「これからの入院制度についての意識調査」一般社団法人精神障害当事者会ポルケが実施

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Photo by Dan Dimmock on Unsplash

一般社団法人精神障害当事者会ポルケ(以下、ポルケ)は、2022年4月23日~5月4日の期間にWEBフォームを通じて入院制度に対する当事者向けの意識調査を実施しました。精神科・心療内科に現在通院・入院している方を対象に220件もの回答が集まっています。

ポルケでは当事者交流や相談などから、精神科の入院における経験や制度の在り方について様々な考え方が寄せられていました。ポルケは当事者団体として、精神医療が良いか悪いかの二項対立ではなく一人ひとり当事者の声や気づきを広く社会に発信することが必要と考えており、ネガティブな経験を繰り返さずポジティブな経験を広げるにはどうしたらいいかという観点を重んじています。

調査結果の概要

まず、当事者が最重要視するポイントについてです。調査の中で当事者が最も重視していると分かったのは「『医師から説明を受け安心して医療を受けられる』というインフォームドコンセントの観点でした。次いで、「自分が希望するときに医療を受けられる」という自己決定の観点が重要視されています。

いま大詰めを迎えている「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」では、国から「医療保護入院の廃止」という文言が初めて盛り込まれました。これは後で「将来的な継続を前提とせず」とマイルドに修正されましたが、アンケートでは修正前を支持する意見が自由記述含め過半数を超えていました。

ポルケの意見としては医療保護入院を廃止する方向性について賛同する一方、「代替案はあるのか」「人員を増やすなどの措置が必要ではないか」というコメントも拾っています。

回答者の属性

回答した220人について、入院歴や年代などの属性を箇条書きでまとめます。

精神科・心療内科の受診歴は10年以上の人が全体の72.9%と最多。
全体の60%に入院歴があり、10回以上入院した人は13人。
半年以上入院した人は48人おり、最も長い人で6年半。
回答者の27.1%が医療保護入院の経験を持つ。
10代から70代まで幅広い年代の回答があり、多かったのが40代(29.0%)と30代(25.7%)。

入院についての考え方

ポルケには入院への考え方について様々な意見が寄せられていました。それらについて回答者に共感するかどうかの問いが設けられています。

「症状がわるくなった時や服薬調整などに、希望する入院治療が受けられることが大切である」
自身が希望する入院治療を受けられることの大切さは、全体の86.2%が共感を示しました。自由記述では入院治療自体を否定する物言いがある一方で、「一人暮らしなので症状が重くなると自己管理できない」「入院出来ないと自分だけでなく周りもつらくなる」と理解を示す回答や、入院治療以外の方法を期待する声もありました。

「入院治療は誰かに強制されるのではなく、自分で判断したい」
入院治療するのか自分で決めたいという意見には、全体の91.9%も共感されており、自由記述でも「入院させられたこと自体が悩みとなる」「納得できないまま入院し、主治医も家族も信じられなくなった」否定的な声が多く出ました。「60年前入院させられたトラウマが残っており、20年前に再発の危機を感じても入院は選択肢になかった」と、精神科医療の現状を憂う意見も出ています。

「緊急事態の際は、無理やりにでも入院治療を受けることは仕方がないことである」
重大な自傷他害の危険性が伴うと、入院治療への共感は74.3%と大きな割合を占めました。「自分が何をするか分からない状況ではやむを得ない」「自殺や加害など取り返しのつかない結果になると思う」というのが共感の理由でした。患者の尊厳を守るシステム構築や地域資源の充足といった提案もありました。

「非自発的な入院で医療への不信が高まり、退院後も治療に前向きになれなくなる」
不本意な入院が医療不信を招くという意見には83.3%が共感していました。自由記述では「心の問題を無駄に増やす」「明確な基準のない精神疾患領域は、周囲の困り具合に左右されがち」「精神病者の主体性を否定するのは誤り。インフォームドコンセントは精神病者にも保障されるべき」といった意見が出ています。

「自分は入院をしたくなかったが、親の同意により入院(医療保護入院)をしなくてはいけなかった。自分の中でうまく気持ちの整理がつかず、関係修復が難しくて悩んでいる」
医療保護入院によって親子関係に亀裂が入るという意見には83.8%が共感していました。自由記述では「退院を求めても親が認めてくれず辛い入院が延びた」「身近な人間に裏切られては復讐心しか生まれない」「配偶者が医療保護入院を経験しており、今後も何かにつけて入院させられるのではと親を疑っている」といった経験に基づく回答も寄せられています。

「なにがあっても入院は絶対にしたくない」
これについての意見は拮抗しており、共感は52.8%と半分程度に留まりました。但し、医療保護入院の経験者に絞ると共感が65%にまで伸びています。入院はもう嫌だという意思のあらわれでしょう。

最近の報道について

医療保護入院とは、かいつまんで言えば「意思決定の困難な本人に代わって家族などが同意する入院」のことです。国の検討会でも意見が交わされており、アンケートではこれについての設問も用意されていました。

国が検討会で出した資料が「(医療保護入院制度の)将来的な廃止」から「将来的な継続を前提とせず」と修正されたことについてです。マイルドな表現に修正した方を支持するのが20.0%だったのに対し、修正前を支持する方が43.8%と最多でした。自由記述も含めれば修正前の支持は過半数に上ります。

「どのような医療保障があるといいか」については、「服薬効果など医師からしっかり説明を受けるなどして、安心して医療を受けられる」「自分が希望するときに受診や入院ができる」といったインフォームドコンセントにや自己決定に関するものが合計70.0%を占めました。一方で、強制力を伴う医療については13.8%しかありませんでした。

経験や気づきによる自由記述

入院において良かったこと・悪かったことの自由記述は多彩な回答が寄せられました。その一部を箇条書きでご紹介します。

入院で「良かった」こと
「他の入院患者と悩みを共有できた」
「他の入院患者と寄り添い合えた。20年前のことだが、今でも交流がある」
「看護師にも相談できた」
「希死念慮が強くなっても身の保護が出来る」
「とても辛い作業だったが、自分の本当の人生と向き合えた」
「虐待のある家庭から離れ、カウンセリングや診察の中で家族関係を整理できた」
「入院当時は嫌だったが、今思えば正解だったと思う」
「あまり鍵をかけない開放的な病院で、家よりも落ち着く場所だった」
主に入院仲間に関するメリットが多く書かれていました。入院中や退院後の生活指標であったり同じ悩みを共有する仲間であったり、中には友情を育んで退院後も交流している人もいました。また、病院ごとの風土が合うかどうかも大きく、閉鎖病棟でさえ合う人には合うことが示唆されました。

入院で「悪かった」こと
「隔離拘束がとても怖かった」
「スマホが使えない。部分的にでも使わせてほしい」
「同意も説明もなくいきなり鎮静剤を注射される」
「早く退院したかったので医師や看護師に嫌われないよう努めた」
「治療に関係のない研究協力のための骨髄穿刺をされそうになった」
「鉄格子で隔離された生活は著しく自尊心を傷つけた」
「同室の人と揉め事になっても医療者は間に入ってくれず、仲間外れにされた」
「医療保護入院の後、医療事故で亡くなった例を知っている」
下手な医師や看護師に当たったことによる不満が多数出ており、病院や医師がピンキリであることが伝わってきます。入院患者同士のいじめ等もあり、メリットで述べた「病院との相性」「入院仲間の存在」が悪い方向に出ていることがうかがえます。

その他自由記述

「医療保護入院が廃止されても医療が受けられなくなる不安は感じていません。むしろ、医療保護入院によって医療不信になり、かえって医療保障と遠ざかってしまいます。」
「精神病者の社会的包摂を進めるべき。我々は怖くないんだよということを伝えたい」
「入院を必要とすることが私にもあるので、まずは精神科の看護師さんの数を一般病棟と同じにして欲しい。そうすると、自然に改善する部分が沢山あると思う」
「普通に社会で生きる場が治療の場であるような制度を作りつつ、病院自らが地域に協力する開かれたものになってほしいと思います」
「現実的でないかもしれませんが、命の保護と患者への丁寧な説明ということをしっかりと実施し、安心して療養できる環境で入院サービスを提供してほしいです」
「精神障害者への誤解を煽るようなニュース報道を無くして欲しいです」

参考サイト

【報告レポート】当事者の視点から期待する―これからの入院制度についての意識調査―
https://porque.tokyo

障害者ドットコムニュース編集部

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