佐賀市長と神埼市長が炎上~また発達障害の生産性

発達障害
Photo by Beth Macdonald on Unsplash

1月26日、佐賀市長と佐賀県内20市町長による意見交換会が行われ、その中での発言が発達障害者への侮辱だとして炎上しました。「発達障害の診断と経費」という話題になったときの発言が問題視されたようです。

「幼少期で正確に診断しているから増えているに過ぎない。診断数の増加が悪いという前提はやめるべきだ」と村上大祐市長(嬉野市)に注意されるほどだったようですが、いかような発言だったのでしょう。

だって定型のほうがいいじゃん

発端は発達障害(グレーゾーン含む)の診断を受けた小学生がこの10年で3.12%から11.41%に増加したという話題でした。これを受けた秀島敏行市長(佐賀市)は療育事業への取り組みをアピールしたうえで「少子高齢化なのに高齢者を支える側へ回れない子どもが増えている実態をどうするか心配」と述べ、支援に関わる財源の不足を懸念し発達障害の原因究明を求めました。

畳みかけるように松本茂幸市長(神埼市)が「これが正しい見解とは言えないが、原因が究明され解決の糸口が見つかれば、定型発達として一生幸せに暮らせるのではないか」「後天的な原因で発達障害を招いているならば、それを防ぐのが大人の責任だろう」と述べます。これを受け冒頭の通りに村上市長が反論しました。発達障害に対する認識の差が浮き彫りになったといえるでしょう。

これらのやり取りが炎上沙汰になり、発言を問題視された両名は幾つかのマスコミから取材を受けました。取材拒否は無かったものの、発言の撤回はありませんでした。

秀島市長の回答
「発達障害者は就労と対人関係が難しくなると言いたかったのであって、差別や蔑視の意図はない」(西日本新聞)
「発達障害の数からみて支える世代が貧弱になる懸念があった。社会構造の話だ」(佐賀新聞)
「子どもとは育てられ、大きくなったら先輩たちを支えるというのが社会の構造である」(東京新聞)

松本市長の回答
「(当日紹介していた元産婦人科開業医の講演資料について)経費の参考にするため資料を出した。これを自治体として強引に進めるわけではない」(西日本新聞)
「発達障害が一生不幸と言っている訳ではないが、誤解を与えたのならばお詫びする」(佐賀新聞)

両市長への反応
「子どもは高齢者を支えるためだけの存在ではない。財政が厳しいのなら市の支援は受けない方がいいのか」
「幼少期に気付いて療育すれば納税者になれる。予防ではなく子育て支援を仕事の軸とすべき」
「このご時世で発達障害は幸せになれないという認識なら残念だ」

他人を生産性でしか考えない人

またぞろ「生産性」などと視野の狭い基準を持ち出す人が現れました。働いて結婚して子を産み家庭を設けるのが「生産性のある人間」「健全な人間」「普通の人間」で、それが期待できないようなら「生産性のないお荷物」「生きる価値がない」という価値観です。

秀島市長の意見をまとめると、「発達障害は就職できないし税金も払えない。少子高齢化だというのに高齢者を支えるべき生産人口に発達障害が多くなると、財源は不足するだろう」となります。「生産人口が様々な形で高齢者を支えていく」という固定観念にも批判が集まっています。松本市長は浅学なだけでしょう。

「生産性」については、「こんな夜更けにバナナかよ」の著者で知られる渡辺一史さんがかつて一家言(いっかげん)を述べたことがあります。「『障害者に生きる価値があるのか』と問う人に対して、『あなたこそ生きる価値があるのか』と逆に聞きたい。自分は健康・働いてる・税金納めてるなどと言うかもしれないが、それが他人を納得させられる『価値』なのか。そもそも自分の生きる価値など気にせず生活するのが大半なのに、障害者にだけ『生きる価値』を殊更問われるのは何故なのかも聞いてみたい」

炎上した市長が70代と高齢なのもあって、「厚かましい老害。お前たちが退け」という意見もありました。しかし政治家生命の続く限りは偏見を改め知識をつけ反省する余地を残すべきだと思います。高齢だから市長職に向かないと断ずるのもまた「生産性」を重んじた思考です。

渡辺さんは植松聖や同調する人々の考えについてこうも言いました。「上から目線で全否定するのではなく、その考え方の是非を自身に照らしながら吟味する必要がある」

発達障害への差別は礼賛される

一連の炎上については、「炎上する程の話ではない」「差別など大袈裟だ」「市長は問題提起をしただけ」と擁護する声もありました。そして、擁護と同時に「発達障害が役に立たないのは事実」「正論は耳に痛いからな」と差別の再生産が行われます。

昨年11月に「ハッタツ男は出禁!」と言い出して炎上した人生無理バーと似たことになっています。あちらも「出禁は間違ってない!」「主催者も発達障害者に苦しめられていた!」「イベント運営において発達障害を弾くのは合理的!」と擁護されていました。

余程苦い思いをさせられたのか、単に話が通じなくて気持ち悪いと思っているのか、理由は様々ですが発達障害者へのヘイトスピーチは一定の市民権を得て礼賛(らいさん)されやすい傾向にあります。人生無理バーにしろ市長らにしろ「言いづらいことをよく言ってくれた!」と褒め称える者は一定数存在します。露悪趣味または本音主義とでも言いましょうか。

まず就労の改善を

市長の発言について識者は「(発達障害者の)就労が難しい現状を改善しなければ、秀島市長の言ったことは現実になる」「行政に求められるのは、社会環境を発達障害に合わせていく(社会モデルに即した)配慮だ」としています。要するに、文句垂れる暇があったら就労環境を改善しろという話です。

秀島市長の心配事は専ら納税人口の問題なので、「障害者を納税者(タックスペイヤー)に」していけば解決します。障害者の就労環境を改善することはその第一歩となります。もちろん就職だけでなく、定着や昇給も必要となるでしょう。本人の力だけでは限界がありますので、社会モデルに即した支援や配慮が必要となります。「生産性がない」と叩く前に行政としてやるべきことは沢山あるのではないでしょうか。

最後に、11年前の「NEW MEDIA」にて掲載された有難い対談を取り上げます。障害者の就労支援に携わる竹中ナミさんと、当時の総務大臣である原口一博さんの対談です。そこから幾つか重要な発言を抜き出してみましょう。

原口さん「いま批准に向けて取り組んでいる障害者権利条約には『合理的配慮』という概念があります。『合理的配慮をすれば社会的なバリアは無くなるのに、敢えてそれをしない』ことも(消極的な)差別という考え方です」

竹中さん「チャレンジドに対して『学ばせてやる』『働かせてやる』と上から目線で、『君も国を支える一人だ』などとは言わない訳です。そういう『特殊な人』に追いやるのは卒業しないといけません」

参考サイト

発達障害巡る発言、物議醸す|佐賀新聞ニュース
https://www.saga-s.co.jp

生産性のない人間は生きる価値がないのか?「こんな夜更けにバナナかよ」著者・渡辺一史が問う
https://www.nippon-foundation.or.jp

原口一博・竹中ナミの対談|NEW MEDIA 2010年2月号(PDFファイル)
https://www.soumu.go.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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