産む決断、産まない決断〜ASDと向き合う物語、映画『99%、いつも曇り』瑚海みどり監督インタビュー

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©︎35 Films Parks


映画『99%、いつも曇り』の瑚海(さんごうみ)みどり監督にインタビューしました。瑚海監督は脚本も手がけ、主演も務めています。この映画は、ASDグレーの主人公が親戚から「もう子どもは作らないの?」と言われたことから始まるストーリーです。50代で映画監督に転身した瑚海さんの特異なキャリアにも注目です。

映画監督への転身

監督・脚本・主演の瑚海みどりさん

──映画を作ろうと思ったきっかけを教えてください
「4年半前に入院した時、自分の人生を振り返ったことがありました。一度離れて戻った俳優業と、細々と続ける声優業、このままでいいのか考えると居ても立っても居られず、一念発起して映画美学校で学ぶ決断をした訳です。学校と言っても実際はサロンのようなもので、塾かワークショップに近い感じですが、実際に監督や脚本家で活躍されている人の講義を受けられます。そこの修了制作として短編を2本撮った時、学内での受けは悪かったですが、地方の映画祭に出してみるとグランプリや特別賞などを頂き、『悪くないんじゃないか』と手応えを感じました。それで年齢的にも覚悟を決めて映画監督を志しました」

「映画を撮るためにネタ帳を溜めているのですが、その中に『アスペルガー』と書いていました。35歳頃のとき、知人から何気なく『あなた、アスペルガーなんだと思う』と言われたことがあります。その時は良い意味で捉えており、日常面に困難はあっても何かしらの能力に長けているイメージがありました。それから気になって仕方なく、メモしていた訳です。ある種の憧れでもあったアスペルガーについて改めて調べ直すと、悩んでいる人が多いことが分かりました。特別な部分があったとしても、日本では浮きやすいのでしょう。けれども、そういう人は周りにも居るので、『あなただけじゃない、大丈夫』という意味も含めて作品づくりを始めました」

こだわりを重んじる

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──映画を仕上げるまでに専門家や当事者と会いましたか
「ASD傾向がある人のサロンがあって、自分にもその傾向があるのも込みで参加しました。トークの会でありながら少しずつリサーチもしていき、各々の得手不得手をメモしていましたね。また、重度障害だったり、知的障害がある人のサポートセンターにも見学に行きました。コミュニケーションがより難しい人、映画のことになると止まらない人、そこで働くサポーターにも取材しましたね。また、関連書籍も何冊か読み込みましたし、オンラインでの就活指導も受けました」

──演技指導などで意識したことや気を遣ったことは何ですか
「この映画はASDの人々が持つ『こだわり』をテーマにしようと思っていました。ゆえに、細かい描写も大切にしないと“それ風”で終わってしまいます。私自身こだわりは強いので、描写を残していけば当事者が観ても納得すると思ったわけですね。私が当事者なので、特に役作りはしませんでした。役を作り込むと逆に偽物っぽくなるので…」

「脚本は自分で書いている以上、頭の中で登場人物はある程度出来上がっているので、それに近しい人をキャスティングしました。なので演じるのは難しくなかったと思います。ただ、指導する時は何度もリハーサルして細かい所まで練習しました。大変だったのは、自分も演じながら他人の演技指導もしないといけないことで、準備に余裕を持たせるよう最初からお願いしていましたね」

産む決断、産まない決断


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──子どもを産まない選択というテーマについての想いを伝えてください
「第1作目は作家性の強いものにするため、嘘偽りなく正直に書こうと思っていました。産むことにポジティブな映画は沢山あって受け入れられやすいですが、現実は諦める人々が多い割にその人たちの為の映画がありません。私自身も若い頃、余程のリスペクトがないと特定の一人と親しくなることは出来ず、集団から浮いた一匹狼のような側面がありました。そんな辛さを子どもに味わわせるのはどうかと思うと、子育ては難しいなと思う訳です。結婚していた頃、夫は子どもが欲しく、私は欲しくないと思っているズレがありました。そうした側面も映画に乗せていきたかったです」

「最近、当事者同士の夫婦が子どもを産むことについて炎上騒ぎになりました。産む決断自体は良い事ですが、逆に産まない決断をした夫婦も大事にして肯定していかねばならないなと思いました。産まない決断までに費やしたエネルギーや考えてきたことを肯定したかったのです」

──親戚の集まりの場面が印象的でした
「親戚から向けられる目線とか、私なんかは気にしないのですが、皆大体あんな感じですよね。けど失礼な人はいます。『亀ばかり可愛がってないで…』という台詞は実際に私が言われたことが元です。『猫ばかり可愛がってないで、人間の子どもも可愛がりなさい』と言われました。その人はご自分の息子さんが離婚して大人しくなって、私の映画を二度も観に来てくれましたね」

「言われて傷つく時は傷つきます。自虐もそれはそれで寂しいですよね。言った人はすぐ忘れるのでしょうが、言われた人は一生覚えてますし、反芻してずっと残っちゃうんですよね。想像力を働かせて『自分が言われて嫌なことは他人に言わない』に尽きますね」

周りも生きた人間だからこそ


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──作品を通じて伝えたいメッセージはありますか
「取材したサポートセンターからは『キレイゴトに描かないで』と言われました。障害者を撮ると、その人が中心の作品になる傾向があるのかもしれません。ですが、周りの人間も一緒に生きています。どの人にもそれぞれの人生があることが分かる内容にしようと思いました。出来ることと出来ないことがある以上、互いにコミュニケーションをとるのが大切ではないでしょうか。互いに意思表示して話し合っていけたらいいなと思います。分からないからといって無視するようなことのないように

──まだコミュニティに出会えていない人が多いのでしょうね
「『自分もそうなんです』『職場にもそういう人が居ます』という感想を頂くのですが、そういう人にもそれぞれの得意分野が必ずあります。皆と同じことが出来ないからといって責めるのではなく、その人に何が出来るか思考を巡らすこと、勿論本人が適性を分かっているのが一番ですが、自分の特性を活かした仕事に就けるような社会になっていってほしいですね」

──上映してからの手ごたえや学び、成果などを教えてください
「この映画は東京国際映画祭をはじめ、様々な上映の機会を頂いている訳ですけれども、扱うトピックが何であれ『生きづらさ』を語れる時代になったことは良い変化だと思います。本作を通じて胸のつっかえや澱(おり)が取れて元気になったり勇気を貰ったりする姿が、私にも励みになります。ただ、観てもらいたい人にまだ届ききっていない感じもします。映画好きだけでなく、映画と縁の無い当事者にもエールのつもりで作っていますので、もっと浸透して届いてくれればいいですね

──次に撮りたい映画の着想はありますか
「次の映画は全く違うものを扱うつもりです。生きることは誰にとっても大変です。発達障害の話は一区切りにして、今度は人間関係のコンプレックスを描きたいですね。これを払拭しないと人生を終えられないミドルエイジは沢山いるのではないでしょうか。人間の根底には愛されたい欲求があり、一生引っかかってくるものですから」

◆作品情報
『99%、いつも曇り』

出演:瑚海みどり 二階堂智
永楠あゆ美 Ami Ide KOTA
曽我部洋士 亀田祥子 月田啓太 吉岡礼恩 ほか

撮影:須藤しぐま  照明:西野正浩  録音:三村一馬
美術:求愛行動yui 衣裳:栗田珠似 メイク:渡邊夏生
監督補:小宮淑 
助監督:永峰靖之 
音楽:34423

監督・脚本・編集:瑚海みどり
製作・配給/ ©︎35 Films Parks

◆上映・アフタートーク情報
東京のCINEMA Chupki TABATA(シネマ・チュプキ・タバタ)にて2月8日から公開されています。瑚海みどりさんのアフタートークも以下の予定で開催されます。

◉16時30分の回 上映後
◯2月10日(土)
◯2月11日(日)
◯2月12日(月・祝)

◉19時20分の回 上映後
◯2月18日(日)
◯2月23日(金・祝)
◯2月24日(土)
◯2月27日(火・上映最終日)

なお、CINEMA Chupki TABATAは、目の不自由な人も、耳の不自由な人も、誰でも一緒に映画を楽しめるユニバーサルシアターです。

映画『99%、いつも曇り』公式サイト
https://35filmsparks.com/

映画 『99%、いつも曇り』本予告

障害者ドットコムニュース編集部

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