発足から2年を迎えた「I know IBD プロジェクト」は今

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炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)は、大腸や小腸など消化管に炎症が起こり、腫瘍を合併することもある疾患で、主に指定難病である潰瘍性大腸炎とクローン病があります。下痢や腹痛が主な症状であることから、トイレの回数の増加や食事の制限など、日常生活への影響が懸念される疾患です。

2年前、アッヴィでは「I know IBDプロジェクト」を発足しました。

I know IBDプロジェクトの目的は、「見えない壁」ともいえる、社会が気づいていないIBD患者さんを取り巻くさまざまな課題を明らかにし、解消に取り組み、さらにはIBDを正しく認知し理解する人が一人でも多く増えることで、社会全体のIBDについての理解を高めることです。

潰瘍性大腸炎・クローン病の推計患者数の合計は約29万人(注1)であり、IBDの患者数は指定難病の中でも多いこと、また10-20代での発症が多い(注2,3)ことから、学校や職場など、さまざまな場面で周囲の理解が求められます。しかし、外見からは分かりにくい疾患であるからこそ、理解されていない、疎外感があると感じている患者さんは存在します(注4)。またIBD患者さんを対象に行った調査では、患者さんのうち7割以上の方が「日常生活に何らかの影響がある」と感じています(注5)。炎症症状による全身の倦怠感や睡眠への影響など、生活全体へのさまざまな影響があります(注6~9)が、その象徴的な例として、半数を超えるIBD患者さんが「外出時にトイレの場所を“常に”チェックしている」と答えています(注5)。

このように外出先でいつトイレに困るか分からないため、IBD患者さんは出かける際にも不安やストレスを抱えざるを得ないという現実があります。

IBD患者さんをとりまく様々な課題の解消と、社会全体の理解向上のため、2022年、「IBDを理解する日」が制定されている5月に、外出時のトイレへの不安解消に取り組むプロジェクトを開始しました。以来、さまざまな企業・店舗の協力を得ながら、社会全体でのIBDの理解向上を目指しています。

2024年のIBDを理解する日には、これまでの活動から一歩踏み出し、社会一般の方への疾患とプロジェクトの認知度向上のため、5月中旬から末までの2週間程度、JR京浜東北線・根岸線、東京メトロ東西線にてトレインジャック広告を実施しました。

現在も進化を続けるこのプロジェクト。その「いま」をインタビューで伺いました。

2年の歩み

──当初の目的と現在の成果について説明してください
「弊社アッヴィでは、Patient Centricityという患者さんを理解し、患者さんの気持ちなって考える文化が根付いています。2013年5月19日にNPO法人IBDネットワークと共に『IBDを理解する日』を記念日制定するなど、一般社会において疾患や患者さんへの理解を広げる活動をしていました。未だにIBDへの社会的認知は低く、就学や就労、人間関係といった場面で患者さんを取り巻くさまざまな課題があり、見えない壁の存在があるのが実情です。そのため、課題解決に向けて患者団体や専門医や企業との連携や協力が必要と考え、プロジェクトを発足しました。発足から2年、全国で130社2884店舗の皆様に協力をいただいています」

──IBD(炎症性腸疾患)についての基礎知識もおさらいさせてください
「IBDという大きな括りの中に、主として潰瘍性大腸炎とクローン病があります。2つの総称がIBDとなります」

──具体的にどの業界からの協力が得られていて、また、どの業界からの協力がもっとほしいですか
「ご協力いただいている企業様はさまざまで、薬局やホテルや美容室や自動車販売店など18業界に及びます。最も多いのは薬局やドラッグストアで、22社1872店舗になります。患者さんは突然便意切迫感に襲われることがあるので、街中に店舗を構える企業や施設様にご協力いただくことで外出先でのトイレの不安解消に取り組んでいます。現在、多くの業界にご協力いただいています。ご協力いただくことが難しいケースは、業界というよりは個々の事情によって異なる、という印象を受けています」

──トイレの提供以外にも支援内容はありますか
「トイレを貸し出していただいている店舗や施設に、ステッカーを掲示いただくことで、IBDへの理解を可視化いただいています。また、トイレの貸し出しがメインではありますが、今回のトレインジャック広告のように、より多くの方々へ周知してもらうことが患者さんの安心に繋がるのではないかと考え実行しました。企画をする中でIBD患者さんから様々な声をいただいており、仕事をサボっていると思われたり突然の入院で迷惑をかけないか心配という声が多く、就労の場における理解や協力が重要ではないかという結論に至ります。通勤途中の目につく広告によって多くの方々の気付きになるのではないかと期待しています。

プロジェクトのウェブサイトでは、患者さんがトイレを利用したいときに協力店の方に見せられる「I know IBD パス※」や、協力企業向けの、疾患や患者さんへの対応について記載されている研修用資材「パートナーガイド」の配布を行っていたり、トイレを貸し出している店舗・施設の情報が見られるMAPも掲載しています。ぜひご覧ください」 プロジェクトウェブサイトはこちら:https://www.iknowibd.com/prj/

借りられるトイレのある安心感


──ステッカーを見た人からのエピソードがあれば教えてください
「何か協力できることはないかと、企業やお店の方にご紹介をいただいた事例も多く、また患者さんご自身が協力を申し出てくださることもあります。患者さんの中には、旅行先で見つけたステッカーの写真を送ってくださる方もおり、非常に喜んでいただいています。プロジェクトを通じて知り合った患者さんも、ステッカーを見るだけで安心できるとか、協力店舗の方が速やかに配慮してくださったり、I know IBDパス※を見せると切迫感がある時もすぐトイレへ通してくださる、などの声もいただいています。以前は、外出先でトイレを借りる際、疾患の説明をしなければならないこともあったようですが、協力店では対応も徹底されていてできるとのことです。協力企業用に作成した、「パートナーガイド」に沿ってご対応をいただけているためですね。移動の時にも協力店の場所を確認してから出発されている方もおり、便意を恐れて外出できなかったのが気持ちが楽になったというお声もいただいています」

※I know IBD PASS
「Iknow IBD PASS」は、IBD患者さんが協力店舗でIBDであることを説明せずに済むよう、協力企業・店舗にトイレを借りたいと申し出る際に提示いただける画像になります。
「I know IBD」ウェブサイトの「患者さん向け情報」内にある「各種ダウンロード」から画像を保存していただくことが可能です。 詳しくはこちらをご覧ください。

──当事者からのフィードバックや影響の具体例についてお聞かせください
「急な腹痛でコンビニのトイレに駆け込んで店員に怒られたという方がいます。トイレの使える施設が増えるというのは、皆さんが思う以上に患者さんの安心に繋がりますので、協力する企業やお店が増えて欲しいですし、このプロジェクトをきっかけに多くの方々にIBDへの理解が広まって欲しい…という声をいただいています」

──トイレを使う時は自己申告ですか
「証明書の類は無く、弊社ウェブサイトでお配りしている『I know IBDパス』を提示いただくか、自己申告いただくか、いずれかの方法でご対応いただいています。協力企業様にはパートナーガイドを配布しており、説明する余裕がない患者さんがいらっしゃることや、その際の対応について記載しています。ウェブサイト上にも掲載しているので、ぜひご覧ください」

──当事者のプライバシーや尊厳はどのように保護していますか
「外出先でのトイレの使用の際は切迫している状態の患者さんもいらっしゃるので、患者さんから説明をしなくても済むようにパスを提示してスムーズに対応できるよう用意をしています。患者さんがIBDであると口に出すことに抵抗がある場合も、最低限の提示で済むようにしています」

もっと多くの協力を求めます

──これからの課題や困難、解決するため努力していることを教えてください
「本プロジェクトが拡大するにつれて、さまざまな方に興味を持っていただいていますが、協力企業様が本プロジェクトへの協力を検討するにあたって、IBDの社会的認知が未だに不十分なため検討に時間を要することがあります。そのためのサポートツールとしてYouTubeで動画コンテンツの配信も始めました」

──今後もプロジェクトを拡大する計画はありますか、また新たな取り組みも考えていますか
「現在、全国47都道府県において、多くの協力企業や店舗が、プロジェクトに参加してくださっています。最近は、地域の新聞などを通じてお問い合わせいただくこともあり、協力の輪の拡大も進んでいます。IBDへの正しい理解が広まりプロジェクトが機能していくために、既に参加されている企業様と知識や経験を共有していきながら、PR活動を通じて広く一般にも呼びかけ、更なる協力の拡大を目指しています」

──プロジェクト参加にあたって選考などはありますか
「選考などのプロセスは無く、弊社が提供する規約をご覧いただき、ご同意いただける場合は承諾書を送っていただいています。プロジェクトの概要をまとめた資料をお渡しし、ご検討の上ご承諾いただけるならば承諾書を受領し、ステッカーなどを送付する流れとなっています」

皆に優しい社会への最初のステップ

──他の疾患や障害へ、支援の拡大や連携は考えていますか
「アッヴィでは、医薬品にとどまらず、一人でも多くの患者さんの人生を豊かにするため、患者さんが抱えるさまざまなニーズや課題にソリューションを提供したいと考えています。 IBD領域だけでなく、免疫介在性炎症性疾患の患者さんに、疾患と向き合いながらもご自身のPERSPECTIVES(視点や物の捉え方)を通じて感じたことをアートとして表現していただく「アートプロジェクト PERSPECTIVES」や、乾癬および乾癬患者さんへの理解を深めていただくことを目的とした疾患啓発活動も行っています。詳細は、以下のページをご覧ください」 アッヴィ合同会社の取り組み:https://www.abbvie.co.jp/patients/immunology.html

──プロジェクトに関わってきた感想を聞かせてください
「実際に商店街の組合やレストランの経営者や企業の広報担当の方へ説明する場面では、主旨をご理解いただけるよう丁寧なコミュニケーションをするのが大事だと分かりました。疾患啓発活動におけるコミュニケーションの重要性や、周囲の方々にご理解いただきご協力をお願いするプロセスの組み立て方など、多くの事を学びました。そして、プロジェクトによって患者さんからも直接喜びの声をいただくことが増えたので、携われたことには感謝の気持ちでいっぱいです」

5月19日の「IBDを理解する日」を記念し、I know IBDプロジェクト「トレインジャック広告」が行われました。JR京浜東北線・根岸線で5月13日(月)~5月26日(日)に、東京メトロ東西線では5月16日(木)~5月31日(金)に、広告が車内掲出されました。

「I know IBD」 公式サイト
https://www.iknowibd.com/prj/

注1. 「潰瘍性大腸炎およびクローン病の有病者数推計に関する全国疫学調査」厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患等政策研究事業 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究 総括研究報告書(平成28年度)
注2. 難病情報センター潰瘍性大腸炎(指定難病97) https://www.nanbyou.or.jp/entry/62(2024年4月1日閲覧)
注3. 難病情報センタークローン病(指定難病96)https://www.nanbyou.or.jp/entry/81(2024年4月1日閲覧)
注4. Devlen J., et al. Inflamm Bowel Dis Volume 20, Number 3, 545-552 (2014)
注5. 「IBD白書2020」株式会社QLife IBDプラス編集部
注6. Gajendran M, et al.: Disease-a-Month. 65(12):100851(2019). doi: 10.1016/j.disamonth.2019.02.004.
注7. The Facts about Inflammatory Bowel Diseases. Crohn's & Colitis Foundation of America. 2014. Available at:https://www.crohnscolitisfoundation.org/sites/default/files/2019-02/Updated%20IBD%20Factbook.pdf.(2024年4月1日閲覧)
注8. Knowles SR, et al.: Inflamm Bowel Dis.24(4):742-751(2018). Doi: 10.1093/ibd/izx100.
注9. Mehta F.: Am J Manag Care. 22(3 Suppl): s51-60(2016).

障害者ドットコムニュース編集部

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