社交不安障害~たかが草野球、されど草野球

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出典:Photo by Diana Polekhina on Unsplash

私は1年前「社交不安障害」と診断されました。

これはいわゆる「あがり症」と似ていますが、過剰な恐れから発汗したり、集中力や記憶力が減退するなど身体的反応が現れます。大きな動揺をともなうため、人間関係に支障をきたし、失敗のトラウマから交流自体避けてしまうなど日常生活に影響を及ぼします。

現在、私は就労移行支援を受けながら草野球をやっています。コミュニケーションが下手なため苦労が多いですが、人付き合いの練習の場としてよく機能しています。

ここでは障害ゆえに起きてしまったグラウンドでの失敗や、私が気付いた大切なことを述べたいと思います。

「野球選手になりたい」

私の子供のころの夢は野球選手でした。高校野球アニメの主人公に憧れていたのです。でも中学まで身体が小さく、インドア派だったので野球に誘ってくれる友達はいませんでした。

憧れは大人になっても消えず、20代のころ3年間草野球をしていました。障害特性は当時からあって、仲間に今ひとつ心を開かなかったり、自分の型にこだわるのでいいアドバイスをもらえなかったのです。その後、引っ越しなどの理由で野球から離れたのですが「チームスポーツに向いてない」と感じ、もう野球はしないつもりでした。

それから月日が流れ、去年「社交不安障害」の診断を受けて就労移行支援事業所に通い始めました。支援者に「緊張しがちなのと、人付き合いの苦手さは性格の問題でなく、障害がもたらしていること」だといってもらい、自信喪失だった私は救われた思いでした。

生活を見直すなかで、気分転換になる趣味を増やそうとスポーツを始めることにしました。野球をやめて15年も経っていましたが、どうしてもまたやりたくて、近所の草野球チームに入ったのです。初めて参加した日、私はチームのメンバーに「精神障害があること」や「支援を受けるため事業所に通っていること」「障害の内容はコミュニケーションが苦手であること」や「頭から離れない不安や、こだわりを持ってしまうこと」について自己紹介しました。

「なめとるの?」

チームの監督はすでに還暦を過ぎた方です。チームに溶け込めない私に、よく声をかけてくださるとても面倒見のいい方です。

ところがある日の練習でのことです。私がバッティング練習をしていたところ、仲間が投げるボールがなかなか真ん中へこず、無理やりに打ち返したら監督に「ボール球は打つな!」と怒られてしまいました。強引に打つクセは付けないほうがいいですが、それでも打ったのは投げてくれる仲間が困っていたためです。でも強い剣幕に押され言い訳できませんでした。

また別の日、仲間のボールが遅く、タイミングが合わないため私は始動を遅らせようと思い、1本足で立ってかまえました。すると監督から「お前、なめとるの?」と真顔で聞かれ「ヘンなカッコすな!」と怒鳴られたのです。自分なりに考えあっての行動だったのに、そんなふうにいわれ閉口してしまいました。

このような時、いつも私は言い訳ができません。それは社交不安障害の特性で、年長者や目上の男性に特に不安や緊張感を持ちやすいからです。また、もともと説明下手なところもあります。そのため意思疎通に消極的で「何を考えているか分からない」といわれることもよくあります。

「捕ってくれよ!」

その後も、監督とのトラブルが続きました。私が守備練習をしていると「グラブを出すの早すぎる」「送球するとき姿勢が崩れとる」など、次々に言われ、混乱してしまいました。そして注意されることが怖くて、練習に集中できなくなったのです。監督の声ばかり気になって、逆に失策が増える悪循環が起きはじめました。

ある時「どうして、こんな気分でやらないといけないんだ」とモヤモヤしていると私の送球は大きく逸れ、監督のはるか頭上を越えていきました。監督はそれに手を伸ばそうともせず、無視しました。その姿を見て「こっちの気も知らず、つぎつぎ怒鳴ってくることへの不満」が思わず噴きだしてしまいました。

「捕ってくれよ!」

監督の顔はみるみる歪み、「なんやと?いまなんて言うた!」と近寄って来ました。今になると、もう少し監督の気持ちに配慮した伝え方ができていたらと思いますが、そのときはとにかく困り果てていたのです。

一触即発の空気の中、ひとりの先輩が監督に近寄りました。その先輩は、知的障害者の介護をしていて精神障害の知識ももっています。ふたりは少し言葉を交わし、離れるとまた練習が再開しました。私は「来週来ようかな、どうしよう」と深刻に考えていました。

「直球だけ投げろ」

そんな事件があった翌日、助けてくれた先輩から「キャッチボールしよう」と誘われ、ふたりで練習することになりました。先輩へ昨日の自分の気持ちを説明すると「わかってた。だから監督にはつぎつぎいうと彼は緊張してできなくなるって話したんだ」と教えてくれました。その先輩は話を聴いてくれるので安心感がもて、口下手な私も自分なりに説明ができました。

翌週、私はまたグラウンドにいき監督と会いました。あんなことがあったのに以前と変わらず、私を「ちゃん」付けで呼んで迎えてくれました。私は得意なピッチング練習をはじめると、チームメイトたちは「球が伸びて来る」と褒めてくれて「変化球はまだ不安定だから、直球だけでいい」ともいってくれました。怯えの気持ちが無いと、暴投も無くなりました。

おわりに

このようなことがあって私はすっかりチームに溶け込めました。ほかの先輩も私に技術を教えてくれ、失敗しても「慣れることやで」と声をかけてくれます。

伝えることが苦手だから我慢してしまう。でも我慢できず気持ちはあふれでてしまう。いずれ伝えなくてはならないのなら、すこしずつ小出しにしたほうが分かりやすいでしょう。

現在通う就労移行支援事業所でも注意をされたり、仮題を指示されたさい、その内容を見て「誤解されてる」と感じるときがあります。でも分かってくれない気がして、それを伝えられていません。

得意ではありませんが、私がもっとも真剣に取り組まないといけないことは、自分の気持ちを相手に上手に伝える方法を身につけることだと思います。

不安や緊張、拘り。私の頭から離れないものからは、今後も完全には逃れられないでしょう。でもそれらを隠したり我慢したりせず、よく自分を見つめて、周りにもうまく伝えることができたらなと思います。そうすれば不安もいくらか楽になるかもしれません。

趣味の草野球は、私にとってコミュニケーション学習の場にもなっています。小さな社会デビューのようで、毎回貴重な経験をしています。

ペコちゃん大魔王

ペコちゃん大魔王

アスペルガー症候群と社交不安障害をもっています。趣味はピアノ演奏、山登り、草野球など。ひとり時間大好き。見るよりもやる派です。座右の銘「人生で一番若いのは常に今」。

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