どう見る、不妊強要のグループホーム
暮らし北海道のある社会福祉法人が、2022年の暮れに話題となりました。なんでも運営するグループホームで、入所者同士のカップルに対し結婚や同棲へ「ある条件」を課していたそうです。「ある条件」とは、不妊手術を受けることでした。
不妊処置に関する手際もなかなかのもので、同法人自らが病院を探したり職員を同行させたりと、不妊に対して手厚いサポートをしています。いにしえの優生保護法を思い起こさせるやり方に、唖然とするやら憤然とするやらですが、「知的障害者の両親から生まれた子はどうなる?グループホームで養育するのか?」という言い分も分からなくはないでしょう。
好きな人と結婚して家庭を築きたいという願いに水を差すのは褒められたものではありませんし、妊活するつもりが無くても「知的障害を理由とする不妊処置」を提案する時点でどうかしています。しかし生まれる子どもの人権や将来を考えると、提案の非人道性を糾弾するだけで済むとは到底思えません。
不妊と断種が条件です
先述の通り、福祉会が運営するグループホームで、入所者である知的障害者2人に不妊処置が勧められました。2人のカップルに対し、結婚や同棲の条件として不妊処置を挙げていたのです。同福祉会では25年以上前から同様の提案をしており、これまで8組16人が応じたとされています。
グループホーム側は「同意は得ていた」と説明していますが、同意があろうとあるまいと、不妊や断種を結婚の条件として提示すること自体どうかしています。健常者に対してそのような提案がなされることはまずないでしょう。「娘さんとの結婚を許してください!」「じゃあ去勢しろ」とはならない筈です。
幾ら言い訳を並べたところで、知的障害を理由に不妊処置をしたこと自体に変わりはないので、倫理観や道徳観を疑われるのも当然でしょう。例え妊活の意思や予定が無いとしても、不妊処置そのものがスティグマとして一生残り続けます。
これを受けて北海道では、虐待の実態調査と並行する形で道内400余りのグループホームへ調査する方針を発表しました。調査は1月30日から順次行われ、5月末までには結果がまとまると予想されています。
「産む」による複雑化
福祉会側にも「生まれた子はどうするのか。グループホームの皆で一丸となって育てろとでもいうのか」という言い分はあると思います。提案の非人道性を責め立てるだけで済むものではなく、もっと複雑な話となっています。
この問題は「産む」というプロセス、現時点では生まれていない子どもの人権や将来も考えねばならないため、余計に複雑化しています。二人の間に生まれた子どもには当然、戸籍や人権がありますし、義務や責任も負いますし、何より本人の人生があります。
札幌の障害者団体が「障害者は子育て出来ないと決めつけないで」と訴えていましたが、知的ハンデがそのまま子育てのハンデに繋がる面も否めません。前に上げたコラムにも「母親は知的障害のため生活能力が追い付かず、子どもを愛しているのにネグレクト状態」という家庭がありました。
子育てが上手くいった例として、テレビ番組か何かで知的障害の母親と成人した子どもが並んだ画像がネット上には存在しますが、「子どもの目が死んでる」「親の独りよがり」「子ども自身の人生がない。一生介護で終わるのか」などと言われたい放題です。
施設と利用者だけの問題でないためにかなり複雑化してしまっています。確かに子育ては親だけがするものではないのですが、親には子どもの「安全基地」になる重要な役割がありますので、慎重になる気持ちは分からないでもないです。旧優生保護法じみたやり口は論外ですが。
ところで、この問題が公になったことで「障害者は恋愛しない/できない」というのがまやかしに過ぎないと世間の人々は理解するでしょうか。福祉会のごく小さな功績と言えばそのぐらいかもしれません。
参考サイト
障害者の不妊処置に職員が同行 北海道、福祉施設に聞き取りへ
https://nordot.app
「障害者が子育てをできないと決めつけないで」不妊処置提案の施設に障害者団体が抗議
https://www.htb.co.jp
不妊処置提案受けて道400余グループホーム実態調査へ
https://www3.nhk.or.jp