女優の東ちづるさん、誰も排除しない「まぜこぜの社会」を目指す。
エンタメ
小人プロレス、車椅子ダンサー、全盲の落語家、ねたきり芸人、糸あやつり人形、ドラッグクイーンなどなど、唯一無二の特性を活かす表現者たちが繰り広げるエンターテインメント!「月夜のからくりハウス」が、12月10日、品川プリンスホテルクラブeXで開催されます。
アートや音楽などエンターテインメントを通じてマイノリティのPR活動を行なっている一般社団法人「Get in touch」が、一夜限りの「平成まぜこぜ一座」を結成。ちょっとPOPでパンクな欧米版の見世物小屋を展開します。
「Get in touch」の理事長を務める女優の東ちづるさんにお話を伺いました。
「私が、子どもの頃は低身長の役者さん、小人プロレスの存在が、はっきりありました。とってもおもしろかったのを覚えています。芸能界に入って海外の映画やテレビもよく観るようになったのですが、そこには車椅子の人や自閉症の人、手話の人が出ていたり。リアルな街、リアルな社会を映した時に存在しているんですよね。アスペルガーっぽい男の子や小人さんがいたりと。でも日本のドラマや舞台などのエンターテインメントではお会いすることがありません。主役でしか出てこない。主役は必ずメッセージがあってテーマがあって、しかもそれは健常の役者さんが演じるわけです。
例えばオランダには、ダウン症の役者だけのドラマがあります。それもコメディです。障害のあるタレントのプロダクションがあったり、小人さんたちのテーマパークがあったりして。皆さんプロの表現者として仕事をしているわけですよね。でも日本だと、教育・福祉・チャリティ番組に限られてしまう。Get in touchで一番最初に作ったプロモーションビデオには、マイノリティの活動家に150人以上出演してもらっています。みんなイキイキと笑顔で。作品としていいものが出来たと思ったんですね。ですが、メディア側としてはTVでは流せないと。なぜですか?って尋ねると「たくさんの障害者、マイノリティが出るから」って。リアルに社会に存在する人たちがその存在を否定されたようでショックでした。
出演できなくなった理由は、「障害者を笑い者にするのはけしからん」とか「障害者に仕事をさせるのか」とか「障害者を食い物にするとは何事だ」というふうな無意識な差別があるからのようです。そうやって社会的弱者にしようとしていることに気付いていないからやっかいです。笑われてるのではなくて、プロとして笑いもとっているのに笑わなかったらすべっていることになります。これはなかなか深いというか複雑というか、簡単にできることじゃないなということもわかりました。Get in touchはいろいろなエンタメ活動をしてきました。映像とかアートとかライブとかファッションショーとか。私たちの啓発の展開の仕方を福祉関係の人たちにも理解してもらえるようになったので、今回の企画になりました。」
最初は理解がなかった福祉関係者の人たちに、どうやって理解されるようになったのか?
「立ち上げの頃、福祉関係の人たちの中には、Get in touchの活動を「お祭り騒ぎなことをして、障害者や患者さんの何がわかる。」という声もありました。ですが、例えば、国連が定めた4月2日の世界自閉症啓発デーにエンタメイベントをしたことで、自閉症協会のホームページへのアクセスが大きく伸びたということがあったりと成果が伝わっていきだした。「自閉症ってなあに?」とか「ダウン症ってなんだろう」と興味をもってもらえたり、「一緒にいると居心地がよかった」ということが、ゆっくり浸透していって、福祉の業界の人たちも、Get in touchのような啓発の仕方も効力が大きいということがわかってもらえるようになっていきました。」
長年、福祉の世界を見ていると、そこだけで完結しているところが多くて、うちわで盛り上がっているような感じがして、そこで終わってしまうことが多いように感じますがー。
「私も最初はそうでした。骨髄バンクの活動がスタートですが、講演会やシンポジウムをすると、結局、知ってる顔が多かったり、医療関係者や当事者のご家族ですとか。そこで、興味のない人を巻き込んでいくにはどうすればいいんだろうということで、徐々にエンタメになっていきました。当時は、患者さんやご家族からは「辛いことをエンターテインメントにするのはいかがなものか」と叱られることもありました。ですが、啓発の仕方もいろいろあっていいと思います。」
「まぜこぜの社会」を目指すーわかりやすい「まぜこぜ」という言葉を使う東さん。そこに込められた思いとは?
「多様性、ダイバシティ、ノーマライゼーション、インクルーシブ…、かっこいい言葉が溢れ始めて、それを口にしたり書くことで実現しているというふうに錯覚しがちですが、現実はまだまだ厳しい。「まぜこぜの社会」という表現だと身近に感じるのではないかと思ってです。
色とりどりの人たちが存在するので、実はすでに多様性の社会なのに、多様性の社会を目指すってことが本当はおかしいわけでしょ。目指すってことは可視化・体験化できていないからってことですよね。
「まぜこぜ」という表現は、まぜごはんから考えました。それぞれの食材に合わせた切り方や味付けをして、最後に混ぜ合わせるという調理法。食材の特性を生かした配慮をすれば、美味しい料理になりますよね。やみくもに混ぜるのでもなく、遠慮するのでもなく、配慮をすれば、知識とか理解とかが無くても、一緒にいれば、気づきもあって、「まぜこぜの社会」はそんなに難しくないというイメージです。」
キラキラしたイメージの場所でしたい!無理をしてでもあえてこだわるわけとは?
イベント会場は、六本木、渋谷、表参道など、キラキラしたイメージの場所をあえて選んでいる東さん。その思いを伺いました。
「お子さんに障害があるからということで、不特定多数がいるところに行くことを遠慮しているご家族から私たちのイベントに対して連絡を頂きます。「パニックを起こすかもしれないから遠慮すべきかもしれませんが、実は参加したい」と。それに対して「大丈夫です。パニック起こしていいです。パニックを起こした時、私たちはなぜ起こしたんだろうと考えます。その時はどうしたらいいかを教えてください。それで気づきがたくさんありますので。何が起こってもウェルカムです。保険も入っているし、医療従事者も弁護士もいる。お互いに迷惑をかけ合いましょう。」と。すると、お母さんが「本当ですか?」って。「苦手なものはありますか?」と聞くと、「大きい音」。「大きい音が出てもその時のお子さんの様子を見てて下さい。」と。音楽ライブもありますから大きい音も出ます。
結果、今まで一人もパニックを起こした人はいません。それはウェルカムな雰囲気なので親御さんもリラックスして楽しめるからだと思います。急に立ち上がって踊っても、他の場所では「やめなさい」と座らせるらしいのですが、私たちは「いいの!踊ろう」と一緒に踊ります。「うちの子どもと、六本木、渋谷、表参道とか(あえてそういう所を選んでるんですけど、私たちは)そういう所に一緒に家族で来れるなんて思ってもなかった。」と涙を流して喜ばれる方もいます。みんながウェルカムでお互いに安らいでいるからOKなんだと思います。」
何が起こってもウェルカムな雰囲気を作ると、誰もパニックを起こさない。障害や病気をもつ私たちには「明日からも頑張るぞ」と思わせてくれる心の栄養を補充するアートや音楽などのエンターテインメントがとても必要なのです。病気や障害があるとまわりに迷惑をかけてしまうから…と思いこんでそこに行くのを遠慮してしまうことも多いと思います。「お互い迷惑をかけ合いましょう」と笑う東さん、とても素敵だと思いました。こんなウェルカムなイベントがもっと増えるとみんなもっと元気になって楽しい生きやすい社会になっていくのでしょう。
社会の役に立つ人にならないといけない?
「人権はすべての人に平等であるべきと思っている人と、人は社会の役に立たなければいけないと思っている人と、二極化して社会が分断されてきているような気がします。後者の考え方では、障害者手帳を持っているから、税金を使わせてもらっているから、自分は社会の役に立っていないのではと感じてしまい、とても生きづらくなってしまいます。ですが、社会の役に立つ人間になるために生まれたわけでもないし、生きているわけでもないです。だけど、それがいつの間にか刷り込まれている。これはとても怖いことです。
社会の役に立つ人を育むということが行政の指針にも入っている。おかしいです。社会の役に立つってどういう意味なんでしょう。ほんとは逆で、人の役に立つ社会であれでしょ。人の役に立つ国であれでしょ。国を強く美しくするために一億総活躍社会と言われていますが、違和感があります。人の役に立つ社会にしましょう、だと思う。これが逆になっていることに何も感じなくなっている。だから社会の役に立たなくなることが怖いんです。そこが不安だから、生きづらさがあるんだと思います。高齢者なったら社会の役に立てないんじゃないのか。寝たきりになったら、うちの子は重い病気があるから、重度の障害があるから、役に立てない。冗談じゃないと思います。そういう人たちが人間らしく生きていくための社会がいいです。」
普段から障害者を身近に感じる社会であればこの事件は起こらずにすんだかもしれない
「相模原殺傷事件があった時に、社会の役に立たない障害者はいらないという加害者の言葉に社会は熱をもって怒ると思ったんです。だけどそうではなかった。早いスピードで風化しました。ネットではわからなくもないという意見も出ましたよね。たくさんの人がそうじゃないんだ、人は生きているだけでいいんだっていう風に怒る社会でないと怖いと思う。このままだと、マイノリティになることが不安でたまらないです。誰もがいずれ不具合を生じるでしょ。常に健やかなもの、健常者などいないのですから。」
普段からTV、映画、舞台で障害者が通行人で通るなど脇役としても普通に出演している身近な存在だったら、まぜこぜの世界があったなら、障害者が排除されるというこんな事件は起こらなかったかもしれません。
どうして見世物小屋をイメージする舞台にしたのか
かつて見世物小屋は、お祭りやサーカスなどで大衆演劇として人気を集めていました。しかし、昭和50年以降「障害者を見世物にするのは不謹慎」とタブー視され、今では見かけなくなりました。
「見世物小屋にはネガティブな要素もあったんですが、国内外で自分の特性を生かせる職場でもありました。でも日本では仕事をさせるのはかわいそうと批判され、見世物小屋は衰退していきました。そういった歴史もいろいろ勉強しました。だからといって見世物小屋を復活させたいわけではありません。それは手段であって目的ではありません。福祉っぽく、教育っぽくではなく、可視化・体験化するエンターテインメントにしたかったので、見世物という刺激的、センセーショナル、キャッチーな見せ方になりました。」
目標は解散。イベント屋ではない、私たちは啓発団体
「この取り組みが広く知られていくためには、もっとメディアに載ることが必要だと思います。たくさんの人が知って、ぜひテレビに出て欲しいとか、映画とか舞台でも活躍して欲しいというふうに広がれば、たくさんのチャンスが生まれます。「Get in touch」の最終目標は解散すること。Get in touchはイベント屋ではなく啓発団体ですから、用無しになることが目標です。来年はあそこでもやるんだって!というように広がっていってほしい。全国巡業や海外公演が実現するといいですね。」
この夢の実現の第一歩がこの舞台「月夜のからくりハウス」。チケットは完売しましたが、この舞台を応援するクラウドファンディングは、引き続き行われています。特典映像満載のDVDのリターンがある5,000円コースがおすすめです。
クラウドファンディング - Makuake(マクアケ)「障害のある表現者と一緒に最高の舞台=エンターテイメントをつくりたい!」
https://www.makuake.com/project/getintouch/