「スペシャルオリンピックス」知的障害者スポーツにおける一つの到達点

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unsplash-logo Meghan Holmes

「スペシャルオリンピックス」とは、知的障害者スポーツの大会だけでなく、日常的な練習プログラムなど包括的にサポートする国際スポーツ組織です。パラリンピックにもごく一部で知的障害者カテゴリはあるのですが、世界一を競うパラリンピックに比べると「スポーツを楽しむ」「スポーツを通して知的障害者の社会参加を促す」という点に重きを置いています。

始まりはジョン・F・ケネディ元大統領の兄妹を取り巻くお家騒動でしたが、妹ユニス氏の尽力によって知的障害者スポーツにおける重要な国際組織にまで成長し現在に至ります。

ケネディ家のお家騒動から始まった

スペシャルオリンピックスの起源は1962年に遡ります。ジョン・F・ケネディ元大統領がダラスで暗殺される1年半ほど前、元大統領の妹であるユニス・ケネディ・シュライバー氏がケネディ邸の庭を解放し、知的障害者らを集めてデイキャンプを行いました。

このデイキャンプが行われたきっかけはケネディ家のお家騒動でした。デイキャンプの21年前、ユニス氏の姉であるローズマリー・ケネディ氏が父親の独断でロボトミー手術を受けさせられ、重い知的障害を負ってしまいます。それからローズマリー氏の存在は厳重に秘匿されていたのですが、ジョン・F・ケネディ元大統領の就任によって明るみとなり、激しい批判に晒されました。

最初のデイキャンプにはそうした批判をかわす目的があったのです。しかし、知的障害者のレクリエーション参加という新たな可能性が示唆されたことで手ごたえを感じたケネディ財団は、同様のデイキャンプを北米各地に広げる助成活動を始めました。

1968年に第一回スペシャルオリンピックス国際大会と国際本部設立の実現に至ります。1988年には国際オリンピック委員会(IOC)から「オリンピック」の名を使ってもよいとされ、スペシャルオリンピックスの地位は盤石なものとなりました。

スペシャルオリンピックスの地位向上に関してはユニス氏が中心となって活動していました。ユニス氏は、親きょうだいのほとんどが見捨てていた姉ローズマリー氏を最も気にかけており、そうした背景も絡んでいたのでしょう。現会長であるティモシー・ペリー・シュライバー氏もユニス氏の息子です。

活動は世界大会だけではない

現在、スペシャルオリンピックスの世界大会は夏季冬季それぞれ4年に1度、オリンピックの前年に開催されるようになっています。直近の大会は今年3月にアラブ首長国連邦のアブダビで開催された2019年夏季大会です。他にも国内大会であるナショナルゲームや、知的障害のない人と混合チームを組むユニファイドなど試合や大会だけでも様々な取り組みがなされています。

大会だけでなく、それに先立つ練習や体調管理の支援もスペシャルオリンピックスの活動範囲です。例えば、ヘルシー・アスリート・プログラム(HAP)では体力・視力・聴力・口腔・足のケア・生活習慣の6項目で専用の健康診断や指導を行っています。

競技会に向けたトレーニングも週1日2時間の頻度で行われます。トレーニングプログラムも一人ひとりの選手に合わせて組まれており、本格的な練習はもちろん初歩的な所からコーチしてもらう人もいます。スポーツを楽しむため、習得に重きを置いたプログラムが組まれることもあるという訳ですね。中には、パラリンピックやジャパンパラ競技大会など競技レベルのより高い舞台へ転身する選手もいるそうです。

全員表彰と独自のグループ分け

スペシャルオリンピックスの大会には独自の取り組みが多数含まれています。その最たる例は、「全員表彰」でしょう。表彰台には後述のディヴィジョニングで分けられた選手全員が上り、失格者含む4位以下の選手にもリボンと拍手喝采が贈られます。勝つことよりも健闘する事に価値を見出すスペシャルオリンピックスの理念を体現した様式と言えるでしょう。

もう一つ有名な工夫として、「ディヴィジョニング」という独自のグループ分けが挙げられます。大会には予選と決勝があるのですが、予選を勝ち残って決勝に進むという一般的な形ではありません。予選の目的は選手の強さをもとにグループ分けをすることで、予選の成績でグループ分けされた同じ水準の選手どうしで決勝戦を行います。予選で敗退するということはないのです。

ただ、予選でわざと手を抜いて下位グループに入り決勝で圧勝しようとする企みも無いわけではありません。それを防ぐために「マキシマムエフォート」というルールも採用されています。マキシマムエフォートとは「最大限の努力」を意味する言葉で、予選と決勝の成績に15%以上の差があると失格になるルールを指します。これによって予選から全力で競技にあたる風土を形成しています。勿論、失格になった選手にも表彰台でリボンが授与されます。

競技運営上の問題もゼロではない

スポーツの楽しみに重きを置くスペシャルオリンピックスですが、さすがに大会で好き勝手していい訳ではありません。大会に参加して競技を戦うために求められるものもあります。

それは例えば、スタート前に身体を静止するとか親元を離れコーチと選手村で泊まるなどです。しかし、知的障害者が対象である以上それらが大きな課題となっている選手も皆無ではありません。選手によっては親がコーチの資格を取って選手村までついていくケースもありますが、根本的な解決にはならないでしょう。また、資金の都合上一人のコーチが複数の選手を担当するのが常態化しています。

知的障害者の全てがスポーツの道に進むべきという考え方は横暴ですが、少なくともスポーツの道を志す知的障害者にとって不可能でない目標としてスペシャルオリンピックスが存在し続けられたらと願ってやみません。

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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