ASD改善と称して行われていた衝撃の行為4選
発達障害平時に知識と冷静さがあれば嘘と分かるような偽の治療法も、パニックに陥っていると正常な判断が出来ず乗ってしまいかねません。近頃の新型コロナ問題で何度も繰り返され、これからも起こりうる光景と言えます。
自分の子どもが幼いうちにASD(自閉スペクトラム)と診断されると、ほとんどの親はパニックに陥ります。そうした親の悩みや判断力に付け込み、「ASDが治る」と称して高額の偽医療・代替医療・無関係な医療を受けさせようとする動きは昔からありました。
ASDの改善を謳って行われた無関係な医療や危険行動について解説したいと思います。どれもASDには関係がなく、間違った使い方で命を脅かす大変な代物です。
高気圧酸素療法
主に人ひとり入る程度のカプセル式治療装置(チャンバー)を使い、大気圧より高い気圧環境を作って酸素を多く吸入させる治療法です。高い気圧の中では酸素の吸引量が通常の10~20倍になり、これによって低酸素状態の改善や有毒ガスの洗い出しを行います。1日につき1回の治療を長いスパンで何度か継続する療法です。
本来の適応疾患は、減圧症・一酸化炭素中毒・ガス壊疽(えそ)・脳梗塞・重度の凍傷などで、重篤な症状との関わりが多いです。他にも腸閉塞・網膜動脈閉塞症・突発性難聴が適応疾患として挙げられています。
これがASD改善目的で使われていた時期があります。しかし、2015年12月にXiong Tらが実施した調査によって「改善は認められない」「エビデンスの質は低い」と判断されました。気圧の変動は飛行機と一緒で耳の気圧外傷も誘発するため、耳抜きが上手くできないと鼓膜が破れる危険性があります。
なぜASD改善に使われ出したのかというと、脳への血流を改善すればASDも改善されると信じられた時期があったためです。血流を改善する大掛かりな治療法として、脳梗塞や網膜動脈閉塞症といった血管由来の疾患に使われる高気圧酸素療法が目を付けられたのでしょう。
キレーション療法
キレート剤という手段で合成アミノ酸を血中へ送り込み、血中の有害な金属を除去させる治療法です。キレート剤の摂取方法は点滴・座薬・カプセル剤・スプレーなど様々です。最初は鉛中毒の治療目的で開発されていたのですが、動脈硬化の治療にも応用されていきました。
動脈硬化の治療で使われるキレート剤は強力で、90分かけて少しずつ点滴する方法が確立されるまでは腎不全や不整脈に陥る医療事故さえ起きていたほどです。(動脈硬化への治療効果がない代わりに10分程度の点滴で終わる弱いキレート剤もあります。)
こちらも2014年11月にJames Sらが実施した調査で「エビデンスの質は低い」と判定されました。しかもキレーション療法で想定されるリスクは低カルシウム血症や腎不全など重く、死亡例さえあります。
ASD改善に使われ出した理由は、重金属とASDの関係が一時期殊更に騒がれていたことに由来します。ASDをもたらす重金属を取り除いてしまおうという発想でキレーション療法が注目されたのでしょう。
漂白剤浣腸
ここからは何らかの治療法ですらない、単なる危険行為です。(本来の目的以外で医療を受けるのも十分危険なのですが。)
漂白剤浣腸で使われる漂白剤は、「ミラクル・ミネラル・ソリューション(MMS)」と呼ばれる自称健康食品にクエン酸を混ぜることで出来る二酸化塩素です。二酸化塩素は本来、プールや水道水の殺菌で使う工業用の漂白剤ですが、その殺菌力を体内で発揮してもらおうという目論見なのでしょう。
浣腸ほど大袈裟でなくともMMSをレモンジュース(クエン酸)と同時に経口摂取する方法もありますが、危険行為であることには変わりません。腸が使い物にならなくなり、最悪の場合死に至ります。(ニンニクを過剰摂取すると腸内の善玉菌が死滅し便移植を受けることになるのですが、それ以上ということでしょうか。)
アメリカ食品医薬品局(FDA)は10年前から再三にわたりMMSの危険性を警告していますが、インフルエンサーによる宣伝が頻繁に行われており、実行する人が後を絶ちません。
反ワクチン
反ワクチンとはそもそも医療行為の否定であり、ASDがどうという域を逸脱した危険行為です。
ワクチンの保存料に使われる有機水銀化合物が悪者扱いされたせいで、ASD児の親からワクチンが忌避されたことがあります。特に憎まれたのが、麻疹・おたふく風邪・風疹を対象としたMMRワクチン(日本では未承認)で、先の有機水銀化合物が使われていないにもかかわらず濡れ衣を着せられました。
この運動の旗振り役となった心理学者のバーナード・リムランド氏はアメリカ自閉症協会の創始者で、かつて冷蔵庫マザー理論を打ち倒したASD界のヒーローとも呼べる人間でした。晩年はASDの原因を追い求めるあまりにワクチンを殊更敵視するようになったわけですが、なまじ功績や権威の並々ならぬ大御所であったために多くの人が追従してしまったのです。
晩年のリムランド氏の逸話です。1998年、MMRワクチンとASDの関連性をこじつけた論文がイギリスの医師より出され、リムランド氏はこれを支持しました。この後イギリスではワクチンの接種率が低下し、論文を出した医師は不正確なこじつけを広めた責任で免許剥奪となったのです。
自閉症スペクトラム障害(ASD)