法定雇用率が上がる!水増し補填の反動が来る!貸農園に喝が入る!「雇用率」がテーマの小話たち
暮らし 仕事今回は「法定雇用率」がテーマの小さな話を集めてひとつのコラムにしました。どうぞよろしくお願い致します。
そもそも法定雇用率とは
まず「法定雇用率」という言葉の意味から説明します。簡単に言えば「企業は全社員のうち、この割合以上障害者を雇わねばならないという数字」です。現在は2.3%ですが、今までもこれからも段階的に引き上げられており、2024年4月には2.5%、2026年7月には2.7%に上がることが既に決まっています。
法定雇用率を達成していない企業は、不足分に応じて納付金を納めるだけでなく、改善のための指導が入り、最悪の場合は社名を公表されてしまいます。大多数の企業は社名の公表を恐れ、指導の段階で必死に採用活動を始めるそうです。
この納付金は何に使うのかというと、雇用率を達成している企業への給付金など障害者支援の財源にするのだそうです。仮にすべての企業が雇用率を達成すると、給付金の財源が無くなってしまうので、雇用率周りは多くの矛盾を孕んでいるといえます。
2022年6月時点で、企業で働く障害者が61万人と増え続けているのに対し、雇用率を達成した企業が48%に留まっています。厳しくなる基準に対応出来ていないのも理由の一つですが、他にも多くの理由が考えられるでしょう。大抵は傾聴にも同情にも値しないろくでもない事情でしょうが、企業たちもまた懲罰主義の被害者と言えばそうなのかもしれません。
法定雇用率が変わる
法定雇用率の変化はそれだけに留まりません。雇用率に反映される労働時間もまた縮まっています。具体的には、週10時間以上20時間未満で働く精神障害者を0.5人分としてカウントするようになりました。知的や身体でも重度であれば同様にカウントされます。
何のためにこうした緩和策を取ったのかというと、週20時間さえ難しい障害者も企業で働けるようにするためだそうです。調子に波があって不安定な精神障害者でも安心して雇い雇われ出来るようにという心遣いでしょう。
ただ、この緩和策には「週10時間の閑職で精神障害者を飼い殺しにして数字だけ満たそうとする企業が出るのではないか」と懸念する見方もあります。週2日5時間ずつか、週5日2時間ずつかといった具合でしょうか。尤も、必死に隔離策を考えるような企業は2時間すら我慢できないと思うのですが。
水増し問題を補填した反動が来ているらしい
2018年に、行政や省庁などが障害者雇用を水増ししていたと明らかになりましたね。約40年間に及ぶ長い水増しを、障害者雇用の範となるべき中央が率先して続けてきた事実に憤慨した方も多いでしょう。これを補填するため、2019年度は多くの障害者を雇うべく予定の採用枠を広げたうえで国家公務員試験を実施することになりました。
数としては常勤が約1210人、非常勤が約3150人。「いきなり正規」は障害者にとって大きな魅力なので、常勤の採用試験は倍率が10~12倍にまで膨れ上がっていました。非常勤も待遇自体はそこらの非正規と変わりませんが、そちらも採用バブルと言っていいほど盛んだったそうで、就労支援で訓練した方がいいような障害者も積極的に採用していたそうです。
非常勤は3年契約が多いといわれています。そのためか、3年後にあたる2022年にリバウンドが起こっているとごく一部で指摘されています。非常勤で採用された障害者らは、契約の更新をされることなく失職したというのです。とはいえ、大手報道など信頼できるソースはなく、1人の障害者アカウントが知人の話として挙げたという「噂話程度」のものですが、これが事実ならば大変です。国はたった1度発奮しただけで、40年以上の失態を取り返す努力を完全に怠っていたということになりますから。
中には、「契約は終了するけど、また応募したら優先して採用する」と噓をついて期待を持たせ、契約切りを円滑にできるよう情報工作する所もあったそうです。勿論、これを信じて再応募した障害者を採用することはありませんでした。
余談ですが、リバウンドといえばもう一つ話があります。昔から企業に雇われていた身体障害者の定年退職が増え、困窮する企業が出てきているというのです。今まで古株の身体障害者によって雇用率が達成されていたのが一気に無くなってしまうので、てんやわんやしている状態らしいですよ。
貸農園ビジネス、厚労省に睨まれる
法定雇用率を達成するための裏技として、「貸農園ビジネス」が利用されてきました。貸農園ビジネスとは、ビニールハウス農園と管理する障害者をセットで企業に貸し出し、障害者雇用の足しにしてもらうというビジネススタイルです。農園で作った野菜が市場に出回らないというシステムが、このビジネスのあり方を物語っています。
これは障害者を本業から離れたところへ閉じ込める「隔離」に他ならないのですが、この裏技は大企業を含めた800社以上が既に利用しており、一部の自治体までもがこれにラブコールを送っているという始末です。テレビなどのメディアでも好意的に取り上げられるなど、楽に雇用率を達成できる方法として方々から愛されてきました。
しかし2023年に入ると、共同通信社が貸農園ビジネスについて否定的な報道をしたことから評価が一変します。貸農園ビジネスが障害者雇用の代行に過ぎないことと、厚生労働省が対策を打ち出す方針であることが報じられ、厚労省にも睨まれている状況が窺えます。業態を開拓した先駆者とされる某社は、報道の影響で株価が急落するという憂き目を見ました。
作業所ではとても届かない報酬(月10万程度)が貰えるとして評価する知的障害者家族もおり、その評価は一定ではありません。しかし、貸農園ビジネスが「障害者に生活費だけ与えて社会から隔離する」モデルとしての側面を持つことは確かです。貸農園ビジネスについては大きな変化があったため、いずれ単独記事として書くと思います。
参考サイト
企業の障害者雇用率 段階的に引き上げ 3年後に2.7%に 厚労省
https://www3.nhk.or.jp
「障害者は喜んで農園で働いている」はずが…国会がNGを出した障害者雇用“代行”ビジネス
https://news.yahoo.co.jp