「できるできないじゃない!! やるかやらないかだ!!」 佐久間勇人の2018年自由日記 vol.5
『佐久間勇人の2018年自由日記 』vol.5 <毎月30日連載>
5月6日(日)
ゴールデンウイークも終盤。千葉県は外房、釣が崎海岸へ向かった。九十九里浜の最南端、2020年東京オリンピックのサーフィン会場予定地だ。後輩がサーフィンをやろうと誘ってくれて、ちょっと迷いも有ったが、たまにはそれも良いかなと行く旨、返事をした。
後輩の別荘アパートに前泊して、近くのバーで一杯やりながら盛り上がった。サーフィンでパラリンピック目指そうか!と笑。バランス感覚を失う病気であるという事を完全に忘れて、ずっと水泳をやってきた。泳ぎには自信がある。大会でも結果を残してきた。冗談で盛り上がりつつ、ちょっと本気で考えても良いかなと思いあがってみた笑。
朝5時、日の出と共に起床。早々にウエットスーツを渡される。身体にぴったりと吸い付くようにフィットするスーツ。簡単には着られない。ただでもバランスが崩れてしまうので、立って着ることも出来ず、力も入らず。既に心は折れ気味になる。装着まで30分近く格闘した。普通の人なら3分くらいで着られるだろう。
そして浜辺へ向かう。アパートから直線距離で300mくらいか。早くやりたいと、ワクワクしながら車椅子で向かうのも束の間、砂浜では車輪が埋まる埋まる。で回らない。もちろん後輩や仲間が手伝ってくれたが、とにかく、蜂蜜の中を泳ぐような気分だ。
テトラポットを超えるのも一苦労だった。それでも震える身体で必死に這い上がった。既に出発してから30分。普通の人なら5分もかからない距離だろう。
ここで大便をしたくなり、アパートへ戻る決意をする。人生ゲームで振り出しに戻る、の気分だ。しかも今の行程を戻って、また戻ってこなければならない。生理現象に涙を流し、再び浜辺に戻ってきた時は既に8時を過ぎていた。既にぐったり疲れている。
それでも、ワクワクすることをやるという思いは、人を自己満足へ導いてくれるはず。
サーフボードと後輩を必死に掴みながら入水。見た目以上に波の力は強く、また、ひっきりなしにやってくる強い波に、私は朽ちたワカメのように漂うことしか出来なかった。波打ち際で立つことも、ボードの上に寝転がることも、こんなにも何も出来ないのか。ゴボゴボと波に揉まれて苦しみながら、悲しくなりかけた。
波しぶきの向こうで後輩が強く怒鳴る。「無理と決めたらそこが限界だ!! 止まってないで泳げッ!」と。
海の中を、波の中を必死に泳いだ。ボードにしがみ付きながら。
当然、立ってサーフィンは出来ない。そんなことは分かっていた。でも、波に押されて滑ることが出来た。最高だったし、やり切った感は半端ない。普通の人ならもっと出来ただろうとかはどうでも良い。
チャレンジしてみて良かった。できるできないじゃない、やるかやらないかなんだ。
仲間と境遇に感謝しつつ、何か一つ新しく掴めたかな、そんな気分になった。
5月8日(火)
以前に受講したユニバーサルマナー3級・2級の認定票が届いた。
高齢者や障害者、ベビーカー利用者、外国人など、自分とは違う誰かの視点に立ち、行動すること。
その心は「こころづかい」だ。決して特別な知識は要らない。
多様な方々と向き合うマインドとアクション。これをユニバーサルマナーとも言う。
私も車椅子使用者であるし、当事者での感じ方も分かるが、もっと広く思いを知れるのではないか。そんな思いで受講した。
ユニバーサルマナー。健常者だった頃は、そんなことを考えたことはなかった。あの頃は、ハンデがある人と接することが少なかったから気が付かなかったことも有ったと思う。対応の仕方も分からなかった。
でも考えてみれば、みんな誰だって、少なくともたまには外に出たい。心地よい世界に触れたい。いや、気持ちの良い環境なら、いつだって出歩きたい。
今の日本はどうだろう。誰にでも気持ちの良い環境が整っているだろうか。
私は33歳まで健常者だった。その後、ハンディを背負う事になった。そういう人も沢山居るだろう。だから言える。
「誰しも100%同じ境遇にならないとは言えない。」
気が付いて欲しい。自分とは違う誰かの視点に立つということは、その誰かは未来の自分自身かも知れないし、その誰かは環境が違えども同じ人間なんだということを。
人生は一回しかない。後悔しないように楽しみたいじゃないですか。
多様な方々と向き合うマインドとアクション。「こころづかい」を持つことの大切さが世の中にもっと浸透すれば、みんなにとっても、より楽しめる環境が広がることになる。
そんな思いをもっともっと伝えたい。