発達障害とは?②~ADHD 基礎ワードと実例

発達障害

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◀過去の記事:発達障害とは?①~知ってるようで知らない発達障害の基本

前回の記事では発達障害の定義・よくある誤解についてご紹介しました。今回と次回を含む2つのコラムでは、主にADHD(注意欠陥多動性障害)について取り上げたいと思います。インターネットや医療用パンフレットなどでは、主な特性が「不注意・多動性・衝動性」の3つで紹介されている障害ですが、実際にそうした傾向がどういう形で現れるのか、どのように発達障害とかかわっているのかについて、少ないですが具体例も挙げながらお伝えしたいと思います。

ADHDの「特性」とは?① ~不注意・多動性・衝動性~ 

記事の内容に入る前に、概要や見出しの中で何度か使ってきた「特性」という言葉について少し説明させていただきたいと思います。

「特性」とはなんでしょうか?

辞書によると「あるものに特別に備わっている性質」とあります。より分かりやすく言うと、「周りにはなくて、特定の人・ものだけが持っている性質」のことです。この言葉は発達障害の支援の場ではよく使われる言葉で、少し意味を広げて、「発達障害者の行動や認知(物事のとらえ方)の特徴」のことを指します。そんな風に聞くと、敢えて穿った見方をする、とか、悪く考える、という風に想像してしまいがちで(実際わたしはこの言葉を説明するときにとても苦労しました)、あるいは言い方によっては言い訳のようにも聞こえてしまうのですが、実際の障害を持っている私達と支援してくれている方達や理解を示してくれている周囲の人の間では、もう少し違った意味で使われます。

ADHDの場合、特性の具体的な例をいくつか紹介してみると、こんな感じです。

  • ①先のこと・経験したことのないことを想像するのが苦手
  • ②周囲の音や匂いに対して、感覚が過剰に敏感になる(感覚過敏)や、逆に刺激や感覚に対して非常に鈍感(感覚鈍麻)
  • ③集中力が高く、ひとつの物事に過剰に没頭してしまう(過集中)
  • ④頭の中が常に(本人の意思と関係なく)過剰に活動していてあれこれ思いつく(脳の過活動)
  • ⑤小さい失敗・物忘れが多い
  • ⑥思いついたままにすぐに言動にうつしてしまい、周囲の状況とそぐわない行動をとってしまう

いかがでしょうか。これだけだとピンとこないかも知れません。当事者としての経験も交えつつ、もう少し詳しくご説明したいと思います。

例えば1つめの「想像が苦手」などは、「人の顔色や空気が読めない、新しいことをすぐに覚えられない」などの状況で現れます。

2つめの「感覚過敏」「感覚鈍麻」は視覚・嗅覚・聴覚・味覚などの感覚を、脳が刺激として受け取る時に不具合が出ます。刺激を痛みとして感じる人もいます。太陽光や、パソコンの画面の光が眩しすぎるように感じてしまったり(視覚過敏)、普通の人には気にならないような音を、耐えがたい騒音に感じてしまう・普通の人には聞こえない高さ・大きさの音が聞こえる(聴覚過敏)、ささいな匂いでも耐えられない・吐き気や頭痛を引き起こしてしまう・味の濃いものが苦手(嗅覚・味覚過敏)、ちょっとした接触も苦手で、
他人に触れられることに不快を感じる・セーターなど特定の衣服の素材などが耐えられないほど刺激に不快を感じる(触覚過敏)などです。

逆に感覚鈍麻の場合、自分の痛みや疲れに対して、感覚が鈍くなってしまうので、自分の身体の状態に気づけなくなります。感覚過敏より更に気づきにくく、本人も気が付かないうちにストレスが蓄積され、それが身体反応としてはっきり表れるころには自分一人で対処出来ないほどに問題が大きくなってしまっている、ということが起こりえます。感覚過敏と感覚鈍麻は表裏一体で、ある部分が過敏なのに別の部分は鈍感だったりするので、脳・神経系の機能不全が原因だと考えられています。(※感覚過敏・感覚鈍麻がある=発達障害というわけではありませんし、発達障害の人すべてに感覚過敏の症状が出るわけではありません。)これらも、周囲の人から理解されにくく、「感覚の問題だったら努力・我慢すればなんとかなる」と誤解されやすいです。

2つめと3つめは一見真逆のようですが、どちらも脳に原因があります。発達障害の人に多く見られる特性であり、ある時は「注意散漫で落ち着かない人」ある時は「周りの状況を一切考えない身勝手な人」ととられてしまうこともあります。そうなってしまう理由は人によってさまざまですが、理由の一つとして「多動性」が考えられます。子どもの発達障害の大きな特徴として「多動」つまりじっとしていられず動き回ってしまう、ということはよく知られていますが、成人してから発覚する発達障害の場合、その特性は行動そのものよりも頭の中で一層顕著に現れます。それが、「脳の多動・過活動」です。身体反応として動き回る、ということはそれほど目立たなくても、頭の中がずっと考え事をしている状態で常に忙しく動き回っている、という状態が続き、考えるのをやめよう、と思っても考えてしまう、考え事にブレーキがかけられなくなってしまいます。次から次へといろんな考えやアイディア、場合によっては心配事や不安が浮かび、自分の考えに自分が翻弄されてしまう、という経験が私もあります。

発達障害の難しいところは、それが「意識的でない」ということです。目の前のものごとに没頭して周りが見えなくなってしまう、あるいは意識が散漫になり視界に入るものがいちいち気になってしまうという状態のどちらも、本人が意識してコントロールするということが難しいので、例えばタイマーや視界を遮る仕切り、耳栓(イヤホンなどで代用する人も)、メモ(頭の中の情報を書き出して整理する)などを使って、外からのアプローチが必要な場合もあります。

ADHDの「特性」とは?② ~特性とワーキングメモリ~ 

3つめの特性と大きく関係しているのが、「作業記憶(=ワーキングメモリ)」という概念です。

学生経験のある方なら、「長期記憶」と「短期記憶」という言葉をお聞きになったことがあるかも知れません。作業記憶は「短期記憶」と意味合いは近いですが、より能動的な側面を強調する言い方です。「一時的に(短時間)情報を脳内に『保持しつつ』、それを『操作・処理』する」能力のことを指し、情報の保持そのものよりそれを操作出来るかに重きを置いています。例えば目の前のモニターに数字が次々に表示されるとして、それを暗記する、というのが短期記憶、覚えるだけではなく、その数字を足して答えを出す、というのが作業記憶の能力です。

この作業記憶をつかさどる脳の部位はADHDの責任領域の1つと言われています。それで、ADHDの人はこの作業記憶の容量が人より小さいです。少し想像してみてください。もともとたくさんの情報を保持出来ないのに、更に脳が過活動になって次々と新しい情報を量産してしまう、ということが起きるとどうなるでしょうか。もともと小さいコップに大量の水を一気に注ぐようなもので、次から次へと溢れてしまう、つまり「脳から情報がどんどん失われる」ことになるのです。

その結果として、4つめの「小さい失敗・物忘れが多い」という特性が現れます。また、とにかく頭の中のものを何とか整理しなければ、と焦るあまり現れるのが5つめの「思いついたままにすぐに言動にうつしてしまう」、衝動性です。たくさんの思いつきに頭がいっぱいになって混乱の最中にいるわけですが、場合によっては本人もそのことに気が付かないまま行動するので、他人から見ればその行動は理解しがたく映ります。それは平たく言って「空気が読めていない」「自分勝手」ととれる言動であり、ひとつめの特性も手伝って、集団において肩身の狭い思いをする、あるいは、そのつもりがないのに失礼なことをしてしまいなんとなく居心地が悪くなる、ということが起こりえます。

こうした問題は、誰にでも多少は経験があることかも知れません。発達障害の場合、こうした問題が時々ではなく「しょっちゅう」起きることと、そのことが「生活に支障をきたしている」ということが、見分けるポイントの1つになることがあります。また、最初に述べた通り、小中学校時代の通知表や、学校の先生、親に聞き取りを行って、そうした傾向が「子どもの頃からずっとあった」、つまり生まれながらのものであるということも、診断が下りる際に重要なポイントになります。

ここで取り上げられたのはほんの一例です。それでも、一見無関係なように見える行動が、実は相互に影響しあう脳の働きや特性によって引き起こされている、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。他にも、人によって現れる問題は様々です。部屋が片付けられない、時間が守れない、あるいはその行動を誤解されてしまったり、改善しようとしてもその成果が目に見えて現れず否定的なことを言われ、二次障害としてうつ症状や睡眠障害などを発症する人もいます。

いかがだったでしょうか。ひとくちにADHDといってもその特性の現れ方はひとりひとりの経験や環境によって変わるので、すべてをご紹介できたわけではありません。それでも、自分が上にあげたような問題に悩んでいたり、自分と近しい相手が困っていたりするときに、自分や本人を責めるのではなく別の角度からその問題にアプローチするお役に立てば幸いです。次の記事では、それぞれの特性への対処について触れてみたいと思います。

▶次の記事:発達障害とは?③~ADHDの対処 「誰にでもある」「知らないとわからない」

参考文献

【NHKハートネット 「大人の発達障害ってなんだろう?」】
https://www.nhk.or.jp/heart-net/

【子ども情報ステーション 「感覚過敏[かびん]と鈍麻[どんま]─発達障害にともないやすい感覚の特性」】
https://kidsinfost.net/

【児童・生徒のワーキングメモリと学習支援 「ワーキングメモリとは」】
https://home.hiroshima-u.ac.jp/hama8/index.html

【障害者ドットコム過去コラム 「ADHDとは?~それ、単なる性格ではないかもしれません!」】
https://shohgaisha.com/

きらきら星

きらきら星

成人後、睡眠障害・自律神経失調症で病院に通院中発達障害の診断を受ける。現在就労移行支援所に通所し障害特性と対処を学んでいる。
目に見えて成果の残るものが好きなので、最近は編み物に挑戦中。読書も好きで、今は「吾輩は猫である」を読み返しているが、猫より犬派。

注意欠陥多動性障害(ADHD) 発達障害

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