大阪北新地ビル火災を受けての精神障害当事者向けアンケート、結果公表
暮らし出典:Photo by Daniel Abadia on Unsplash
一般社団法人精神障害当事者会ポルケは、「大阪北新地ビル火災事件以後の経験や考え方についての精神障害のある人への意識調査」を、精神科・心療内科に現在通院している方を対象に実施しました。1週間という期間を設けてWEBフォームを設置する形式で、128人が回答しています。
回答者について
【通院歴】
通院歴は10年以上にわたる人が最多で、全体の6割強となっていました。
【性自認】
女性がおよそ6割、男性がおよそ3割でした。「その他」はおよそ1割で、ノンバイナリー・LGBTQ・無回答が含まれています。
【年代】
30代が35.9%と最も多く、次いで40代(32.0%)50代(15.6%)20代(14.1%)と幅広い年代が回答していました。ごく少数ながら60代以上の回答もありました。
【居住地】
1都1道2府18県の回答があり、東京都が全体の3割近くを占めていました。事件のあった大阪府からの回答も全体の1割を占めています。
事件以降に寄せられた意見や事例を基にした質問
事件後に挙がった様々な意見や事例に対し、「とても共感する」「ある程度共感する」「あまり共感しない」「まったく共感しない」から当てはまるものに印をつける形で回答する質問群です。
【意見1:どうしてこのような事件が起きたのか、理解に苦しむ】
この一般的な反応に対しては、回答者の54.7%が共感の意思を示しました。過半数ではあるもののほぼ半々といえ、受け止め方の迷いが表れています。
【意見2:事件と同じように自分が通院先で被害に遭わないか心配だ】
共感が7割近くに上り、事件の受け止めとして被害者側へ意識を向ける人が多いと分かりました。一方、個別回答では「他の通院者と話したことがない」という声もあり、患者同士の分断が懸念されています。
【意見3:事件報道で被疑者の通院歴を強調することで、偏見や差別が助長されないか心配だ】
共感が9割を超えており、通院歴を強調する報道への懸念が極めて強く出ていました。個別回答では、以前から続く事件報道に対する懸念の声も寄せられています。
荷物検査や偏見に対する質問
【病院・クリニックでの荷物検査についてあなたの考えに最も近いものを選んでください】
「あまり実施すべきではない」「実施すべきではない」とする荷物検査に消極的な回答が全体の60%にのぼりました。また、「荷物検査の実施すべき」という意見が、約7%であるのに対して、「実施すべきではない」という意見が、約3倍の30%近くにのぼりました。
【事件以降、あなたの通院先では荷物検査が行われていたことはありますか?】
東京都で5件だけ(3.9%)ありましたが、荷物検査をする理由などを説明しないことに対する不信感や不快感がコメントで寄せられていました。回答者を通じて病院の一つへ問い合わせたところ、「大阪の事件を受けて全体的な不安感があり、特に患者さんで通院すること自体が怖いとなってしまった人がいたので実施した。患者さんの不安感がある程度おさまったので、今月末で手荷物検査はやめる予定」との回答を頂戴しています。
【事件以降、あなた自身や周囲において精神障害についての偏見や差別が増えたと思いますか】
差別や偏見については、事件以降「変わらないと思う」という声が66%に上りました。事件をきっかけにした偏見や差別は、体感としてそこまで多くないことがうかがえます。大阪在住の方に限定した場合も「変わらないと思う」という回答がおよそ70%になりました。一方で、増えたという回答も32%を占めています。
【精神障害に関する差別や偏見の問題のために必要なことは何だと思いますか?最も大切だと思うものを選んでください】
「当事者が生き生きと暮らすための社会環境を整備すること」が最も選ばれました。次いで「マスメディアの報道の在り方の是正」、以下「教育課程での精神障害の偏見を解消するプログラムの実施」「市民社会や企業等での障害理解啓発の取り組みを広げること」と続きました。「その他」として自由回答の枠も設けたところ、正しい情報を理解してもらうことが共通しています。
自由記述
【事件以降、あなたが経験した通院先や暮らしでの違和感や差別的な経験があれば教えてください】
「事件の起きたクリニックに通っていました。通院先がなくなり新たなクリニックを探さないといけないのですが、事件のことが思い出されて胸が苦しくなり、なかなか動き出せずにいます」
「通院先では、すぐに非常口を確認した。兄妹から『精神疾患は、人殺しをしてもどうせ無罪だろ』と言われた」
「お前は精神病には見えない、と言われるととてもムカつきます。外出時にはとても苦労し、悪目立ちしないように気をつけているので。あまり言われると、何処に目を付けてるのか、とノドまで出かけます」
「実際の身の周りでは感じませんが、某SNSで一部の人が精神科患者に対する偏見を発信してその友達が皆共感していました。自分は心の病気に縁がないと思っている、私とは違う世界の人達だと思い悲しい気分になりました」
「ネットコメントなどでも精神障害者は犯罪者と変わりがなく何をするわからない、隔離してほしい、一生出てこないでほしい、人に迷惑をかけるんだから余計に障害者料金は罰金で高くすべきだ、みたいなヘイトをよく目にする」
【あなたがこれまで経験した偏見や差別について、差し支えない範囲で教えてください】
「昔の診断(境界性パーソナリティ障害)を告げた瞬間、手のひらを返すように対応が変わる」
「家族に精神疾患がある事を隠せと言われている」
「私の病気(統合失調症)を知ったら誰も結婚などしてくれないよ、と暗に言われたことがある」
「友人に障害者雇用で働く旨を話したら、顔色が変わり、一般雇用を勧められた」
「障害者は、年齢的に大人であっても一人前には扱われない」
「あまり目立つと健常者が面白くないと感じたことが何度かある。企業の中で健常者に混じって働いていると、時々冷ややかな言動に直面することがある」
「クリニックを出たところで通りすがりの人にキチガイと言われた」
「退院後、学校に来てほしくないという態度を取られた。能力を下げて見られるようになった。なにかに挑戦する機会が物理的になくなった」
「障害者割引を使うときに手帳を提示したときのスタッフの表情・態度。支援者・福祉関係者から子どもに話しかけるような話し方をされる」
「就職活動で障害があるからそんな顔なのかと問われた。障害をカミングアウトしたら受かっていたバイトの合格を遠回しにキャンセルされた」
「賃貸契約が通らなかった。バス停でヘルプマークに気がついた年配男性から『キチガイか…』と言われた」
「就職活動で障害の事を伝えたら即落とされた。また、婚活でも病気の事を伝えたらすぐに縁を切られた」
「通ってた女子高で『精神科に通ってる奴が大会に出て入賞しないで良かった。金輪際俺の目の前に現れるな』と部活の顧問から吐き捨てられた」
【ほかになにかお伝えしたいことなどあればお教えください】
「私は普通じゃないけどそれは悪いことではない」
「精神障害者という未知の存在だから怖いんだろうなと思います」
「支援者の教育システムをちゃんとしてほしい。支援者もケアされないとその歪みが患者に周りソレが巡り巡って支援者への復讐と言う歪んだ形をとる」
「このようなアンケートを実施してくれてありがとうございます。当事者が勇気を持って発言をしていくことが大切だと思います」
「まずはどのような事情があろうとこのような事件を起こすことは許されないこと。その上で被疑者に対する支援、特に服役後に手厚い支援が受けられなかったかと悔やまれる。私自身も加害者にならないよう行政、作業所、主治医等つながりを絶やさないよう心掛けている。事件後は気持ちが最悪でオーバードーズしたりもしたが、すぐに通院し適切な対応を受けた。被疑者には生きて残りの人生をかけて償ってほしかった」
「社会資源へのアクセスのしにくさ(申請主義)が孤立を助長し事件につながるような気がしています」
「精神科特例をやめ通院入院含めて重厚な医療と支援をすべき・作業所の工賃をせめて最低賃金なみにして社会に出ようとできるような体制にするべき」
「発達障害だから誰でも犯罪を犯すわけじゃないことを理解して欲しい」
「精神疾患を持っている=犯罪を犯しやすい人という間違った報道をやめてほしい。心底腹立たしいし、悲しい」
参考サイト
【結果報告】大阪北新地ビル火災事件以後の経験や考え方についての精神障害のある人への意識調査
https://porque.tokyo