発達障害とPTSDについて〜忘れたくても忘れることができない

発達障害 パニック障害・不安障害

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近年、メディアで広く報じられるようになったものに「発達障害」と「PTSD」があります。しかしPTSDに対する専門的な治療を適切に行える医療機関や支援者は、いまだ不足しています。特に発達障害のある子どものPTSDについては、研究と理解は未だ途上にあります。発達障害の二次障害の一つとして、PTSDの発症も少なくありません。発達障害がPTSDになりやすい理由等について、私自身を含む当事者の話と一緒に紹介します。

発達障害はPTSDになりやすい?

PTSD(心的外傷後ストレス障害)とは、虐待や交通事故、犯罪被害、災害など心に深刻なダメージを負う出来事(トラウマ体験)に遭遇し、一定期間を過ぎた「後に」症状が現れます。代表的な症状には「侵襲的体験(フラッシュバック)」、「回避(トラウマ体験を想起させる状況を避ける)」、「過覚醒(興奮、不眠等)」があります。更に、子どもの場合は「トラウマ体験を再現するような遊び」を見せる、怒りっぽさやかんしゃくを見せる、身体的不調が出るなどの、大人とは異なる様子を見せます。また年齢が上がった時に、幼かった当時の体験の意味(苦しみ、恐ろしさ等)を理解できた瞬間に、時間差でPTSDの症状が出ることもあります。さらに近年は、虐待を受け続けた子どもや長期の強いストレスにさらされた人に生じる、「複雑型PTSD」にも注目が集まっています。同じような出来事に遭遇し、PTSDを発症しても、大人と子どもでは様子が異なります。では、発達障害のある人・子どもがPTSDを発症しやすい理由、とその様子はどう違ってくるのでしょうか。

①嫌な記憶を忘れることが難しい
発達障害の人・子どもは、特性そのものと周囲の対応によって、コミュニケーションの困難や心身の不調、家庭・学校・職場でのトラブルや不適応などの「生きづらさ」を抱えやすいです。その内、いじめや叱責、暴力、虐待、精神疾患の発症等の「二次障害」を持つことが多いです。そのため、発達障害者は嫌な体験と記憶を多く持つことになります。さらに、記憶力に優れた自閉スペクトラム症等の発達障害の場合、「忘れることが難しい」です。私の場合、今はその時の苦しかった感情と切り離して思い出せるまでに回復はしています。しかし、いじめや不登校になった直後は、当然、海外に行ってからも毎週のように悪夢を見ました。今はほとんど悪夢を見ることはなくなりました。それでもごく稀に「同級生や周りが私を罵る、仲間外れにする、責め立てているような悪夢」を見ることがあり、目が覚めてからしばらくは「自分はここにいてはいけない」、という不合理な恐怖と悲しみにとらわれます。今は当時ほど辛い感情を伴うことはありません。ですが、いじめを含む当時の辛かった体験の光景やセリフ、相手の表情と声、そして当時の私が何を思っていたのかまで細部を思い出し、こうして文章にすることができます。それは、私がつらい出来事を「忘れることが難しく」、「忘れる、忘れたい」という発想すらないからだと思います。

自閉スペクトラム症が重いほど、中には一度聞いただけでピアノの曲に換えて演奏できる、カメラで撮影したように細部まで覚える写真記憶など、優れた記憶力を発揮する人がいます。しかしそれは、優れた才能に繋がる一方で、嫌な出来事を忘れることができない、という諸刃の剣にもなります。しかも、記憶に残る光景は映像のように残りやすいため、何度思い出してもその時と同じ大きさの精神的苦痛を感じる人が多いです。発達障害のある支援者として活躍している笹森理絵さんの息子さんにも、発達障害があります。笹森さんの息子さんの一人が、学校の修学旅行先で同級生によって布団の中に閉じ込められ、その上から、からかいや暴力を浴びせられた出来事が著書で記されています。その後、息子さんは学校を休まなければならず、PTSDの症状が現れました。布団をかぶせられた息苦しさや、体に襲いかかった蹴りや殴りの痛み、からかいの大声などが、その後も鮮明に思い出して苦しみます。PTSDのフラッシュバックは、まるでタイムスリップしたかのごとく、その時の辛い体験を「突然」、しかも「鮮明に」思い出す症状です。記憶の優れた発達障害の方ほど、その症状はかなり強く出るため、非常に辛いです。

トラウマ治療の一つに、「暴露療法(トラウマ体験に関する弱い刺激から強い刺激へ段々慣らしていくことで、心身の苦痛を和らげていく)」があります。しかし発達障害の場合、トラウマに関連する刺激に「慣れる」ことができない、もしくは長い時間をかける必要がある場合、暴露療法の効果が望めるか、という問題があがります。

日常的な出来事もトラウマになりうる

②否定的な経験に遭遇しやすい
前述でふれた、周囲からの叱責やいじめ、変化への過敏さ等によって、発達障害の人・子どもは、心身共に日常的なストレスにさらされやすいです。さらに、発達障害児・者は周囲の悪意や犯罪などのターゲットにされやすい、と思います。幼少期から中学校時代の私は、相手の悪意にまったく気付けない所がありました。そのため、たちの悪い同級生や知り合いによくターゲットにされました(幸い、犯罪などの深刻な被害には遭いませんでしたが)。
私は自閉スペクトラム症ですが、幼少期の頃、周囲の言葉が頭に入ってこないことや、悪気なく正直な気持ちを話したことで、周囲からの反発を買っていました。さらに当時の私は、相手の言うことを何でも信じ、人を疑うことを知らない子でした(何かおかしい、と違和感を持てたとしても、そこから逃げる・断る・助けを求める、といった行動に結びつかない)。そして、相手に「お前が悪い」、と言われた時もその通りだ、と信じました。何かトラブルがある時は全て自分に原因がある、と思い込むクセもついてしまったのです。それは周囲が私を傷つけるための悪意から言っていることをようやく理解できたのは、中学校三年生に入ってからです。それ以降も、私だけが悪いのではない、と頭で分かっていても「自分が何かいけないことをしたのでは」、とおびえるクセが20歳を過ぎても中々抜けませんでした。

他の方の体験談では、「ここにこの時間で待てば、好きなアイドルが来てくれるよ」、という嘘を信じ、時間を過ぎても待ち続けた発達障害児がいます。また、発達障害の女性がデートしている時、相手の「中で一緒に話すだけだから」という言葉を信じ、ついていった結果被害にあった話もあります。自閉スペクトラム症(相手が自分をだまそうとしていることに気付きにくい、コミュニケーションが苦手)とADHD(宿題などの忘れ物が多い、ルールや順番を忘れる、授業中も動き回る)、学習障害(読み書きや計算などに難しさを持つ)等の特性に対し、周囲からの叱責やからかいを常に受け続けます。否定的な体験の積み重ねによって、発達障害の人・子どもは、安心を脅かされ、自己肯定感の低下や対人恐怖・人間不信などに陥ります。

また、発達障害のある方に限りませんが、PTSDを発症する引き金となる体験は、災害・犯罪・事故などの「悲惨なものに限りません」。とある小学生は、学校でいきなり同級生にグーパンチで殴られたことをきっかけに、PTSDの症状が出て不登校になりました。その子は発達障害ではありませんが、同級生からのからかいや、ちょっとした悪ふざけで出たパンチ等、日常生活で起こり得る出来事に強い反応を示しました。他には、授業で同級生に笑われた時や、がんの診断と余命宣告を受けた時、大切な人との死別・離別を経験した時等、によってPTSDを発症した方もいます。

③現実と空想の区別がつきにくい
自分が直接体験していなくても、悲惨な体験を「見る」こともPTSDの症状が出る人もいます。テレビで被災地の状況を見た子どもや、雑誌や映画の衝撃的なシーンに不調を出す発達障害児などもいます。また発達障害には、空想を好む、空想と現実の違いを理解がゆっくりな子どももいます。昔からマンガとアニメ好きな私は、まるで現実で体験しているかのごとくその世界に入れ込むところがあります。後々の悪いシーンや好きなキャラの死に深いショックや悲しみを受けます。不安障害に悩まされていた当時は、強い悲しみと抑うつ、食欲低下などの症状が一週間続いたことがありました。

発達障害のPTSDにどう対応するか

PTSDへの効果が認められている代表的な治療には、薬物療法・TF-CBT(トラウマフォーカスト認知行動療法)・PE(長時間曝露療法)・EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)等があります。しかし、日本におけるPTSD(特に子ども)そのものの治療体制と研究は、いまだ進んでいるとは言い切れません。PTSDを抱える発達障害児・者に対し、従来の治療による改善効果はどのていど望まれるのかについても、研究途上にあるようです。PTSDの症状の一部が出ても、診断基準を完全に満たさない人もいます。日本では、認知行動療法というエビデンス(根拠)に基づく治療を行った場合に限り、PTSDへの治療を診療報酬(保険)に適用することができます。PTSDを含む二次障害に苦しむ発達障害児・者への効果的や薬物療法や注意点等の詳細は、また下記の参考資料等を見ていただけたら幸いです。この場に限っては、PTSDへの代表的な治療の明記や、私を含む当事者の声をあげることしかできないことをお詫び申し上げますが、少しでも参考になれば幸いです。

過去のトラウマや嫌な記憶にとらわれていた私を安心させてくれたものがあります。外出中に楽しい時間を過ごしていた時も、不安発作や抑うつに襲われたことがありました。しかし当時の私は、「せっかく楽しい時間を過ごしているのに、苦しいなんて言えない。変な風に思われたくない」、という気遣いや恥ずかしさから、苦しくも無理して笑って過ごしていました。今思えば、苦しいことをもう少し出してもよかったのかもしれません。ですが、私は自閉スペクトラム症の特性もあってか、自分の苦しさを表情や話し方で表現することが難しかったです。その内、隠しきれないほど苦しくなり、涙や発作が止まらなかった時、母は「ただ傍にいてくれました」。苦しむ本人、とそれを見てうろたえてしまう周囲も、互いに不安になると思います。ですが、その時は相手が何故苦しんでいるのか、無理に訊き出すのではなく、ただ落ち着くまで傍にいてくれると安心できます。そして、「話したい時、いつでも聞くよ」、と涙を受け止めてくれる姿勢を見せてもらえると、こちらも安心できました。

私も具体的なことまではさすがに言いづらかったですが、とにかく「怖いことが頭に浮かんでしまう」、「いつもはこうならないのに、今はとても怖くて苦しい、自分がどうなってしまうのか分からない」、と苦しさを言葉にすると気が楽でした。トラウマ体験の詳細までは言う必要はなく、ただ苦しいという私を黙って抱きしめてくれたことが一番うれしかったです。そして、ようやくトラウマとなっている体験や見た光景、理由を話した時も、静かに耳を傾けてくれたことも安心できました。そんなことで悲しくなるのはおかしいね、というのではなく、「怖かったんだね、辛かったんだね」と受け止めてもらえることが大切です。たとえ理解はされなくても、ただ「あなたにとってとても大切なことだったのね」、と否定しないでいてくれたことも、十分救いとなりました。私は自閉スペクトラム症のグレーゾーンであるため、重い発達障害と人と比べると、PTSDほどの深刻な症状は出なかったと思います(不安障害にはなりましたが)。今思い出しても、不安障害やトラウマとなった記憶やイメージにとらわれていた頃は、本当に恐怖と悲しみと苦しみの渦でした。ですが、私自身の忍耐や母等による周囲の支えを経て、私は苦しみを乗り越え、そこから生還できました。今は不安障害の治療薬を飲まなくてすむ生活を送れるまでに回復し、自分が精神的に追い込まれる状況のパターンやサイクルも自分で把握できるようになりました。

発達障害に限りませんが、子ども等を様々な犯罪被害や事故など、トラウマに繋がるものからいかに守るのか、もしも被害に遭ってしまった場合何ができるのかについて、考えていくのは今後の課題になるのではないか、と思います。

まとめ

・発達障害児・者は、二次障害の一つであるPTSD(心的外傷後ストレス障害)のリスクが高くなります。
・背景としては、発達障害に多い「記憶力の良さ」や「空想にいれこむ、空想と現実の区別がつかない所がある」、「攻撃のターゲットにされやすい」、「挫折や失敗体験を積み重ねやすい」、等の特徴が考えられます。
・従来のPTSDの治療が、発達障害児・者にもどれほどの効果を期待できるのか、今後の支援と研究において考えるべきだと思います。
・トラウマで苦しむ発達障害児・者は、自分の苦しみを上手く表現できずに、苦しんでいます。周囲はただ「傍にいて」、「抱きしめて」、「大丈夫だ」、と安心できる関わりをしてあげてください。その人・子の苦しみを理解はできなくても、それだけで本人はきっと救われます。
あの頃は本当に苦しかったですし、きっと他の人にも体験しなくてすむにこしたことはない、と言うと思います。考え方や感じ方は人にもよると思いますが、今だから前向きに考えられることがあります。

それは、世間知らずな子どもだった私が、「世界や人が優しくて美しいばかりではない」、と理解できたことです。

ここだけ聞くと、ネガティブに捉えられるのかもしれませんが、それだけを意味しているのではありません。私自身が感じるのは、

「世界と人は苦しみや悲しみに溢れている」、けれど「そんな世や人だからこそ、自分に優しくしてくれた存在、自分が大切にしたいと思える存在に出会えたことは、何にもかえがたい幸福となる」、です。

あの頃の苦しみがあったからこそ、今は穏やかな気持ちで過ごせること、普通にお出かけができること、ご飯を美味しいと感じること、眠れること、家族や友達がいること、そういったごく当たり前で小さなことが、「大きな幸せ」に感じることができます。

そして、自分のことや世界、他者のことが嫌いになるほど辛いことがあっても、「私が私であることに変わりないこと」、「変わらないでいてくれるもの」、そんな大切なものを見つけることができました。

最後は少々哲学になってしまいました。最後までご拝読ありがとうございます。

参考文献

・「認知療法・認知行動療法(1日につき)診療報酬」保険診療点数調べるならしろぽんねっと
http://shirobon.net

・杉山登志郎(2015)『発達障害の薬物療法 ASD・ADHD・複雑性PTSDへの少量処方』崎学術出版社

・笹森理絵(2013)『育つ力と育てる力 私と三人息子は発達障害です。何か?』廣済堂出版

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

発達障害 パニック障害・不安障害 自閉症スペクトラム障害(ASD) 注意欠陥多動性障害(ADHD) 学習障害(LD)

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