私が障害者手帳とヘルプマークを取得したワケ

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出典: https://beta.freelyphotos.com

先日、障害者就労の面接を2社受けた。どちらの企業からも、「手帳を持つようになった理由と経緯」を質問され、「発病後から業務がうまくいかず、一般就労への自信がなくなったから」と答えたのだが、あまりきちんと答えられなかったので、私が障害者手帳とヘルプマークを手に入れようと思った理由と経緯を落ち着いて考えてみたい。

発病前

私には、知的障害と自閉症を併せ持つ姉がいる。物心ついたときから、姉を助けることが出来るしっかり者になるようにと育てられてきた。一番古い記憶は、私が三歳の頃。迷子になった姉を母と一緒に探している風景だ。三歳といえば、やっと一人で着替えが出来るようになる年頃。自分の足取りも覚束ないのに、本当にそんな幼い頃から私は、三歳年上の姉の世話をしていたのかと自分の記憶を不思議に思い、母に確認すると、「うん、よくお姉ちゃんがを探し出してくれてたよ」とアッサリした返事が返ってきた。我ながら、子供らしくない子供時代を送ったんだなぁと思う。

その気持ちは年齢が上がるにつれて強くなり、小学校に上がる頃には、いじめられる姉を守るために上級生と闘っていた。姉をいじめる人は多かったので、キリがなかったけど、弱い姉を守ること、大切にすることが、私の役割だと思っていたので、闘い続けていた。

姉をいじめる上級生に対するイヤな気持ちは、自分よりも弱い人を大人数で攻撃するタイプ全ての人を憎む気持ちへと変わった。正義感からというよりは、という私の嫌いなタイプの人間をやりこめたいという思いが強くなり、それを成し遂げたくて、いろいろな人や物を利用して、自分は負けないように画策した。そんなおかしな力をつけたために、他のいじめられっ子からもSOSを出され、何件かのいじめっ子と闘い、いじめから救ってくれたと感謝する同級生からは、親友のように思われたが、私はその人たちを守りたかったんじゃなくて、いじめる人を懲らしめたかっただけだ。弱い人を助ける、それが自分の役割だし、それが出来ないなら、存在する価値が無いと思っていた。

発病後

新卒でついた仕事は大型雑貨店でのバイヤー。店頭での販売、企画、担当部署のことは全て任せてもらえる職場で、とてもやりがいを感じる毎日を送った。過労とストレスで双極性障害を発症してしまったが、発病してからは、休職させもらったり、体力的に楽な庶務課にいさせてもらったりとかなりの配慮をしてもらえた。残念ながら、基本的には、バイヤー職だったため、しばらくすると、元のハードなフロア担当に復帰することになり、気持ちも体力ももたなくなった私は、退職した。

今の自分でも無理なく出来る仕事をしようと、週に3日ペースの医療事務を4年経験した
。小さなクリニックでの受付事務は、体力的にも精神的にもとても楽だったのだが、月に数万円の収入では生活が出来ないので、フルタイムで働く派遣社員へと転職した。やはり、もたなかった。以前のように帰宅時間が終電ギリギリというハードな職場じゃなければ、勤められるかと思ったが、残業の無い仕事すら、私は出来なくなっていた。

抵抗を感じながらも、手帳を取得

再発に近い鬱状態となり、ひきこもる。働く自信もすっかりなくした私は、やっとのことで通いだしたデイケアで、「障害者就労」という選択肢を初めて考えた。最初は、「私が障害者?制度を利用しないと、私は働けないのか?そんなに能力がないのか?」実際、能力はガタ落ちし、配慮無しで働ける能力は無いのだが、私は病気が落ち着きさえすれば、発病前の自分に戻れると思っていた。

それに何より、子供の頃からの刷り込みで、自分は誰かに「助けられる(守られる)」のではなく、「助ける(守る)」側の人間だという意識が強かった。そのために自分を強く鍛えてきたのに、それが無駄になってしまうようで、不甲斐なさでいっぱいだった。「障害者」=「守られる人」というイメージはなかなか私の頭の中から消し去れない。まだ、努力すれば、何とか元の自分に戻って、誰かを助けられる自分に戻れるのではないかと、思っていたりもした。

その半面、リスクヘッジの一環として、手帳取得をすることも考えるようになっていった。手帳を持っていれば、障害者就労も可能になるし、使わずに一般就労することも可能だ。必要ないと思ったら、更新せずにいればいい。どちらにせよ、選択肢は多いほうがいい。内心、「この年齢では、再就職そのものですら難しいが、障害者枠を利用すれば、あわよくば、福利厚生の充実した一部上場企業に潜り込める」結構、最低な考えである。

障害者就労が出来る以外にも、メリットは大きく、携帯電話の割引サービスや映画館など、公共施設の入場割引は私もよく利用している。

ヘルプマーク

今は、母が介護状態だ。施設のお世話になっている。自宅介護ではなくなったので、今はかなり楽になったのだが、私がとても苦手なことがある。年に一度の母の難病指定の更新手続きだ。これが今の私には、難しい。まるで、ロールプレイングゲームのアイテムを集めるように、一つずつの書類を集めなければならない。

「臨床調査個人票」を手に入れるには、母を指定医のところへ連れていき診察を受け、検査を受け、一か月ほど待たねばならない。住民票や市町村民税課税証明書を手に入れ、受給者症のコピーを添付した書類の作成。母は2つの難病を持っているので、これを2パターン作る。さらに面倒なことは、母の受給者証や管理票は母がお世話になる施設に預けてあることだ。母の通院時には必要となるため、通院日では無いタイミングに合わせて、取りに行ったり預けたりを行わなければならないことだ。内容にもよるが、これらの書類を10枚程集めて初めて提出が可能になる。

以前なら、鼻歌でも歌いながら片手間に出来たような手続きだったように思えるが、毎年、8月下旬に通知が届き、全ての書類を終えて、提出出来るのは、10月。この期間は、これだけで少し憂鬱になり、終わると本当に肩の荷が下りる。今の私には、一つ一つの書類を読み、理解するのが難しい。わからない箇所も出てくる。そんな時は、電話で問い合わせるよりも、直接保健所に行き確認してみるのが、私にとっては一番手っ取り早いのだが、この時に困ることがある。

窓口の方がササッと説明してくださるのだ。理解出来そうだと思われて、手際良くしようとしてくれるのだろうが、今の私はそのスピードでは、全く頭が追いつかない。毎回、自分には障害があり、理解が遅いので、優しく丁寧にゆっくりと説明してもらえるとありがたいとお願いをするようにしている。だが、少し調子が悪いと、市役所に聞きに行かなければ書類の内容を理解出来ない自分に嫌気がさし、ひどく落ち込んだ気分に陥り、話をすることが出来なくなる。泣いてしまうことも多く、自分には理解が難しいと説明することさえ、困難になるのだ。

困り事を減らして楽になる

そんな時に、ヘルプマークのことを知った。私の住む関西ではまだあまり普及されていないが、関東に住む友人にたずねてみると、知ってる人も多いマークだ。ヘルプマークは、外見からは分からなくても、援助や配慮を必要としている人が周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなることを目的として作成されたマークだ。
私は、このマークを利用して、周囲の人に助けてもらおうと思った。それからは、市役所窓口に行くときは、この赤い十字とハートのヘルプマークをつける。詳しい説明をしなくても、職員の方は、最初からかなりゆっくりとしたペースで対応してくださるようになった。このマークに私は助けられている。

手を貸してもらってもいいんじゃない?

今の私は、少しずつではあるが、能力の低くなった自分を受け入れられるようになってきている。人間の価値は、「役に立つ」「役に立たない」ではない。きっと生きてるだけでいい。誰かの役に立てなくても私は、生きていていい。生きているだけで価値がある。だから、自分が生きていく中での少し困る事、(発病して私にはこの困りごとが発生した)その困りごとを埋められるなら、何かを利用していいんじゃないかと思う。私にとっては、それが障害者手帳とヘルプマークだった。他にも様々な支援機関にもお世話になっている。

最初は、それに頼らなければならないことに自己嫌悪を感じたり、世間に対して、うしろめたさや恥ずかしさを感じたりもしたが、自分のことではなく、もし大切な友人が同じように、何かに困っていたら?と想像すると、迷うことなく「社会にそういう仕組みがあるなら、それを利用して困りごとを減らせばいいよ」と勧めると思うのだ。自分を大切にする生き方、私はまだまだ下手だけど、友人を大切にするように、少しでも自分を大切に出来たらいいなと思う。

誰もが、「自分は生きてるだけでいい」と思える世界がいい。

最後に、一つ気になっていることがある。このヘルプマークを私は地元の市役所障害福祉課の窓口でもらった。一応、障害者手帳を持ってはいたのだが、「ヘルプマークが欲しいんです」と言うと、何も確認はされずに、すぐに「いくつ要りますか?」と簡単に渡してもらえた。その気軽さがとても嬉しくもあったが、誰にでも手に入りそうなことが心配にもなった。

健康体だが、電車の座席に座りたくて、マタニティマークを利用している女性の話や、身体障害者用の駐車利用証を不正に利用する人のニュースが巷にあふれているが、ヘルプマークも認知度が上がると同じように悪用されることになるかもしれないことを危惧している。ヘルプマークの認知度が上がり、ヘルプマークを持つ人が少しでも生きやすい世界になればいいなと願うとともに、このマークが悪用されない優しい世界を願う今日この頃である。

参考文献

Media116「精神障害者手帳」ってどんなメリット・デメリットが?
http://www.media116.jp/

大阪府ヘルプマーク
http://www.pref.osaka.lg.jp/

toiro

toiro

双極性障害。RADWIMPSと米津玄師をこよなく愛す。趣味は、料理とカメラ、読書。好きな言葉は「例え明日世界が滅ぶとしても、今日私は林檎の木を植える」「私、何様」「卵を割らなければオムレツは出来ない」

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