ミュンヒハウゼン症候群とは何か?〜ドイツ語の響きに隠された険しい実態
その他の障害・病気ミュンヒハウゼン症候群とは、自分の病気や重病をアピールというより”でっち上げ”で、周りの関心や心配を得ようとすることに依存するという精神疾患です。「ほら吹き男爵」のモデルでもあるドイツのミュンヒハウゼン男爵が病名のもととなっています。ドイツ語だけあって響きはいいのですが、これはかなりの難病です。
症状を針小棒大に話したり嘘をついたりするだけでなく、時には自傷行為や検査結果の捏造(尿検査のコップに血を混ぜるなど)にさえも着手します。命を脅かす事態にもなり得る行動が、自分の子どもや親に向けられることもあり、こちらは「代理ミュンヒハウゼン症候群」と呼ばれています。
なお、診断時などでは「虚偽性障害」とも呼ばれています。
関心を惹くため病を謳う
ミュンヒハウゼン症候群は、いわゆる仮病や詐病などと似て非なるものです。仮病や詐病の場合は、ズル休みから保険金詐取まで、何らかの利益を得るのが目的となります。対してミュンヒハウゼン症候群では、ただ周囲の関心を惹いて心配されることだけが目的です。
手術など大掛かりな治療に対する反応が顕著な違いとなります。仮病や詐病だと、健康体への無意味な治療は全力で避けようとするのですが、ミュンヒハウゼン症候群の場合は拒まずに唯々諾々と受けようとします。「そらみろ、俺はやっぱり病人なんだ!」と言わんばかりにです。
関心を惹くためならば、実際に大病を患うことすらも歓迎します。そのための自傷行為で命にかかわる事態に陥ることも少なくありません。
より明らかに実害のある「代理性」
代理ミュンヒハウゼン症候群という派生形もございます。主に自身の子どもに向けて病気になりかねない危険行動をするのが特徴で、児童虐待の原因として挙がることもあります。明確な実害があるので代理のほうが有名ではないでしょうか。時々、子どもの点滴に異物を混入して逮捕される親が、「献身的に看病する優しい親として見られたかった」と供述するニュースがありますよね。
1977年、イギリスの小児科医ロイ・メドーによって代理ミュンヒハウゼン症候群が初めて世に知れ渡りました。メドーの論文は2つの症例報告で成り立っており、以下の点が示唆されています。
・母親がいる時に悪化し、母親がいない時は快方に向かう。従って母親が何かしらの工作をしている。
・病院に対しては愛想がよく協力的。
・子どもの病気についてよく調べ、全力で看病している。(ように見える)
・児童虐待の中でも極めて計画的。
後にコロラド大学のローゼンバーグがメドーの論文をもとに事例を117例集め、代理ミュンヒハウゼン症候群の定義づけを行いました。曰く、「子どもの症状を保護者が捏造あるいは偽造すること」です。
捏造はでっち上げや裏工作で検査結果を捻じ曲げて誤診を誘うやり方です。子どもに直接危害は与えませんが、不必要な検査や医療行為・ドクターショッピングなどを重ねて疲弊させていきます。一方、偽造は暴行・薬物・異物混入など子どもに直接危害を加えるやり方で、そのまま子どもを殺してしまう場合すらあります。
ローゼンバーグのデータでは、保護者自身が「ミュンヒハウゼン症候群」にかかっているケースもありました。歪んだ理念を正さないまま出産したせいで、子どもを利用する方向へシフトしたのでしょうか……。
発見にはきっかけが必要
ミュンヒハウゼン症候群には診断基準があり、正式に診断されれば治療を受けられるようになります。ただ、精神科で診断を受けるまでの発見段階が最も難しい病気です。本人は「自分は病人だ」と信じきっている場合が多く、周囲の人間もなかなか気付きません。発見のきっかけで最も多いのは、入院中に裏工作や自傷行為がバレたことで、第一発見者となるのは内科医や外科医です。
要するに偶然が重ならないときっかけすら掴めない、初診までのハードルが極めて高い精神疾患です。患者数も潜在含めて1%ほどとされているだけで、詳細には把握されておりません。運よく診断が下りたとしても、今度は明確な原因や治療法がない問題があります。患者本人の意志次第で治療に要する期間は大きく異なります。
どんな病気も発見と初診にはきっかけが必要なのですが、ミュンヒハウゼン症候群の場合は必要なきっかけやサインを見逃しやすく、そうしている間に病院との歪んだ付き合いが長引いて行ってしまいます。病院にとっても医療費の無駄遣いや医師らの過労に繋がる問題ですし、代理にシフトすれば明確な実害も出ますので、出来れば早いうちに何とかしたいのですが……。
まとめ
ミュンヒハウゼン症候群は、「周囲の関心を惹きたい」という欲望が歪んだ形で医療現場を巻き込みつつ発露したものです。「関心」のためだけに虚言・ドクターショッピング・検査結果の捏造・自傷行為と様々な行動をします。
この間違った努力を、自分でなく他人を資本として行うのが代理性ミュンヒハウゼン症候群です。しばしば患者の子どもを巻き込み、計画的な児童虐待として世間の認知度も高まっています。
明確な原因も治療法もなく、その上発見も難しいミュンヒハウゼン症候群。精神科の初診へ導くだけでも超えるべきハードルは多いです。第一発見者となるのは専門外の医師が多いのですが、だからと言って患者を疑う医師が増えても困るでしょう。
とりあえず、医者を転々とするドクターショッピングが一つの指標となるかもしれません。
参考文献
【愛知県青い鳥医療療育センター 作話てんかんミュンヒハウゼン症候群】
http://aoitori-center.com/index.html
その他の障害・病気