仕事探しから生き方探しへ~就労移行支援事業所で学んだ人生の描き方

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出典:Photo by Yasin Arıbuğa on Unsplash

就労移行支援事業というものをご存じでしょうか?私は、10代のころにうつ病(双極性感情障害)になり、人生のほぼ半分を病気と共に生きてきました。しかし、就労移行支援事業の存在を知ったのは、つい1年半ほど前のことです。ほどなく利用を始め、1年半が過ぎました。初めは、単純に就職活動の助けになればと思い利用していましたが、通っているうちに、自分の人生をも見つめ直すようになりました。

就労移行支援事業・事業所とは

就労移行支援事業とは、障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスの1つです。一般就労等を希望し、知識・能力の向上、実習、職場探しなどを通じ、適正に合った職場への就労等が見込まれる障害者(65歳未満)が対象となります。

事業所への通所によるサービスを原則としつつ、個別支援計画の進捗状況に応じ、職場訪問等によるサービスを組み合わせることができます。一般就労等への移行に向けて、事業所内や企業における作業や実習、適性に合った職場探し、就労後の職場定着のための支援等を実施するものです。

就労移行支援事業所に出会う

前述したように、私は高校時代にうつ病と診断され、人生のほぼ半分を病気と共に生きてきました。大学進学を果たし、大学院を修了するころには、大きな症状の悪化は見られなくなっていました。社会人として働き始めて2年ほど経ったころ、業務や人間関係のストレスから、心身の健康状態が著しく悪化し、1年半の休職の後、そのまま退職することとなったのです。急激な体調の悪化に戸惑い、初めて仕事を無くした不安感から、目の前が真っ暗になりました。

そんな中でたどり着いたのが、就労移行支援事業所です。

仕事ができる身体と心を取り戻す

事業所に通い始めると決めた当初は、単純に「就職活動のノウハウやアドバイスを受けながら次の仕事を見つけられればいいな」という程度に思っていました。私の通う事業所では、ビジネスマナーや自己分析を扱う講義、応募書類の添削、模擬面接等を受けることができます。正直私は「講義なんか受けなくても大丈夫だろう」と思っていました。しかし、通い始めてみると、そもそも安定して通所をすることすら難しくなっていたのです。療養していた休職期間の間、体力や思考力、集中力が落ち、できないことが増えてしまっていました。

そこで、支援員のサポートを受けながら、体調管理やスケジューリング、個別支援計画の作成を通した目標設定を通して、日々スモールステップで通所を続けました。支援員が立てくれた目標の中に「困ったときは誰かに相談する」というものがあります。人によっては「そんな単純なことを目標に?」と思うかもしれませんが、私にとっては大きなものでした。私はそもそも、自分が人に相談するのが苦手だという自覚がなく、それゆえ、これまで気づかぬうちに不安や苦労を抱えこんでいたのです。こうした支援員の観察やフィードバックは、働ける身体と心を取り戻す助けになっています。

思わぬ副産物「コミュニケーション能力の回復」

現在私は、在宅訓練を含めて週4~5日の通所ができる身体を取り戻しているところです。支援員の専門的なサポートは、今の状態に回復するまでの大きな助けとなりました。しかし、それと同じくらい私を助けてくれたのが、同じ事業所に通う他の利用者の方々の存在です。

毎日の何気ない挨拶、休憩時間のちょっとした会話、講義内でのグループディスカッションを通した意見交換の機会は、前職で身についてしまった、対人緊張や孤独感といった心の緊張をほぐしてくれました。対人緊張が強かったころは、他者を拒絶する気持ちから、過剰な自尊心を盾にして自分を守るという悪循環に陥っていました。事業所での人との関わりを通して、他者の存在を認めることで、返って自己の存在を健全に認められるという好循環をえることができました。コミュニケーション能力を取り戻すことで、対人関係における不安が解消され、ストレスコントロールも円滑にできるようになり、その結果、病状の回復が後押しされたのです。

身体と心の回復から、生き方の整理整頓へ

就労移行支援事業所での人との関わりを通して、他者の意見を聞くこと、また、様々な観点から自分の人となりや思考を言語化して、アウトプットすることにより、自分の性格や考え方、価値観を客観視できるようになりました。そして、自分がどう生きたいのか、どうすれば生きづらさを解消して、自分らしく生きられるのかを、自然と整理できるようになってきました。

これまでは「何となくうまく生きていけたら」程度のぼんやりとした考えしか持っていませんでしたが、うつ病という障害によって社会の営みから一度離れてしまった経験を踏まえると、「自分は人生で何を大切にしたいのか」「どんな自分になりたいか」「どういう働き方をしたいのか」「そもそも自分の障害とはどんなものなのか」を明らかにすることが、よりよい働き方の模索を助けてくれるのだと、やっとわかってきました。

仕事探しを超え、自分らしい生き方探しを

私はこれまでも「自分の障害と共に生きる」という心構えは持ってきましたが、それを具体化し、行動に移すことはできていませんでした。就労移行支援事業所に通う中で、私は単なる就職活動の進め方だけではなく、自分の人生の描き方をも学んでいます。自分らしい働き方を考えることは、ひいては自分らしい生き方を考えることにも繋がると思います。

就労移行支援事業所も選択肢のひとつとしてあります。私は就労移行支援事業所に通うことで、自分を取り戻し、さらには新たな自分を発見し続けています。

参考文献

【厚生労働省 障害者の就労支援対策の状況 障害者総合支援法における就労系障害福祉サービス】
https://www.mhlw.go.jp/index.html

【厚生労働省 就労移行支援について(PDF)】
https://www.mhlw.go.jp/index.html

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em

高校時代にうつ病と診断され、人生の半分くらいを病気と共に生きています。現在は就労移行支援事業所に通っています。ラジオ好きで、毎週30番組くらい聴いています。

双極性障害(躁うつ病)

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