国連から「支援学校・学級を廃止せよ」と勧告される!だが安易な一元化は別の問題が出る!

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Photo by Afif Kusuma on Unsplash

国連の障害者権利委員会は9月9日、障害児を分離した特別支援教育の中止と精神科への強制入院に関わる法律の廃止を求めた勧告を日本へ発表しました。国連の勧告に強制力はありませんが、影響力としては大きいでしょう。

国連の要求とは「障害を持つ児童すべてが、どの教育レベルでも合理的配慮や個別支援を受けられること。そのために十分なリソースを確保し、質の高いインクルーシブ教育の実現に向けて国家を挙げて計画し動くこと」です。

支援学校や支援学級は目の敵にされる格好となりました。しかし、これらを廃して通常学級一本に絞れば万事解決とならないことは容易に想像がつくでしょう。ただ通常学級だけにすればいいという話ではないばかりか、単純な統合は枚挙にいとまがないほど多種多様な問題に繋がります。

国連審査に100人もの陳情

きっかけは2週間ほど前、スイスはジュネーブの国連本部で行われた審査でした。この審査は「障害者権利条約」を締結した国に対し、これを守れているかどうかチェックするものです。日本は2014年の締結以来、初めての審査となります。

審査は国連の障害者権利委員会が質問をして政府側が答える形式をとります。それだけでなく、当事者や家族・支援者らの意見も取り入れるために「別枠」も設けています。審査当日は見ているだけですが、その前日までロビー活動や意見交換などが許されているため、そちらに賭ける人もいる筈です。

その「別枠」として日本からスイスに渡航したのは約100人で、他国と比べても例のないほどの大所帯でした。彼らは不慣れな英語もあの手この手で駆使しており、同行した共同通信の記者は「社会の壁に比べれば、言語の壁など問題ではないようだった」と振り返っています。

障害者側はこう訴えました。「教師から『君は他の子の学習権を侵している』『言葉をちゃんと話せない子は嫌われる』と言われた」「地元の教育委員会に何度掛け合っても普通学校への編入を断られた」「学校で友達と会うのは楽しみだが先生は怖い。もっと優しい言葉をかけて欲しい」

スイスへの渡航費は、所属する障害者団体の積立金やカンパ・クラウドファンディングによって賄われたそうです。「健常者にとっては当たり前のことが、なぜ自分たちには許されないのか」「政府に任せていては駄目だ。自分たちの手で日本を変えよう」という意思で約100人の大所帯が結成されました。現地で審査を傍聴した障害学の教授は「政府にとって厳しい勧告が出るだろうが、大切なのはその後どう対応するか。内容を直視し政策に反映してもらいたい」と話します。

こういった当事者サイドの強い結束と訴えがあったからか、国連の勧告は「特別支援教育の中止」を求めるものとなりました。支援学級や支援学校の概念を無くせばいいというものではない筈ですが…。

お互いに苦い顔

審査は900人を収容できる大会議室で実施されました。国連の委員18人と日本政府代表団約30人が向かい合って質疑応答し、これを約100人の障害者らが後方から見守る形となりました。委員からの質問には「相模原」や「優生保護法」といった、日本政府にとって耳の痛い単語も飛び出します。

委員「特別支援教育を選ぶ保護者が増えているのは、必要な配慮を普通学校が出来ていないからではないのか」
政府「一人ひとりのニーズに合わせた学びの場を提供し、特別支援教育と普通教育のどちらにするかは本人と保護者の意見を最大限尊重している」

委員「強制入院の廃止に向けた対応が遅く、地域社会での生活が選択肢に入っていない」
政府「強制入院・隔離・拘束には要件が定められており、精神保健指定医の診察が必要だ。法改正でもこれの改善に向けて準備を進めている」

委員「2016年に相模原の障害者施設で大きな事件があった。これを受け、施設で暮らす障害者が依然多い現実をどう捉えているか」
政府「重度含め、グループホームなど地域生活の為の様々なサービスを用意している」

委員「旧優生保護法により強制不妊手術を受けた人へ、一層の支援が必要ではないのか」
政府「優生保護法は法改正で姿を消した。該当する人には一時金を支給している」

政府とて無為無策で過ごしているわけではありませんが、この受け答えは傍聴の障害者側にとって誠意に欠けたように聞こえたようです。障害者側は「実態と異なる出鱈目の答弁」、政府側は「障害者団体の話を鵜呑みにしている」と互いに苦い顔をさせられる審査会となりました。

とはいえ国連側の質問も、日本の障害者福祉が辿った過去と現在を的確に読み取ったものといえます。日本では特別支援学校に通う子どもが10年前の約1.2倍、小中学校の特別支援学級に限ると約2.1倍も増えています。支援学級では内申点が出ないなど、通常学級から外れた時点で将来の進路が大きく狭められるシステムも突かれて痛い泣き所でしょう。

発達障害の判断が明確化して保護者が気軽に選択できる一方で、他社から特別支援教育を勧められたり通常教育で支援や配慮を受けられなかったりする受動的なケースもあるのではないでしょうか。それを突かれた勧告とも言えそうです。

安易な一元化が招く諸問題

国連から勧告こそ出たものの、言われるがまま特別支援教育を打ち切り通常教育一本に絞ればいいかというと、そう単純にはいかないでしょう。寧ろ、支援や配慮の脆弱な通常教育だけに一元化すれば多くの問題が噴出しかねません。現時点ですら「交流学級」が抱えている諸問題がそれを物語っています。

「障害児被害者の会」が乱立する
交流学級の話題になると必ずと言っていいほど、「自分の時は支援級からこんな目に遭った!」という被害報告が飛び出し、一人ひとりが「被害者の会」の会長であるかのように名乗りを上げてきます。ベタベタまとわりつかれる程度から大人なら労災レベルの怪我まで様々です。書いている本人はご愁傷様ですし一言ぶつけてやりたい気持ちも分かりますが、本当の問題は障害者アンチがこれに便乗することです。

「お世話係」の固定化
交流学級でつきものなのは、「お世話係」の固定化です。クラス内の高カーストが陰に陽に低カーストへ押し付けたり、席が近いとか少し話しただけで担任などからお世話係認定されたりして、何十人もいるクラスの数人しか関わっていない状態となります。これは共生やインクルーシブ教育とは程遠い「投げ捨て」です。楽しい付き合いを続けられるならいいですが、振り回されっぱなしで先述の「被害者の会」を増やしてしまうオチにもなりかねません。

通常学級自体が向いてないとどうなる
授業の受け方は多様化しており、通級指導教室もその一部です。それを通常教育一本に絞るのは、見方としては時代と逆行しており、通常教育そのものに向かない子どもの適性を無視しています。数十人が一室に集まる授業がどうしても合わない子どもたちから選択肢を奪うのは酷ではないでしょうか。一人ひとりに配慮できるのであれば話は別ですが、それが出来ていると言い切れるのでしょうか。

担任教師の質に左右される
これらの諸問題にどう対応するかは現場の担任教師にかかっており、交流学級が一年後にどう転ぶかは担任教師の質次第といっても過言ではありません。しかし、障害に知識と理解を持ち一人ひとりに寄り添える教師は稀少で脆い存在です。「特別扱いはしない」などと言い訳して画一的対応に甘え、はみ出す子どもが悪いと考える教師の方が多数派ではないでしょうか。特別支援教育にはそれをカバー(尻拭いとも)する側面もあるのだと思います。

一番のしわ寄せは現場の(真面目な)教師へ

国連の求めるインクルーシブ教育を実現するには、現場で指導する担任教師の協力が欠かせません。トラブルを上手に仲裁し、お世話係を作らせず、合理的配慮も出来る、そんな教師を育てて増やさねばなりません。しかし、その土壌が整っているとは到底思えませんよね。

国連からも政府からも保護者からも注文が飛んでくるとなると、一番しわ寄せが来るのは現在の教師たちです。インクルーシブ教育を進める素質のある教師は、やるべき役割への知覚・自覚が鋭くなって仕事が増え、オーバーワークからのバーンアウトまっしぐらとなりかねません。あたら真面目で熱意のある教師が辞めてしまい、でもしか教師のような不真面目な大人ばかり残ってしまえば、インクルーシブ教育は決して実現しないでしょう。

まずはインクルーシブ教育を理解し実行できる教師らを、保護し厚遇するのがスタート地点だと思います。真面目に働けば報われるというあるべき流れを、子どもたちに最も近い大人である教師が享受すれば、それは何よりの教材にもなるのです。

参考サイト

「障害児は分離され、通常の教育を受けにくくなっている」国連、日本政府に“分離教育”やめるよう要請
https://www.huffingtonpost.jp

国連も驚いた!日本の障害者ら100人が大挙してスイスへ「政府より私たちの声を聞いて」と必死の訴え権利条約、改善勧告の中身はどうなる?
https://nordot.app

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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