常におすすめです。グループで練習すれば、自分には思いつかなかった他の人の工夫や意見を学べるうえに、一緒に練習する安心感も生まれます。SSTでは、実際に練習して学んだことを日常生活で実践し、次回の練習に活かすための宿題も出ます。

その他の方法:
・常同行動は無理してやめさせず、終わるまで待つ:常同行動には、一つの行動へ意識を一点に集中させることで、他のストレスな刺激を遮断し、安心感を確保する目的があります。問題となる強迫性障害の強迫行為と似ていますが、常同行動では本人が苦痛を感じていない所に違いがあります。本人と周りにとって危険なものでなければ、常同行動はそっとしておきます。危険があるようでしたら、怪我を防止するためにクッションを置く、危ないものは片付けておきます。

・やるべき仕事のリストアップをし、実際よりも早めの予定時間で設定します。決められた時間に従って取り組むと、何らかのトラブルや自分の体調で遅れることもあります。以前の私は切り替えが中々働かず、遅刻しそうになっても目的地へ歩いて行ってしまうことがしばしばありました。そのため、例えば「午前10時に集合」でも、トラブルが起きた場合の遅れも計算に入れて、メモでは「午後9時50分に集合」と書いておくようにします。また遅刻に繋がるトラブルが起きた際は、①「まずは遅れると連絡する(誰かと約束していた場合)」→②「人に道をたずねる」、「元来た場所に一旦戻る」、という風に優先順位とやるべきこと頭の中でもシミュレーションしておきます。

最後に

【発達障害の「気持ちや活動の切り替えが苦手」まとめ】
・切り替えが苦手な理由:
見通しを立てるのが苦手の他、こだわりや不安の強さ、やりたいこと>やるべきことで感情と行動のコントロールが苦手、具体的な行動と指示が分からない等があります。

・切り替えができるようになるには:
スケジュール表・チェックリスト・時計等の活用、早い段階での予告、トラブルを想定した練習・シミュレーション、具体的な言葉かけ、確認の習慣化等。

いかかでしたか。
発達障害の「切り替えが苦手」という、一見ネガティブな特性とその対処法についてふれましたが、そのうえでぜひ大切にしてほしいことがあります。

発達障害に限らず、全ての子ども、そして大人にも言えることですが、あまり自分の苦手なところやダメなこと、禁止ばかりに目を向けなくてもいいです。それによって、心が疲れてしまったり、自分はダメな奴だと自信を失ったりしないようにしてください。

切り替えができるようになるための対処法は、あくまで本人が安心して日常生活を送れるようにし、問題対処スキルを育てていくためにあるものなのですから。

さらに切り替えが苦手なところは、別の見方をすると、「一つのことに並ならぬ集中力・情熱を発揮できる」という長所でもあります。

発達障害の困りごとに対処し、本人がそれを自分でコントロールできるようになった時、特性は最大の武器となり得ます。

そうできる発達障害のある子ども・人が、今後は一人でも多く生まれたら幸いです。

参考文献
・岡田俊(2016年)『発達障害のある子と家族のためのサポートBOOK・小学生編』ナツメ社

・小笠原恵(2011)『うちの子、なんでできないの?親子を救う40のヒント』文藝春秋

・小野寺敦子(2012)『ゼロから教えて発達障害』かんき出版

・上野一彦(2012)『大人のアスペルガーを知る本』アスペクト

・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書

・岡田尊司(2012年)『発達障害と呼ばないで』幻冬舎新書

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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