サイコパスと発達障害の違い〜広がる誤解を防ぐために
発達障害最近はメディアを通じて、発達障害の認知度が急速に高まっています。同時に発達障害と並んで認知され始めた存在に、「サイコパス」がいます。発達障害者の内サイコパスに当てはまる人や、犯罪事件を起こした発達障害者の報道もありました。しかし、発達障害とサイコパスの明確な違いは何でしょうか。私の幼少期の体験談も交えながら紹介します。
まずサイコパスとは?
私自身の話に入る前に、サイコパスに見られる特徴を簡潔に紹介します。個人差もありますが、以下にまとめます。
・他者の痛みを感じにくいため、他人の気持ちを理解できない。
・不安と恐怖を感じにくいため、危険で無謀な行動に出やすい。
・一見人当たりがよく魅力的だが、プライドが高く平然と嘘をつく。
・チャレンジに積極的だが、衝動的で飽きやすい。人間関係が長続きしない。
上記の内、共感性の弱さや衝動性の強さ、人間関係の難しさなど、発達障害と類似する点もあります。しかし、発達障害とサイコパスが同じ行動をしているように見えても、その背景にある気持ちや考え方に大きな違いがあります。
私は冷たい人間なのか?
幼少期から自閉スペクトラム症の傾向を見せていた私が、自分の人間性に疑問を抱かざるを得ない出来事がいくつかありました。一つ目は、幼稚園にあった体育マットの下敷きになって遊んでいた時のことです。同じ組のAちゃんが私の行動を真似て、同じようにマットの下敷きになりました。それから数分後、Aちゃんの小さな体は分厚く重たいマットで押しつぶされ、苦しそうに大泣きしていました。
しかし当時の私は、Aちゃんを助けることも、その姿を見て胸を痛めることもありませんでした。幸いAちゃんの泣き声に気づいた先生が、彼女を救助しました。その後、Aちゃんに危険な遊びを教え、彼女を助けようとせずに一人で遊んでいた私を、先生も他の園児も強く非難しました。
心当たりは他にもあります。幼稚園のB君がプールサイドから飛び出して転んだ際に、私は笑っていたそうです。友達が内緒にしてほしかった先生の悪口を、私は先生本人に伝え、その事実を友達に伝えました。友達は当然怒り泣きましたが、それでも当時の私は平然としていました。一日だけの交流授業で会った人を思い出せない私を、担任の先生は「冷たい人間だ」、と非難しました。
苦しみが異なる
私の幼少期のエピソードから、私の言動にサイコパスとして疑わしい部分はいくつかあったと思います。発達障害(特に自閉スペクトラム症)のある人は、相手の気持ちを察し、共感する力が弱いと聞きます。注意欠如多動性障害の不注意や衝動性に、ストレスなどが加わると、突発的な暴言・暴力に繋がりやすいです。学習障害の場合は特性そのものよりも、積み重ねられた劣等感や怒り、悲しみが問題行動として表れることもあります。それでも発達障害とサイコパスの間には、決定的な違いがあります。
私の例で説明するならば、Aちゃんが泣いても私が助けなかった理由は、Aちゃんの苦痛と涙の「意味」を理解していなかったからです。赤ちゃんが、目の前で人が怪我して泣いて苦しんでいても、その意味を理解できていないのと同じです。発達障害の場合、自分と相手の言動の「意味」と「結果」を想像する心の発達がゆっくりです。さらに当時の私は、Aちゃんの件で叱られた理由を理解していませんでしたが、「何かいけないことをしてしまったようだ」、という罪悪感を抱いた記憶はあります。そうでないと、その時の出来事を今でも覚えているはずがありません。
一方、サイコパスの場合は、事の重大性と意味を「理解していても」胸が痛まないのです。発達障害の場合は、むしろ強い恐怖や不安を抱きやすく、自己肯定感の低さや生きづらさに苦しむ人が多いです。サイコパスの場合は、自身の痛みすら感じづらく、心拍数も上がりにくいという研究結果も出ています。発達障害に境界性パーソナリティ障害や非行を繰り返す行為障害などが合併している場合、サイコパスに類似する言動が見られます。しかしその場合も、根底にあるものは「自分を認めてほしい」、という心の痛みです。しかし、サイコパスは孤独を感じつつも、むしろ自分の利益のために他者を平気で踏み台にすることができます。ただ誤解しないでほしいことは、サイコパスの特性を持っていたとしても、それが直接犯罪に繋がっているわけではないということです。
まとめ
・発達障害とサイコパスに共通点はあるものの、その根底にある気持ちや考えが異なります。
・両者の決定的な違いを一言でいうならば、サイコパスの方は「恐怖や不安、痛みを感じにくい」、という「情動障害」が生まれつきあります。
・発達障害の場合、自分と相手の言動の「意味」と「結果」を想像しづらいだけに過ぎず、罪悪感や傷つく心がない、という訳ではありません。
発達障害とサイコパスの違いをあげてきました。多くの発達障害者が感じているものとは異なりますが、サイコパスの人間も別種の「生きづらさ」と「孤独」を抱えています。サイコパス本人は周囲と自分との違いに悩み、周囲はサイコパスに振り回されて苦しむことはあるでしょう。しかしサイコパスは社会に必要だからこそ現代にも存在しているのだ、と思います。目的のために手段を選ばない合理性や行動力があったからこそ、企業や政治のトップに君臨し、良くも悪くも革命を起こした者もいます。狩猟時代や戦争、現代では危険で過酷な仕事においても、サイコパスの特性は有利に働くと思います。
少しでも参考になれば幸いです。ご拝読ありがとうございました。
参考文献
・中野信子(2018年)『サイコパス』文春新書
・岡田尊司(2012年)『発達障害と呼ばないで』幻冬舎新書
自閉症スペクトラム障害(ASD)