PwC財団が推進する未来の身体拡張~BMI技術で広がる可能性
暮らしPhoto by Milad Fakurian on Unsplash
公益財団法人PwC財団では、助成事業2024年度人間拡張として、Brain Machine Interface(以下、BMI)の活用を通じて重度身体障害者や高齢者の身体機能を拡張する事業を対象に公募を行いました。PwC財団としては初めて同一の公募テーマで3団体を同時に採択する試みも実施しています。
BMIとは、平たく言えば脳波の信号と機械の力を駆使して、制限された身体機能を取り戻したり介助器具を動かしやすくしたりするものです。まだ黎明期ともいえるデバイスですが、これが進化すれば重度身体障害者にとって行動の幅が大きく広がる光明となるでしょう。
3団体の取り組み
今回の助成事業で選ばれた3団体の取り組みについて解説します。制限された身体機能を拡張するという共通テーマのもと、それぞれの現状、対象者、進捗状況に細かな違いが見られます。それらを含めて解説しましょう。
株式会社LIFESCAPES(ライフスケープス)
LIFESCAPESは主に「脳卒中」の後遺症に対応する技術開発を行っています。特に、ヘッドセットを介して脳の信号を読み取り、動作を制御するインターフェースを導入しており、これによりリハビリが難しい重度の患者にもサポートが可能になることが期待されます。いち早く社会に実装されてはいますが、コスト面での問題が重くのしかかっており、大きな病院など限られた施設でしか使われていないのが現状です。現在の目標は、原価を抑えるなどして安く提供できるようにし、より多くの施設や患者へ行き渡るようにすることです。
株式会社JiMED(ジーメド)
JiMEDが主な対象としているのはALSなど感覚は機能しているが身体を動かせない「閉じ込め状態」の患者に向けて、大阪大学の平田雅之教授と協力しながらBMI医療機器を開発し、社会実装していくことを目指しています。「閉じ込め状態」は意識や感覚はあるものの身体を動かせないために他者とのコミュニケーションもままならないことが大きなペインとなっており、患者はもちろん身内の方も大変大きな悩みを抱えられています。当社が開発中の医療機器は、外科的手術により一部頭蓋骨の代わりに埋め込む腕時計ほどのサイズの小型脳波計を中心とした製品群です(現時点では未だ承認前であり、販売・授与は出来ません)。脳波計から取得した脳波をワイヤレスで送信し、AIで解析後、様々な外部機器と接続することを想定しています。
株式会社アラヤ
アラヤは先端AI技術や神経科学を応用したニューロテックの研究開発および事業を行っています。目指す大きな目標は、脳とモノ・AI・他者がシームレスに繋がる仕組み作りです。これは制限された身体機能の拡張に留まらず、すべての人に生活での新しい選択肢をもたらすことでもあります。既に脳波を用いた発話解読の分野で世界トップを走るなど実績も残しています。従来の介助デバイスにあった、動かすと目が疲れたり時間がかかったり等の問題にもコミットし、脳で念じて操作するデバイスの作成を目指しています。現在、被験者やテスターとして協力する当事者を募集しております。
▼BMI実験参加者募集ページ
https://herp.careers/v1/arayainc/NlXz1yTDk72n
PwC財団の助成事業について
公益財団法人PwC財団は、BMIの活用を通じた身体機能の拡張と介助者の負担軽減をテーマに、それを目指す活動をする団体を対象とした公募を行いました。より大きな社会的インパクトの創出を目指し、今回は、初めて同時に3団体を助成対象として採択しました。 選ばれた3団体には、それぞれ1,000万円の助成金が交付され、2024年7月から1年間にわたり助成事業が推進されます。
3団体の担当者へインタビュー
Web会議の形で、3団体それぞれの担当者へもインタビューを行っています。LIFESCAPESの廣瀬さん、JiMEDの中村さん、アラヤの笹井さんにお答えいただきました。
──アラヤさんのように、他2社もモニター募集はされていますか。
廣「一般の患者様というよりは、提携する施設が対象になると思います」
中「新開発の医療機器であり、今後は治験を実施していく予定です。2025年秋頃の実施に向けて患者様のリクルートをしていく予定で、既に具体的な治験実施計画は固まっております」
──価格を抑えるための道筋などはありますか。
廣「弊社で発売している医療機器はありますが、非常に高額で医療機関向けが前提となっています。そこで今回やりたいのは、原価を落とした製品を開発し、価格を落として導入することで、多くの病院で導入されるのではないかと期待しています」
中「当社としてもコストダウンは進めて行きつつ、同時に保険適用する場合の償還価格はこれから厚労省ともより詳細な討議が必要になってきます。保険適用とすることで患者様目線では、高額医療保険制度などの活用により実負担は抑えられるようにしたいと考えています」
笹「これから出来上がるという段階なので、商品としての価格がどれほどか予測がつかないのですが、我々はハードウェアではなくソフトウェアを作っているのであって、安いハードと互換性のあるソフトを作っていければと思います。それでも、オールインワンのデバイス自体は、それに携わる企業と組んで解決していきたいです」
──実際に患者へ啓発して届けるための戦略はありますか。
廣「既に先行して発売している商品がありますので、今回開発する製品も基本的には既存の営業先と介護老人保健施設や自費リハビリ施設へ届けていく形となります。ただ患者様個人への働きかけは着手できていない部分でもあります。そうした患者様のニーズがあれば、医療機関での導入の後押しになると思うので、今後進めていければと思います」
中「ALS患者団体との関わりでいうと、過去にニーズアンケートやヒアリング調査をしたことはあります。今後も継続的かつ包括的な連携が必要と考えており、患者団体と繋がりの深い医師のご協力も仰ぎたく考えています。一方で、メディア発信しながらの世間へのより広い周知活動も必要だと感じています」
笹「我々は重度の障害がある方と協力して開発に取り組むことで、当事者の生の声を活かしたプロダクトづくりができていると思っています。また、当事者とともに開発することにより、そのネットワークを介して口コミで広がっていくことも期待できます。ALSの啓蒙団体とも繋がっており、社会に対して発信するイベントも手伝っています。何よりも、このような媒体で宣伝して頂けるのは有難いことです」
当分は周知活動を頑張ります
──連携など他社との関わりはどのようにするつもりですか。
廣「扱う分野が微妙に違うので、明確な競合にはならないと思います。ただ、研究面での技術協力はしていきたいですね。リハビリ機器としての競合他社は多いですが、BMIに限れば日本国内では自分たちだけではないでしょうか」
中「少なくとも国内における我々BMIに係る事業を行う者については、各社が対象とする、あるいは提供するサービスが異なるので直接的な競合関係という見方はしていません。BMIの社会実装や市場形成、それによる患者さんへの価値提供といった目標は同じなので、協力していく関係性と捉えています。その意味では、方法論はさておきそれぞれの企業が得意なものを持ち寄って、オールジャパンで取り組めば海外にも対抗できるのかなとも思っています」
笹「会社としての目線は抜きでコメントしますが、やはり競合するより協力しあう仲間たちとしての認識が強いですね。ソフト屋として、ハードは充実してほしい所です」
──他に載せて欲しい事や、お互いに聞きたいことはありますか。
中「長らく研究開発に時間をいただきましたが、来年よりようやく治験を始められるところまで開発が進みました。治験を開始する段階になればあらためて当社のホームページや、関連する患者団体様にもお知らせしていきたいと思います」
笹「繰り返しになりますが、一緒に作り上げてくださる方を募集しています。自分好みにカスタマイズするプラットフォームを目指しているので、多くの方に参加いただきながら、ともにまだ見ぬ新しい価値創出を目指していきたいです」
廣「我々の強みとして、既に出来上がった物が現場で利用されていることが挙げられます。良いフィードバックや期待の声を頂いている反面、納入先が限られているせいで認知も行き届いておりません。重度麻痺の方々にも新たな可能性を提供できるデバイスの開発を進めており、このような取り組みが周知されればいいなと思います。リハビリ業界は予算も限られており、高額機器の導入が躊躇われるのですが、その中でも20台以上が世に出回っているので滑り出しは順調です。その上で、頭打ちになる前に新しい製品を世に出せるかが重要だと考えています」
中「国内でのBMIの認知度はまだまだ低く、我々としても患者様やそのご家族の方々などに対しても十分に周知できていないのが現状かと思いますので、より積極的な発信が必要だと考えています」
笹「私達も商品を出す以前に、知ってもらわねばならない段階ですね。存在自体知られていない中で、どうやって知ってもらうかが課題です。このような機会を活かしながら、皆様と繋がって、関心のある方に知っていただけるように活動を展開していきたいです」