統合失調症でも、生きていく~第二章

統合失調症

出典:Photo by Rodion Kutsaiev on Unsplash

統合失調症でも、生きていく 

手首を切った私は、救急車の音で目が覚めました。「死ねなかった」

気づいた私は救急隊員の人に向かって叫びました。「お願いです!拘束してください!でないと、家族を殺してしまうんです!!」

その後さらに気を失い、覚えているのは手術台の上の照明、初めて見る白衣の医師……私は病室に運ばれました。

その日の夜はまだ、目が覚めると頭の中で「殺してやる、殺してやる」の言葉が聞こえていたのです。

正気

いったい何日たったのでしょうか。薬が効いてきたのか、幻聴はきこえなくなっていました。父や母や兄が交代で毎日お見舞いにきてくれました。

何週間かかったかわからないですが、私はとりあえず、正気を取り戻せたのです。病室も個室から普通の4人部屋に移ることができました。

1番つらかったのは、薬の副作用でした。頭がまったくまわらないのです。また、ときどき胸がなんともいえない気持ち悪さに襲われるのです。しかし、この気持ち悪さにはとんぷくの薬があることを知って安心しました。

同年代の友達ができましたが、誰といても何も話題がうかびません。家族ともです。

目もうつろで、廃人のような顔をしていました。3か月の入院は長いものでした。

退院

3か月後、念願の退院ができました。薬のおかげで、統合失調症や対人恐怖症はかなり緩和されていました。退院後、母が毎日のように私を外へ連れだしてくれたのです。朝は2人で家事を分担して、10時ごろからでかけ、花を見にいったり、街に買い物にいったり。ひたすら歩けるところまで歩いてみたりもしました。とてもありがたかったし、母との時間を取り戻しているようで嬉しかったです。

しかし、やはり健常者と病人です。若かった私は、将来がとても不安でした。あいかわらず、会話は相槌ばかりで、頭はボーっとしていました。「こんな状態でいつよくなるんだろう?」と思っていましたし「結婚も出産もできますよ」といわれていましたが「何年先の話?」と信じられない気持ちでいっぱいでした。

夕方になると毎日、鬱にも悩まされていました。気持ちだけでなく、頭がもやもやとして、すごく気持ち悪かったです。そんな生活が、1年ほど続いたのです。

再会

通院をかさね、薬でかなり体調がよくなったころ、近所に小さなカフェがオープンするためにスタッフを募集していました。目立たないところにある小さなカフェだったので、オープニングスタッフなら丁寧に教えてもらえるだろうと思い、いつまでも社会とかけ離れているのが怖かったので、ダメ元で面接をうけました。そのころの私には、薬のバックアップがあったので、対人恐怖症もそれほど重くうけとっていなかったのです。

その後、無事面接に受かり、毎日午前中だけの条件で雇ってもらえました。昼から交代で入る女の子とも仲良くなりました。同じ時期、ずいぶんと頭も回転するようになってきたことに気づき、ホッとしたのも覚えています。

そんなある日、病院で一緒だった男の人が偶然お店に入ってきて、おたがいびっくりしました。退院後、近所に引っこしてきたとのことです。その人も統合失調症で、同じ時期に発病し、似たような治療過程を経てきていたことは知っていましたが、何ぶんおたがい頭が回転していなかったので、ただの知り合い程度でした。

再会したときは2人とも面白いくらいに話が合って、よく仕事あがりに一緒に昼食をとりました。彼は身寄りが無く、生活保護で独り暮らしをしていました。途中いろいろありましたが、私たちはお付き合いをすることになりました。もちろん、私の両親も承諾ずみで。両親は彼の人柄を気に入ってくれていましたし、なにより「娘が幸せそうにしていればそれでいい」と感じてくれていたようです。実際、彼はそれまで出会ってきた誰よりも人の心に寄り添える人で、一方では心の底から明るく笑わせてくれる人だったのです。

その後、私はカフェのバイトを卒業し、念願の事務仕事につくことができました。派遣社員で、10時から15時というゆとりのある時間帯で働き、帰りは少しだけ彼の家に寄って早めに帰宅するという毎日がとても幸せでした。

結婚も当然考えていました。彼も介護の資格を取り、働き始めました。何もかもがうまくいっているようだったのです。周りの友達からも「普通のカップル」として、見てもらえていました。

破局

ですが、やはりダメでした。ある日、私は彼の異変を感じたのです。いつもはおしゃべりな彼が、ボーっとどこかを見つめていました。病人の目です。「今から病院行こう」と思いましたが、運悪く日曜日でした。問い詰めると、最近薬をさぼっていたとのことだったのです。

彼の親友にも話を聞きました。「あいつは自信過剰だから、ときどき薬さぼってダメになるんだ。何回目かな、注意したの」

衝撃を受けました。「そんな人じゃないと思っていたのに」「やっぱり、ダメなんだ私たちは」「いつか共倒れになるかもしれない」「それにもう、心配してくれている周りの人たちを裏切って欲しくない」と彼に分かって欲しくて、私は別れを決めました。彼は「信じられない」という目で私の言葉を聞いていました。「ごめん、もう絶対くり返さないから、それだけはやめて。だって今まで本当に楽しかったのに……本当にごめん!!」

しかし、私の気持ちはもう固まってしまっていたのです。彼が泣いているのは、背中で感じていましたが、もう振り向くことはできませんでした。「もう決めたことだから……ごめん」そういって私は彼の部屋から去っていきました。

彼とは1年半、とても幸せな時間を過ごしました。それだけは間違いないです。おたがい、どん底から共にはい上がってきたのです。しかし、精神障害には「限りなく完治に近い状態はあっても、完治というものは無い」と聞いたことがあります。確かに、この後の人生で私は彼を責められないくらい、無茶なことをして再びひどい状況におちいるのです。

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macaron

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統合失調症、その他の精神病をわずっている主婦です。
犬猫が好きで癒されています。

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