介護疲れからの自宅放火、それでも安楽死は受け入れられない

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Photo by Abbie Bernet on Unsplash

千葉県旭市で、自宅に放火して夫と長男を死なせたとして妻(65)が逮捕されました。夫は脳梗塞、長男は脳性まひで寝たきりとなっており、妻自身にも身体障害がある中でワンオペ介護が続いていたとされています。警察の調べでもワンオペ介護による疲れが動機とみられています。

この事件からは福祉制度の不行き届きを否応なしに見せつけられた思いです。明らかに福祉支援が必要な家庭だったにもかかわらず、蜘蛛の糸となるべき情報すら降りては来ませんでした。とはいえ、福祉支援が必要な所ほど支援の情報を探っている余裕がない矛盾が放置されていますので、その点が最大の課題となりそうです。役所が自らポスティングでもしてくれるのでしょうか。

そして、どのような背景があったにせよ妻が犯した罪は裁かれねばなりません。夫や長男への所業は最悪の裏切りと言ってもよく、ワンオペ介護による過労でさえ言い訳にはならないのです。

本当に必要とする人に届かない現実

皆さんは何らかの福祉支援を受けるにあたって何処から情報を仕入れましたか。情報源が何であれ、自ら能動的に有益な情報を得て活用したのではないかと思います。言い換えれば、受け身の姿勢では福祉支援に関する有益な情報が入って来ません。

自分で情報を仕入れる余裕のある人にしか福祉支援を受けられる可能性というものは存在しません。今回逮捕された妻のように、毎日ワンオペ介護に追われていては支援について調べる時間さえ作れなさそうです。せめてレスパイトできる場所とアクセスさえ掴めていればあのような結末は迎えなかったでしょう。レスパイトとは被介護者を一時的に病院や施設等へ入れて介護者を休ませる仕組みを指します。

あるいは「家族のことは家族で解決せねばならぬ」という呪縛が家庭や近所を支配していたのかもしれません。福祉支援やレスパイトを根付かせるには、地域住民一帯に「啓蒙」「教育」を要することさえあるでしょう。制度自体はある程度揃っている筈です。問題はそれにアクセスするための「導線」と「心理」を妨げる障壁です。

安楽死の確立を訴えるネット民

こうした問題の解決策として「安楽死」を挙げるネット民を少なからず見かけましたが、とんでもない話です。京都のALS嘱託殺人の時にも出てきていましたが、「もし自分の身体が動かなくなったら死にたくなると思う。だから安楽死は必要」という意見があまりにも多すぎます。下手をすれば「安楽死」のベールを剥ぐと「役に立たない重度障害者は消えろ!」という本音があるかもしれません。

安楽死の制度化には2つの問題が挙げられます。ひとつは「同調圧力」で、「アイツはまだ安楽死を選んでないのか。せっかく制度があるのに」「同じ症状で安楽死を選んだ人がいるのに、どうしてあなたは生きようとするの?」といった周りの圧力によって安楽死を“選ばされる”リスクが無視できません。「生きたい意志」を押しのけてまで「死ぬ権利」を通してしまっては、却って多くの権利が失われてしまいます。

もう一つの問題は「責任の所在」です。延命を諦める「尊厳死」でも実行した医師あるいは家族が罪に問われるケースがあります。そもそも安楽死が合法化しているオランダですら、患者の意思が二転三転したことで医師が有罪判決(処罰は無し)を受けています。

つまり、一つの命を終わらせる責任は無視できないほど大きすぎる訳です。巨大な責任を負わされ続ければ、精神障害者として手帳を交付される医師が増えることでしょう。社会的信頼の著しく低い「精神障害者」になる医師が増えれば、それは医療崩壊と呼べはしないでしょうか。

以上のことから安楽死の導入には反対です。逆に言えば「同調圧力で“選ばされる”リスク」と「精神障害や精神疾患による社会的信頼の失墜」さえどうにかできるなら現実的なラインには立てるでしょう。

「生きる権利」が優先されることを徹底的に「教育」し、精神障害や精神疾患の社会的信頼を上げていくことが、安楽死の導入にあたってやらねばならないことだと思います。これらがどうせ無理だろうと踏んでいるからこその反対なのですが。

もしかして:拡大自殺

安楽死の導入を望む者の中には、「自分が安楽死を受けたいから導入して欲しい」という声もあります。そのために他人の「生きる権利」さえ潰しかねないものに賛同しているのは、見方を変えれば「拡大自殺」にあたるのではないでしょうか。

拡大自殺とは、無理心中やテロ行為で自殺の道連れを求めることを指します。いわゆる「死刑になりたくて殺しまくった」という供述ですね。アメリカでは銃乱射事件の犯人の家族が自殺防止の取り組みへ精力的に参加しており、「自殺願望は外へ向かえばテロの動機になる」ことが周知されつつあります。

意外に思えるかもしれませんが日本の社会福祉や社会保障は海外に比べ充実している(寧ろ海外の方が保障のレベルが低いとも)とまで言われています。ただあまりにも周知度が低すぎて、支援を受けるための行動を取れない人に対して非常に冷たいだけです。そこが大きな問題でもあるのですが。

「生きていく方が良い」と思える社会にまで成熟はしていませんが、生きたい意志を無下にするほどやけっぱちな社会でもない筈です。思いつく限りの相談先へ話も悩みも希死念慮も全て持って行ってみてはいかがでしょうか。

参考サイト

自宅に放火、夫と長男殺害した疑いで逮捕「介護疲れた」千葉・旭
https://news.yahoo.co.jp

安楽死を行った医師、殺人罪で有罪に
https://www.portfolio.nl

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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