双極性障害とコミュニケーション~就労移行支援事業所で学んだことから

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私は双極性障害と診断され、現在は就労移行支援事業所に通っています。通い始める当初の目的は、前職を早期で退職したため次の就活は準備を整えてから行いたいと考えたこと、精神疾患専門の事業所なので認知行動療法等を通じて自分の考え方を改められると感じたことなどでした。

事業所で学んだ気づき

私の事業所内ではさまざまなカリキュラムがあります。Excelの関数やWordの機能などPCスキルの研修、認知行動療法や服薬管理など障害者としてのセルフマネジメントの研修、ビジネスマナーの研修、また上司役やグループリーダーを設定した仮想業務を通じて実際の仕事に近い環境で行う研修もあります。ほぼ全ての研修はグループワークで行われ、常に利用者間で対話をしながら多くのことを学んでいます。

さまざまな研修や職員さんとの面談等を通じて、私にとって一番の課題は、「コミュニケーション能力が低いこと」だとわかりました。躁転やうつ転の転機になんらかのコミュニケーション上の問題があるのではないかという指摘も受けました。かつての私は人見知りの引っ込み思案で、自分の意見を口に出せず、話す時に言葉がつまるといったことが本当に多くありましたが、今は克服したので話す事も苦と感じることも少なり問題はないと思っていました。ですので、この指摘は本当に目から鱗なことであり、それから良好なコミュニケーションについて深く考えるようになりました。

実は、前述の研修内容以外にコミュニケーション研修もカリキュラムに含まれています。事業所に通い始めた頃は、私にとってそれほど必要ないのかもと軽く考えているところがありました。しかし、そこで「コミュニケーションをとるのが苦手なこと」と「コミュニケーション能力が低いこと」は似て非なるものだと気づいたのです。

前置きが長くなりましたが、事業所内のコミュニケーション研修や仮想業務、また職員さんに教えてもらったことや利用者間での指摘などを通して、双極性障害の私がこれから身につけていきたいと考えていることについてお話したいと思います。

双極性障害にとってのコミュニケーションの重要性

双極性障害の軽躁状態の症状として、「元気で、活発になり、人間関係に積極的になる」ということが挙げられ、これは躁状態がひどくなるほどエスカレートしていき、ひどくなれば周囲に迷惑を与えることも少なくありません。気分が昂っているときは人の発言に耳を貸すことすらできなくなっているので、できるだけ躁が軽いうちに指摘してもらえれば注意することが可能です。しかし、躁が軽いうちに指摘をしてもらうというのも容易なことではありません。「普段と違うな?」と周りに気づいてもらうためには普段からコミュニケーションを密に行い、自分のことを知ってもらう必要があるのです。だからと言って「気づいて!教えて!」と一方的になるのではなく、気づいてもらいやすい関係性を作ることが躁転予防の第一歩になるのではないかと思います。

安定期~軽躁期のコミュニケーションで心がけること

そもそも、軽躁状態に見られる「元気で、活発になり、人間関係に積極的になる」とはどういった状態でしょうか。自分の軽躁期を振り返ってみると「頭の回転が速く、あらゆることにせっかちになっている状態」だったのではないかと思います(あくまで私個人の症状についての私個人の感想であり、医学的でなければ、双極性障害の方すべてに当てはまる訳でもないと思うのでご留意ください)

程良い軽躁で止めることができていたら仕事のパフォーマンスも高いと言われることもありますが、頭の回転の速さはいい側面ばかりではありません。頭の回転が速くなっているとどんどんと新しい考えが生まれてきます。それをみんなに伝えたい!知って欲しい!という気持ちもどんどん強まってきます。その一方で、せっかちになっているので早く会話の結論を聞きたくてしかたありません。それは実際の会話の場面ではどのように表れるのでしょうか。

まず、話の速度が上がることが挙げられます。比較的ゆっくり話す人にとって話し方が速いとついていきにくいでしょうし、そうでなくても速度が上がり過ぎるとつながりのない話のように聞こえてしまいます。話したい時ほど一呼吸置くなどして相手のスピードに合わせるように心がけ、「この発言で相手はどう思うかな?」というところまで頭の回転の速さを持っていきたいものです。

「言い方がキツい」という指摘もよく受けます。自分の意見を言いたいという気持ちが高まるため、せっかちになり結論を急ぐ、言い切りの表現が多くなる、その場に応じた適切な言葉を選べなくなる、声量やイントネーションが変わるなどが原因だと思いますが、相手を委縮させてしまうことや、煙たがられることに繋がりかねません。同感を示すことばを選んだり、クッション言葉を用いたりするなど相手に悪い印象を与えない工夫をしていく必要があると感じています。焦っているときほど落ちついて会話をする必要があるのです。

双極性障害が特に身につけるべきコミュニケーションのスキル

「アサーティブ(assertive)」という言葉をご存知でしょうか?日本語では自他尊重と訳されることもあり、双方にとってよい関係(簡単に言えばwin-winな状態)を目指すことです。コミュニケーションには「アサーティブ」と「攻撃型」「非主張型(受身型)」があると言われています。私の症状で考えると、軽躁状態のときは「攻撃型」、うつ状態のときは「非主張型」になってしまう傾向があるのかもしれないと考えています。自分の考えに固執しない、お互いが納得いくまで意見を出し合う、相手の意見に耳を傾け、感情的にならず冷静に判断し、自分の意見も率直に伝える…常に「アサーティブ」を意識しながらコミュニケーションをとり、全く意識しきれてないな?と思ったら軽躁やうつを疑ってみてもよいのかもしれないと思っています。

次に意識したいのが「共感力」です。例えば友達が「このサラダおいしい!」と言ったとします。しかし、自分は苦手な食材が使われていて、同感はできない場合どうなるでしょうか。無理に「おいしいなー」と同調するのもその場しのぎのような感じがしますし、「ぼく、この野菜食べられへんのよね…」と返すのはいいコミュニケーションとは言えないでしょう。そこで、「それおいしいんやねー、おいしいのたべれてよかったねー」という相手の気持ちにフォーカスして会話をしてみる、すると相手は楽しく会話をすることができると思います。おそらく私が軽躁状態の場合「そんなサラダ食べられへんわ!全部あげるから食べとって!!」と事実や結論ばかりを言って切り捨ててしまいそうな気がします。

また、軽躁時には理屈っぽくなることがあります。論理的に説明することが有効な場面も必要ありますが、理詰めで話すことが必ずしもいい結果を招くとも限りません。まずは相手の言いたいことや気持ちを聴く。そのような姿勢が求められると感じます。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学名誉教授であったメラビアンは、コミュニケーションには「言語」「聴覚」「視覚」の3つの要素があり、それらが相手の印象に与える影響はそれぞれ7%、38%、55%だと提唱しています。頭の回転が速くなりさまざまな考えが思いつく軽躁が疑われるときこそ、93%の非言語コミュニケーションに注力するのがいいかもしれません。

コミュニケーションについて、まだ改善点がわかり改善している途中の段階ではありますが、軽躁をできるだけ小さい状態に留めるために予防する、そして少しでも症状が出たらその時点で修正するなど、自分の症状と上手く付き合えるようになりたいと切に思っています。

参考文献

メンタルヘルスマネジメント検定 II種・III種 テキスト&問題集 第二版 一般社団法人EAPコンサルティング普及協会著 翔泳社

メラビアンの法則とは? 意味、非言語コミュニケーション、誤解、生かし方について【3Vの法則】
https://www.kaonavi.jp/dictionary

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大学生の時に双極性障害II型と診断されたアラサー男。趣味は犬の散歩です。

双極性障害(躁うつ病)

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