発達障害がある自分の強みと弱みを知る~企業実習の意義

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出典: https://unsplash.com

発達障害を抱える方にとって最も悩ましいことは、「自分の能力の凸凹」だと思います。この能力的なアンバランスさは、自分を企業に売り込む面接の時や就職後の社会人生活に大きな影響を与えます。それ故に、発達障害を抱える方にとっては、まず「自分の強みと弱みを知る」ことが課題になってきます。今回は、就労移行支援事業所が提供する企業実習を通して自分の強みと弱みを知るに至った自身の体験と私が考える企業実習の意義について書きたいと思います。

就労移行支援事業所のカリキュラムにおける実習

国民健康保険団体連合会(国保連)のデータによれば、平成29年(2017年)12月時点で日本にある就労移行支援事業所(以下、「就労移行」)の数は3,398です。これらの就労移行のカリキュラムには、数日から一ヶ月の期間、実際に企業で職業体験をする「企業実習」が含まれています。

就労移行がカリキュラムに実習を取り入れている目的は、発達障害を抱える人に、自分の作業面での強みと弱みを知り、どのように強みをアピールし、弱みを工夫して補うかを考える機会を提供することです。私もこのコラムを書く実習も含めて、三回の実習を体験しました(しています)。以下、実習を通して、私がどのようにして作業面での強みと弱みを見つけたかということを紹介したいと思います。

不動産会社での実習

私が最初に体験した(している)のは、不動産会社での実習です。期間は9月中旬から12月下旬までの週初めの一日(月曜日が祝日の週は火曜日)で、実習日は計15日です。

今までに体験した業務内容は、会社が経営している4つの飲食店の各月の現金収入とクレジットカード収入の金額が合っているかどうかを三種類の書類を照らし合わせて確認する作業(照合業務)と小口精算、4つの飲食店が食材の仕入れ等のために各企業に支払った金額を企業ごとにExcelに打ち込む入力業務です。

この会社の社長からは、「あなたは数字に強い」、「理解力が優れている」、「正確に数字を入力できる」とお褒めの言葉を頂きました。「数字に強い」というのは、自身にとって大きな強みです。私が通っている就労移行では、「強みとなる三つの業務を見つける」という課題がありますが、この実習で、「照合業務」と「入力業務」という二つの強みを見つけられました。また、「理解力」も社会人としての大きな強みになると思います。

保険会社での一日職場体験

二つ目の実習は、大手保険会社の特例子会社での一日職場体験です。「大手だから良い」というわけではありませんが、障害者雇用を目的としている特例子会社だけあって、障害者が働きやすいように細かいところにまで工夫が行き届いていると思いました。

最初の業務は、ビニール袋から廃棄する予定の「保険のしおり」を取り出し、ビニール袋としおりを仕分けて、10部できたら、後ろに置いてある別々の箱に仕分けたものを入れることでした。この業務の目的は、保険の内容が変わったので、変更前のしおりがお客様の手元に届かないようにすることです。仕分けなければならないセットは段ボールに何箱分もありました。こういう作業を長時間行うには、ペース配分が重要だと感じました。単純作業といっても、誰かがやらなければならない業務なので、疎かにしていいものではありません。

次の業務は、「マーク入れ」という作業でした。この業務は、それぞれに32-1、33-1、34-1、35-1、36-1と記載された5枚の紙片を1セットとし、20セットを与えられたビニールのシート一枚一枚に、左から右へ数字の若い順に入れていく、というものでした。「32-1」は「平成32年1月」という意味です。この作業には、手先の器用さが要求されます。私も時間内にはできたのですが、9人いる実習生のうち、私よりも早くできた人が数人いたので、「自分は手先が不器用かな?」と少し思いました(勿論、この業務は競争ではありませんが)。

この実習で最も印象深かったのは、終礼で実習生代表として挨拶をさせて頂いたことです。私の通っている就労移行では、朝礼で3分間スピーチを当番制で行うことになっているのですが、そこで度胸を培ってきたので、詰まらずに挨拶ができ、会社の皆様に褒めて頂けました。

記事を書く実習

三つ目の実習は、インターネットを通して様々な情報を発信している企業での実習です。実習期間は4日間で、業務内容は皆さんが読んでくださっている記事を書くことです。就労移行のスタッフに「出版・印刷関係の企業で実習したい」と希望を出していたので、それが実現したというわけです。

この実習では、電話応対も実習生が担当します。私も2日目に電話応対をさせて頂きましたが、就労移行でも電話応対の練習をしていますので、「お電話ありがとうございます。〇〇〇(企業名)の△△△(私の名前)が承ります」というべきところを「×××(就労移行支援事業所の名前)の△△△が承ります」と言いそうになって言葉に詰まってしまい、他の実習生に代わってもらうことが数回ありました。私の通っている就労移行では、「苦手な業務を見つけ、具体的な対策を立てる」という課題もありますが、「お電話ありがとうございます。〇〇〇の△△△が承ります」という文章をプリントアウトした紙を用意することがこれに当たります。

記事にはフォーマットがあり、字数も「1,500字以上」という目安があります。「1,500字」という塩梅がつかめず、1,500字を大幅に越える長い記事を書いて一日が終わっていました。しかし、記事を書き、発信することに楽しさを感じていますし、社長の奥様に、「(私が最初に書いたコラムは)よくあそこまで書けました!あの記事は反響が大きいはずです」とお褒めの言葉を頂けて大変嬉しかったので、三つ目の強みは「文章(文書)作成業務」と言えるかもしれません。

まとめ

私は、三つの実習を通して、「入力業務」と「照合業務」と「文章(文書)作成業務」という強みを見つけました。これらの強みを見つけ、企業の方に褒めて頂いた時は嬉しかったですし、自信につながりました。また、「プレゼン業務」は苦手だと思っていましたが、「短い挨拶だったら意外とできる」という気付きもあり、少し苦手意識が和らぎました。そして、苦手な「電話応対」についても、「出だしの台詞を原稿にしておく」という対策を考え出せました。

企業実習を通して、「給料をもらって働くこと」がどういうことなのかが少しだけ分かったような気がします。実習は大変ですが、実習よりもハードな「労働」という営みを誰もが毎日やっている、という事実を実感することができ、社会を見る視点が大きく変わりました。これが実習のもう一つの意義だと私は考えています。

サンライズ

サンライズ

40代の男性。2年生で高校を中退。その年にメンタルクリニックを受診し、抑うつ状態と診断される。うつ病と闘い、自身の発達障害を疑いながら博士課程に進学するも、博士号は取れずじまいで単位取得満期退学。これを機に、それまで主治医の方針で「疑い」のまま保留になっていた自閉症スペクトラム障害の診断を受ける。現在は一人暮らし。趣味は読書、音楽(邦楽)観賞、YouTube、クイズ番組を観ること。

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