生きづらさを共に歩む2人の物語~映画 『夜明けのすべて』三宅唱監督インタビュー

エンタメ

©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会


映画『夜明けのすべて』の三宅唱監督へインタビュー取材しました。この作品は小説『夜明けのすべて』(著:瀬尾まいこ)を原作としており、パニック障害の青年とPMS(月経前症候群)の女性が、友達でも恋人でもなく同志として寄り添い合うW主人公のストーリーとなっています。 どのようにして、映画は完成されていったのでしょうか。

出来ることは「きっかけ作り」

三宅唱監督

──なぜこの作品を映画化したいと思われたのですか
「主人公のふたりが自分に症状があるにもかかわらず、お互いを思いやる気持ちに惹かれました」

──ハンディキャップへの配慮も想定されていたのですか
「同じ悩みを抱える当事者が観ることを想定して、まずは、映画としてやれることとやれないことを整理しました。映画を観たからといって症状が良くなる訳ではありません。映画に出来るのは『知るきっかけ』になることで、人によって症状のあり方が違うことには気を付けました」
「それから、当事者よりも周囲の人や第三者にとって良いきっかけになれることです。多少の知識や想像力を働かせるためのきっかけがあれば、周りで苦しんでいる人に違ったアプローチが出来るかもしれません。本作の題材も、それぞれが他者に対して何をするかの関係性が中心にあると思っています」

──当事者が実際に経験することを映画で扱うのは良い言語化になります
「問題は偏見ですよね。『偏見なんてない』という人も多いですが、『思い込み』と言い換えるとどうでしょう。思い込みから解放されるのは、人によっては怖いかもしれませんが、本質的に楽しい事だと考えています」

──制作過程について教えてください
「この企画に取り組み始めてから、当事者のエッセイやブログなど様々な文章を読みました。人によって症状の様子も度合いも全然違うことを知りましたし、自分に医学的知識が全くない事も実感しました。パニック障害にしても、その理不尽さや不条理に言葉を失うこともありました。障がい者ドットコムさんの映画紹介のページなども当時たまたま読んでいて、メモに残っています。また、企画を進めていく中で、周りからカミングアウトされることもありました」
「監督の立場として心配したのは、俳優が演じるリスクです。過呼吸の演技は身体への負担も大きいので、発作のシーンを一切描かず観客の想像に委ねることも考えましたが、それもベターではないだろう、と考え直し、会社での発作シーンをしっかりと描きました。医療監修の先生に同席して頂きモニタリングしながら撮影し、演じる松村君にも、自宅などで一人で練習しないようお願いしたこともありました」

発作を舞台道具にしない

──撮影の上で挑戦したことはありますか
「やろうと思えば、『発作』で劇を盛り上げることも出来ました。不発弾のように引っ張るサスペンス的演出や、俳優による大仰な演技などです。しかし、やりませんでした。映画を盛り上げるエッセンスに発作の瞬間を使うのは避けたかったのです。発作が迫ってくる描き方ではなく、気付いたら発作が起きて周りがどう対応するかを重んじる描き方を心がけました」

──症状ではなく人間にスポットを当てるのが凄いと思いました
「発作そのものも苦しいですが、それによって思うように働けなくなることも苦しいことだと捉えました。働けないと生きていけない。単に医療の問題ではなく、労働の問題、社会の問題に結びつくのではないでしょうか」

──パニック障害を受け入れていく過程が丁寧に描かれていました
「その辺りは小説に丁寧に描かれていました。俳優たちは当事者ではありませんが、演じることを通して、温かな希望になればと感じています」

映画を観た後の違った景色


©瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

──観客や社会に伝えたかったメッセージは何ですか
「映画に出来ることと出来ないことを踏まえた上で取り組んだ作品です。当事者の抱える様々な状況を多くの人が知り、その上で何が出来るか、この映画を通して自然と気づいてもらえることを願っています。ただ、個人や狭い範囲の思いやりだけではどうにもならないことはあるので、社会的な制度も必要であること、行政にしか出来ないことも意識するきっかけになればと思います」

──俳優への指導などでどのようなお声掛けをしていましたか
「監督といっても、何でも知っていて全て指導できる人間ではない、ただ一緒に考えることは出来ると伝えました。演技で悩んだときは、答えは出せないけど一緒に考えていきます、というスタンスでした」

──観客からの反応や影響についてお聞かせください
「僕が映画を好きなのは、映画館を出たときに見慣れた景色が変わって見える感覚が好きだからです。今回は『夜明けのすべて』を経て、どのように風景の捉え方が変わるのかですね。自分の経験で言えば、例えば駅前で人が倒れていると『酔っ払いか』と思っていたのが『もしかしたら別の事情かも』と考えを巡らせるようになりました。一人で観るなら時間をかけて咀嚼してほしいし、どなたかと観るなら感じ方の変化を語り合ってほしいです」

──当事者にも映画館へ行くきっかけになればと思いました
「無理はしないようにと言いたいところですが、行けるか行けないかの結果ではなく、観に行きたい気持ちこそが大切だと思っています」

──最後に読者に対するメッセージをお願いしま
「映画の中にプラネタリウムが登場します。それすら見られない子ども達がいます。例えば、病室から出られないなどですね。そのために移動式プラネタリウムの活動をされている方たちがいる、ということに僕は刺激をもらいました。本物の星空ではありませんが、想像力を働かせることが人生の喜びになります。これは映画にも通じることだと思います」

◆作品情報
『夜明けのすべて』

出演:松村北斗 上白石萌音
渋川清彦 芋生悠 藤間爽子 久保田磨希 足立智充
りょう 光石研

原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫 刊)

映画『夜明けのすべて』公式サイト
https://yoakenosubete-movie.asmik-ace.co.jp/

映画 『夜明けのすべて』ロング予告

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
よろしくお願いします。

関連記事

人気記事

施設検索履歴を開く

最近見た施設

閲覧履歴がありません。

TOP

しばらくお待ちください