障害者の性被害の立件、ハードルが高すぎます

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出典:Photo by Zahra Amiri on Unsplash

これまでに何度か痴漢などの性被害にあった経験から、弱者が性犯罪に巻き込まれることに憤りを感じています。特別支援学校の生徒が性犯罪を受けたニュースをきっかけに、障害児者が健常者より多く事件に巻き込まれることや立件の難しさを知り、なぜそうなるのかを調べてみることにしました。

性犯罪の現実

私がはじめて痴漢の被害を受けたのは、高校生のときでした。

将来のことを考えながら通学路を歩いているときに、前方から自転車に乗って走ってきた男性に、無言で思い切り上半身をわし掴みにされたのです。自分に何が起きたのかわからず、立ちすくんでしまいました。

我に返ったころには、自転車の男性はすでに遠くに走り去っており、どうすることもできませんでした。両親に痴漢被害のことを話すと、父は笑って「女は触ってもらえるうちが華だ」といったのです。

「『体を勝手に触ってもらえるのが幸せ』とでもいいたいのか」と腹が立ちましたが、父に何もいい返せませんでした。

「娘さんをお持ちのご両親、娘さんの初めての性的経験は、残念なことに愛する人ではありません。最初の相手は高確率で見知らぬ人です」というツイートがバズったことがありますが、大概の女性は成人するまでに、1回以上何らかの性被害を受けているのがこの国の現状です。

性犯罪は、加害者の自己本位な目的のため被害者の人格を無視して「モノ」のように利用するという、被害者の尊厳を著しく損ねる犯罪です。

近年、発達障害者や知的障害者が、性犯罪の被害者となる事件が相次いで報道されています。これは今にはじまったことではなく、実は知的もしくは発達障害児者は、健常者よりも、性犯罪に巻き込まれやすい傾向にあるのです。

これまで障害者の性犯罪事件が表面化しなかったのは、ひとえに性犯罪そのものの立件が難しいことがあげられます。

性犯罪を立件するためには、健常者でさえ立件までの過程で精神的な消耗を強いられるため、多くが泣き寝入りしています。

そこに、障害特性ゆえのハードルが上乗せされると、立件はさらに困難になり、証拠不十分で不起訴となってしまうのです。

「なぜ障害があると性犯罪に巻き込まれやすいのか」「なぜ性犯罪の立件そのものが困難なのか」そして「なぜ障害特性があると立件のハードルが上がってしまうのか」を、順にお話したいと思います。

性犯罪に巻き込まれる障害者たち

2014年にカナダでおこなわれた障害者に対する性暴力の調査では、ASDを持つ成人男女が、健常者男女の2~3倍多い割合で性被害を受けていると報告されています。

日本では2017~2018年の内閣府が、全国の支援団体などを対象におこなった調査では、30歳未満の性被害報告事例127件中「被害者に障害があった」事例が70件と、障害を持つ性犯罪被害者が健常者の被害者よりも多いことが明らかになりました。

ここ数年、知的もしくは発達障害児者が被害者となる性犯罪のニュースが相次いでいます。障害当事者は勿論、支援者や当事者家族など、危機感を持つ人が大勢いるのではないでしょうか。

しかし、次々と障害につけ込んだ卑劣な犯罪が報道される一方で、障害者の性被害の立件はいまだに難しいのが現状です。

性犯罪の立件は、障害の有無に関わらず、被害者側に多大な精神的負担がかかります。「性犯罪の立件が大変だと聞いたことがあるけれど、どう大変なのかは知らない」という人も多いのではないでしょうか。

起訴数が少なく精神的苦痛をともなう性犯罪の立件

実は「国内で発生した性犯罪が、全てしかるべき形で裁かれていないのでは?」という疑問を持っている人が大勢います。

2019年に法務省が実施した「第5回犯罪被害実態(暗数)調査」によると、16歳以上の女性1771人のうち、過去5年間に性犯罪(強制性交、強制わいせつ)の被害に遭ったという人は30人です。被害経験率は1.69%となります。

総務省発表の「住民基本台帳人口」によると、2019年1月時点の16歳以上の女性は約5701万人。そこに先ほどの経験率をかけると、性犯罪の被害をうけた推定被害女性数は、約96万人です。

警察庁発表の「犯罪統計書」によると、2014~2018年の5年間の強制性交と強制わいせつの認知被害件数は約3万7000件。推定に対して約4%程度しか、被害届が受理されていないことになるのです。

ほとんどの被害者は「加害者からの報復が怖い」「性被害を受けたことを知られるのが恥ずかしい」などの理由から通報にいたりません。被害届を出そうとしても、所轄警察署で「証拠がないからむずかしい」と被害届の受理をしてもらえないケースもあります。

犯人が検挙されたとしても、不起訴になることもあります。2014~2018年の強制性交および強制わいせつの起訴人員は約8800人、不起訴人員は約1万3800人です。性犯罪の起訴率は、他の犯罪と比べると低い傾向にあるといわれています。

強制性交および強制わいせつは、そのほとんどが密室でおこなわれるため目撃者や物証が少なく、被害者の証言が必要不可欠です。しかし、証言には多大な精神的苦痛が発生します。

被害者の多くは証言をおこなうために事件のことを思い起こすと、フラッシュバックが起きたり解離状態におちいります。すると取り乱してしまったり、頭が真っ白になってフリーズしたりして、聴取に対応できなくなってしまうのです。

このような状態で「自分がいつどこでどのような被害を受けたか」「加害者の容姿はどうか、加害者と面識があるか」「事件現場に足を運んだ理由はなにか」など、赤の他人である警察官に細大漏らさず打ち明けるのは、どれほど辛いか想像してみてください。

様々な事情から十分な証言がえられない場合、立件できなくなってしまうことがあるのです。

このように健常者ですら立件が難しい状況ですが、障害特性によっては、立件にさらに高いハードルが立ちふさがります。

障害特性ゆえに上がるハードル

障害者が健常者よりも性犯罪に巻き込まれやすいのは、加害者に「障害者には、まともな証言ができないだろう」とつけこまれやすいことが原因です。

被害者が知的障害者の場合、障害特性により聴取の際に自分に起きたことや、事件が起こった日時や場所などを明確に説明できないことがあります。すると「証言に整合性がない」とされ、不起訴となってしまうケースが多いのです。

障害特性に場面緘黙がある方は、そもそも聴取で一言も話せなくなります。起訴にまでこぎつけた事件では、被害者の母親が被害者に「自分の言葉で説明する必要がある」ことを繰り返し説得し、検察官からの聴取に対応できたということです。

加害者が被害者の支援者や職場の上司の場合は「拒否したら、今後何か不利益を被るのではないか」と不安になり、そのまま加害されてしまうケースも見られます。

近年、学校教育における性教育の遅れが指摘されていますが、特別支援学校においてもそれは例外ではありません。性教育が十分でないところに、生徒たちがSNSなどからあやまった知識を知ってしまうこともありえます。

そうなると、正しい知識がないために「自分が性被害にあった」ということに気づけないケースもあります。

十分な知識がない上に、ASDに多い「言葉をそのまま受け止めてしまう」といった障害特性があると、特に加害者が顔見知りの場合「これはみんなしていることだよ」「自分達は恋人同士だからこうするのだよ」といわれて「そうなのか」といわれたことを鵜呑みにしてしまい、被害を受けることがあります。

さらに知的および発達障害児者には、学校や職場での失敗経験から自己肯定感が低い人が多く、被害を受けても「自分がバカだからこんな目にあう」と自らを責めたり、通報をあきらめてしまうのです。

正しい性教育の必要性

まず、障害の有無に関係なく、誰もが幼少期から、正しい性の知識を身につける必要があります。

未だに多くの保護者は「思春期がきたら教えればいい」と考えているようですが、小学生でも性行為をおこなうこのご時世では、それでは遅すぎるのです。それどころか幼稚園や保育園で、幼児同士での性加害も起きているのです。

未就学児(3~5歳頃)の段階から体の機能や役割、特にプライベートゾーンの概念を、わかりやすい表現で繰り返し教えることが大切です。

「自分の体は大事なもの、他人の体も大事なもの」
「自分のプライベートゾーンをみだりに触らせてはいけないし、他人のプライベートゾーンも勝手に触ってはいけない」
「全ての人間には、いやなことをされない権利がある」
「いやなことをされたら、大人に相談する」

こうしたことを幼少期に学ぶと、その後の性教育がとてもスムーズになるのです。

北欧を中心とした海外では小学校のころから「性的な行動とはなにか」「性的な行動にはどのようなリスクがあるのか」「犯罪に巻き込まれたときにどうすればよいか」を重点的に学びます。

これは日本の子供たちにも必要ですし、性加害されやすい障害児にはもっと必要ではないでしょうか。

「性教育を早くからおこなうと、性行為に関する興味が増加するのでは?」と心配する人が多いのですが、性教育をしっかり受けていると、初めて性交を行う年齢が上がる傾向にあります。正しく知っているからこそ、慎重に行動するようになるのです。

また、性的な行動だけではなく、第二次性徴による体の変化、家族計画なども学ぶ必要があるでしょう。

障害を持つ被害者を取り残さないために

残念なことですが、性犯罪が完全になくなることはないでしょう。そこをふまえて、健常者ですら立件にこぎつけることが難しい現在の状況を、今後改善していかなければなりません。

またしても海外の話になってしまいますが、性犯罪の被害者が障害者であった場合の、法令が定められている国や地域があることを知っていますか?

例えばフランスでは、強姦罪の加重事由(20年以下の重拘禁)のなかに

「年齢、疾病、身体的または精神的障害、妊娠などによって脆弱な状態であることが明白な場合、または加害者が特にその事情を知っている場合」

という項目があります。障害者であることにつけ込んで強制性交すると、その分刑が重くなる可能性があります。

もう1つ例をあげると、ドイツでは刑法第174条c(相談、治療または世話を行う関係を利用した性的虐待)のなかに

「相談、治療若しくは世話を行う関係を濫用して、中毒症を含む精神または心の疾患もしくは障害を理由に、または、身体的な疾患もしくは障害を理由に、相談、治療または世話が行為者に委ねられている者に対して性的行為をおこない、または、この者に性的行為を行わせた者は、3か月以上5年以下の自由刑に処する」

という項目があります。支援者や医療従事者などが立場を利用して加害すると、自由刑に処される可能性があるのです。個人的には、刑期が短すぎるような気がしますが。

日本国内でも、性犯罪被害者に障害があった場合、どのような方法で救済するべきか議論が続いています。

法務省でおこなわれた「性犯罪に関する刑事法検討会」では

「被害者が一定の年齢未満である場合や障害を有する場合には、判断能力が不十分であることから、そのような特性に付けこんで行う性交などは被害者の法益を侵害する行為であり、特性に応じた対処の検討が必要である」

という結論になっていますが、実際にどのような形で法律に反映されるかは決まっていません。

昨年から報道されている、特別支援学校もしくは支援学級の教師が、障害児に性的虐待をおこなった事案が多いことから「規定に被害者と加害者の関係性を明示する必要があるのではないか」との意見もあります。

ほかの取り組みでは、子供が事情聴取を受ける際の精神的な負担を減らすために、検察などが一括して聞き取りをおこなう「代表者聴き取り」について2021年4月から、一部地域で障害を持つ被害者に対しても実施されはじめました。

この「代表者聴き取り」により、複数の担当者から聴取を受けるとパニックになる特性を持つ被害者は、精神的負担がかなり軽減されたようです。

しかし、その他にも産婦人科での検査、証拠品として下着を含む衣服の提出など、被害者にとっては苦痛をともなうことはたくさんあります。

加害者が顔見知りの場合、被害届受理後に加害者から弁護士を通じて、示談をおこないたいという連絡が来ることが多いようです。

「障害特性ゆえに上がるハードル」でもお話した「言葉をそのまま受け止めてしまう」という特性があると「お願いされているから、被害届を取り下げなくては」と、望まない示談に応じてしまうことも考えられます。

子どもへの性加害を「いたずら」電車内などでの強制わいせつを「痴漢」と、性犯罪を矮小化するような表現も「大したことじゃない」と、犯罪予備軍が性犯罪を起こすハードルを下げてしまう要因になる気がします。

障害の有無に関係なく、性犯罪の被害者が最小限の精神的負担で、確実に加害者を立件できるシステムを、1日も早く作られることを願ってやみません。

【泣き寝入りも…障害者への性暴力の実態 「人間として扱われていない」30歳未満の被害の半数超】
https://www.nishinippon.co.jp

【第5回犯罪実態調査】
https://www.moj.go.jp/index.html

【被害者は私の娘、19才 ~障害者の性被害 立件に大きな壁】
https://www.nhk.or.jp/

【フランス刑法における性犯罪処罰の基本的考え方】
https://www.moj.go.jp/index.html

【ドイツ性犯罪関連条文和訳(仮訳)】
yhttps://www.moj.go.jp/index.html

【質問本文情報】
https://www.shugiin.go.jp/internet/index.nsf/html/index.htm

オランプ

オランプ

長年にわたってうつ病で苦しみながらも病気を隠して働き続け、40歳になる前にやっと病気をオープンにして就労したものの生きることのしんどさや職場でのトラブルは軽減されず。実はうつ病の裏に隠れていたものはADHDであり、更に気が付けばうつ病も病名が双極性障害に変化。これだけ色々発覚したので、そろそろ一周回って面白い才能の1つでも発見されないかなーと思っているお気楽なアラフォー。
実は自分自身をモデルにして小説を書いてみたいけど勇気がない。

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