DaiGo氏の炎上と憎悪(ヘイト)に寄り添うコンテンツ

Photo by engin akyurt on Unsplash

「嫌いなものを嫌いと言って何が悪い」「キモい奴をキモいと言って何が悪い」「叩きたいものを叩きたいときに叩くのがネットのしきたり」

SNSの発達によって、憎悪や悪感情を思うまま吐き出せるようになったばかりか、同じ考えの者で繋がることも容易になりました。辛口評論家や毒舌タレントの真似ごとをして、「自分以外すべてバカ」の価値観に入り浸ったままで居ることも容易になったように感じます。

いわゆる「憎悪ビジネス」も既に隆盛しており、ほとんどあらゆる方面を叩いて馬鹿にするだけの雑誌さえ世の中には存在します。「自分の嫌いなものを代わりに叩いてくれた!」と溜飲を下げる目的で読まれているのでしょうか。

ところが、叩きたいものを叩く本能に根差したコンテンツ作りに異議が唱えられ始めました。「メンタリスト」として活動するDaiGo氏がホームレスや生活保護を叩いたことによる炎上騒ぎです。叩きの連帯ネットワークが持つリスクや薄っぺらさといったものが遂に露呈し始めた格好です。

DaiGo氏の具体的な活動については詳しく調べていませんが、数年前に彼の画像と一緒に「実は○○で…」の一文をツイートするネタが流行っていた記憶があります。「実は叩き活動も安全ではなくて…」

露悪マンガも炎上していた

今年6月に「月刊ドラゴンエイジ」という雑誌で掲載されていた「異世界転生者殺し―チートスレイヤー―」という漫画が、炎上の果てに1話打ち切りという末路を迎えていました。私見ではDaiGo氏とチートスレイヤーの炎上は、「こいつキモい」で同意を集めようとした愚行の果てという点で同じと解釈しています。

チートスレイヤーが問題視された直接の原因は、敵役のメンバーがいわゆる「なろう系作品」の有名所に酷似したデザインで、あまつさえ村を焼き討ちにするなどの悪事を働いていたことです。しかし、「なろう系」に対する態度が更に多くの怒りを買ったからこその打ち切りにも思えます。

作中、敵役への復讐を魔女が提案した時に手土産として情報を提示していました。「奴らの『転生前』はおしなべて冴えない『陰キャ野郎』どもばかり。引きこもり、社畜、非モテ、笑えるほどのゴミ揃いだ」

「なろう系」では類似ジャンルが上位を独占しており、「作るほうも読むほうも、冴えない自分から現実逃避したい考えが見え見えで気持ち悪い」というアンチ意見があります。それへ安易に迎合して「なろう系は陰キャの読み物!キモイ!」で同意を得ようとしたのがチートスレイヤーの落ち度です。

では「なろうアンチ」からは支持されていたのかと言うと、否です。実は「小説家になろう」では鉄板の異世界転生に対するアンチテーゼ作品も頻繁に投稿されており、大抵は「立場が変わっただけで大筋は一緒。アンチテーゼにすらなっていない」と酷評されています。単に転生者を敵としてこき下ろすだけでは評価されません。「なろう系」の市場を全く調査していなかったのも打ち切りの一因でしょう。

それでもチートスレイヤーには1話だけでファンが付いたのか、炎上打ち切りに際して擁護する声もありました。オタク叩きに精を出す人々です。


同じ考えの人にとっては気持ちよく

DaiGo氏は8月7日のYouTube配信にて「生活保護を養うくらいなら猫を救え」「ホームレスの命などどうでもいい」「ヒトは群れの利益にそぐわない者を間引いてきた」「無能議員こそガス室に送り殺処分すべき」などと露悪的な発言を連発し、生活困窮者を支援する団体やホームレス経験のある芸能人らが緊急声明を出すほどの大炎上となりました。

しかしDaiGo氏に賛同する者も「生活保護を不正受給して贅沢する奴がいる!」「ホームレスは不衛生だぞ、避難所で隣になったらどうする!」「DaiGoは正しい!自己責任!」と皆無ではありません。生活保護アンチや自己責任論者にとってはさぞや痛快な動画だったことでしょう。

DaiGo氏は以前、「差別発言は頭の悪い人がすること。低IQほど差別的な事を言う」「頭の悪い人は多様性などと複雑な事が理解できない」「みんなの前で頭の悪さを露呈させてやればいい」として差別主義者を叩く動画を上げていました。今では「ブーメラン発言」とされています。

動画を追っている訳ではないのですが、これら2つの傾向から見ると、DaiGo氏の動画は「同じ考えを持つ人が気持ちよくなれる」ことに重きを置いている感じがします。特定の視聴者層を想定した動画作りはマーケティング戦略としても認められていることですが、その内容が他人や団体などへのこき下ろしに終始していては結局単なるヘイトの垂れ流しです。

DaiGo氏へ賛同する者に足りないのは、「命の選別がまかり通ればいずれ自分も落とされる側になるかもしれない」という想像力です。或いは、「自分の命には価値があるので、選別で落とされない」という根拠のない傲慢な自己認識で居るのかもしれません。今安定した生活を送っていても、たった一つの些細な不運から簡単に安定は失われてしまいます。安定が永久でない以上、「命の選別」を認める訳にはいきません。

DaiGo氏の「少年院」的な存在になるとされる、NPO法人「抱樸(ほうぼく)」の奥田知志理事長は、「(失言について)彼は一旦自分を見つめ直し、傷つけた人々の痛みを肌で感じてほしい。『学び』とはそういう場だが、私は安易にその場を提供しない。徹底的に自己批判してもらいたい」と反省を促しました。しかし当の本人からは「寄付の呼びかけなら出来る」などと不真面目な提案を受け、拒否したとも話しています。

「うちでの学びを動画のネタにしない」と約束したものの2度の「謝罪動画(「ホームレス」をNG指定)」で破られるなど、奥田理事長の想いが通じているかは疑問です。それでも奥田理事長は「学びたいと思う人は誰でも学んでほしい」「彼が自分を見つめ直し、沢山学ぶことを願う」と、DaiGo氏の再出発を応援する意思を変えていません。(今のところは…)

一度のミスで一生の烙印が残りかねない「ゼロ・トレランス」社会のなかで、反省と再出発を温かく支えてくれる存在は貴重です。これをフイにしないかどうかは今後次第といったところでしょう。


叩き趣味で価値観は歪むようだ

かつては「露悪的な人間ほど(正直だから)信用できる」とも言われるほど、露悪主義・本音主義が至上とされていました。その流れからか、「叩きたいものを叩く」という本能的な生き方も蔓延し、その生き方にコミットするビジネスも生まれます。

ありもしない悪意や皮肉を捏造され、意見を捻じ曲げられるケースも出てきました。「息子が電車の模型にハマって、その影響で自分も少し電車に詳しくなった」という育児漫画が、「これから成長するにつれて他にも色々な趣味を持っていくんだろうな」という部分だけ切り取られて、「息子が鉄道オタクになって欲しくない母親像」に捏造されたケースです。

捏造された書き込みは既に削除されており、育児漫画を描いた親御さん本人からも苦情が出ていたそうです。被害妄想か鉄道オタクへの憎悪か分かりませんが、主旨を捻じ曲げて再発信していたことは確かです。

誰も傷つけない表現というのは不可能です。例えば、「障害者虐待防止法」について厚生労働省のホームページから丸写ししただけでも、「うちの施設が虐待しているとでもいうのか!」と怒られる可能性はゼロではありません。(ゼロには近いですが)

しかし、「誰も傷つけない表現は無理」だからといって「誰かを傷つけるのは生理現象」とはなりません。開き直って叩き趣味に精を出していると、怒るためにネットをさまよう不健康な状態となってしまいます。とはいえ、心中で思うだけならば誰にも妨害されません。どうしても「心の立ちション」が必要というのであれば、その必要性は錯覚なので速やかに「便器」を見つけてください。


参考サイト

DaiGo「IQが低い人ほど差別的な発言をする」過去発言でブーメラン現象
https://www.tokyo-sports.co.jp

炎上のメンタリストDaiGo“引受先”が声明 寄付金集めの申し出は拒否、約束違反には「残念」
https://news.yahoo.co.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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