福祉の人とビジネスサイド人との架け橋になりたい~社会福祉士の村越拓也さんが福祉の世界での18年間で感じたこと

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高校から福祉へ

──高校から福祉に進んだきっかけを聞かせてください
「中学時代は野球部に所属する傍らで手話サークルに入りました。野球部では最後の大会前に怪我をしてしまい挫折します。野球という心の支えは無くなりましたが、手話サークルで手話を覚えるごとにメンバーの皆様に喜ばれたことが中学生の自分とって大きな心の支えになりました」「男子中学生で手話に取り組む人間は多くない筈です。ゆえに『誰もやらないことをやる』観点で褒められやすく、新たな発見や自己肯定感に繋がったのでしょう。中学時代は自由な校風で、その影響か旧友も個性的な進路を歩んだ人が多いです。他人と違うことをするのが時代的に許されてきた側面もあるでしょう」
「元々は静岡出身で、大学は愛知県の日本福祉大学に進学しました。その後、結婚を機に妻の地元である和歌山へ移りました。静岡への地元愛や出世話はありましたが、見知った土地で先の見えた未来を歩む生き方よりも、見知らぬ土地でゼロから始める方を選びました。和歌山では町役場の臨時職員から始め、観光施設や農家の方々と知り合いながら3年過ごし、4年目から地域課題を解決する就労継続支援B型事業をコンセプトに実践を始めました」
「観光施設の管理では掃除や接客が丁寧と評価されています。農家さんとの取り組みはいわゆる農福連携です。私達は福祉事業所が主体となって農業を行うというスタイルではなく、農家さんの手伝いをするというスタイルです。全国的には「福祉施設と農家さんとミスマッチ」などの問題が多い中で、私達の取り組みは農家さんとの信頼関係が大きな特徴です。なぜ信頼関係が構築できたのか理由はシンプルです。それは私が農福連携を行う前に、実際に農家さんの現場で仕事をして、福祉に対しての考え方や農家さんの思いを聞き、しっかりと信頼関係ができた人としか付き合わないからです」

B型事業所での実践も4年が経ち、形になってきたところで退職を決め、2023年1月からは大阪を中心に事業展開する株式会社シーアイ・パートナーズへ入社されました。

福祉とビジネスのいがみ合いは勿体無い

「ビジネスサイドの人が障害福祉の就労支援事業関係に関わった際『福祉の人は何か足りないというか、感覚が違うな』という感想を持つ印象があります。自分は高校も大学も福祉の学校を出ています。これまで出会った飲食・観光業界の社長さんにも社会福祉法人の理事長さんにも尊敬できる人が数多くいます。なので。福祉とビジネスが対立して二極化しやすいのは勿体無いなと感じています。互いの長所を活かして短所を補い、両方を言語化して説得力を持たせる、『架け橋』の取り組みが進んでいくのではないでしょうか。福祉もビジネスも共通項はあって、あえて福祉風にいえばアセスメント能力・プランニング能力・実践力・モニタリング力です。これがしっかりできればビジネスだろうが福祉だろうが何でもできると思っています」
「ビジネスサイドの人が「福祉の人は…」って揶揄するのをSNSなどでも良く見ますが、私からすれば、それを福祉の人と呼ばないで欲しいです。しいて言えば福祉っぽい人と呼んでほしいです。だってソーシャルワークの超基本に「個人と環境」があって、環境を理解するのであればビジネスを理解するのも当然の責務ですよね。これは私の超主観ですが、ソーシャルワークできているソーシャルワーカーってマジでスーパーマンなのです。ビジネスも福祉もできるし、学ぶ姿勢だったり、知らないことは知ろうと努めるし、寛容なのです。だからビジネスを理解しようとしない福祉の人がいるのであれば、それはもはや福祉の人でもないのではないか。という考えです。ただ福祉を理解しようとしないビジネス系や他業界もそれはそれでそこまでの人、って認識です。結論、福祉もビジネスもできる人はどっちもデキるから、皆そういう人になりましょうよ。って言いたいだけなのですけどね。簡単なことが出来ないのが世の中の不思議なところですよね」

noteで伝えたい思い

──noteにも書かれている福祉観などで伝えたいことはありますか
「常識や信念を疑い、裏も表も精査したうえで信じるかどうか判断し、それを自分の中に落とし込み自分の言葉で書いている認識です。他人を動かすことができるのは自分自身の言葉だけだと思っています。借り物の言葉をそのまま出しても響かず、自分で咀嚼して自分の言葉にしなければなりません。自分なりに本質を捉えて発信していきたい思いがあり、福祉ではそれを感じる機会がとても多いです」
「この広い世の中、『なぜ障害者福祉に金を使わねばならないのか』という意見はあります。彼らの黒を白に変えたいというか、響く言葉で働きかけることを諦めたくないのです。『アンチはシカトすればいい』と無視していても分断が深まるだけなので、その分断も含めて架け橋となっていけたらなと思います」
「(障害者福祉について)口には出さないが納得もしていない人は多いです。例えば、支援学級の生徒を『出来が悪いけど、優しくしなければいけないんだろうな』とする感じです。昔は『何で出来ないんだよ!』と衝突するぶん、出来不出来が分かって打ち解け合える機会もありました。ところが今の子は気を遣って不平不満を溜め込むので、逆に根に持ったまま大人になってしまいます」
 「親でも誰でもいいので、子どもの感じた疑問に答えられる人が求められます。『なんであの子は勉強できないの?』『なんであの子はどもってばかりなの?』と聞かれた時、『あの子にはハンデがある。けれどあなたにも得意不得意や出来不出来はあるでしょう』と、違いではなく同じ部分を教えてやれる大人です。同じ部分を持つ子だと分かれば一気に親近感が湧き、これこそがインクルージョンだと思います」
 「福祉関係者との話題は、障害者雇用や福祉制度や工賃などの専門分野が中心ですが、それ以前に社会が障害者福祉に対して成熟しきってない部分も多いので、自分のプライベートを使って初歩的なフェーズを埋めていかねばならないと感じています」

架け橋になりたい

「大企業で働く親戚と障害者雇用の話になって、『世の中はいい人ばかりではない。仕方なくやっている所もある』と言われたことがあります。義務感がきっかけだとしても、次には成功体験というステップがある筈ですが、成功に至るまで一緒にやってくれる人がいないと制度と中身が乖離してしまいます。その乖離を埋めていくのが自分達ではないかなと考えています」
「行政も法律も整った温かい社会に思えますが、実際に困っている人と繋がらなければ救いにはなりません。その仲介をするのもまた人なので、どこまで行っても人の手が必要ではないかと思います。福祉など知らなかった旧友が、子どものことで自分を頼ってきたことがありました。彼らにとっては福祉と繋がる鍵が自分です。そう頼られる時は嬉しいです」
「例えるなら、一発で逆上がり出来る子よりも、出来るのに何年もかかった子の方が好きです。何でも上手くいく人生は却って深みが出ないじゃないですか。苦労と向き合う、自分にとっては『向き合う』ことが自分の全てです。向き合えば出来なくても成長の糧になる筈です。努めて明るく振舞う人がギアを入れている感じはとても好きです」

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
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