「不適性検査」が発達障害・精神障害を落とす?

発達障害
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企業の採用で時々使われる適性検査(SPIなど)ですが、流通して久しいためか「攻略法」が多く出回っているようです。そんな中、一部で脚光を浴びているのが「不適性検査」だそうです。

「不適性検査」は比較的新しい検査ツールで「攻略法」についても出回っておりません。その上、ものによってはSPIの半額で実施することができ「採用してもミスマッチを起こしそうな人」を明らかにする高いリスクヘッジ効果もあります。

カラクリも暴かれておらず値段も手ごろな検査ツールは主に中小企業から人気を得ており、わずか2年で12,000社以上の企業(社会福祉法人や官公庁も含む)に使われたツールさえ存在します。これほどの覇権ツールがリスク要因として想定しているのはどういった人材でしょうか。

「発達障害・精神障害・精神疾患をリスク要因と見做し、始めから排除にかかっている」とまで評されているようですが「不適性検査」とやらは本当に大丈夫なのでしょうか。

「心の健康診断」が3種類も

さて、2年で12,000社以上が使った「不適性検査(以下、検査S)」は4つの検査から成り立っており、使いたい企業が使いたい形(2つだけとか4つ全部とか)で実施できるようになっています。

検査内容は大きく分けて「能力検査」「資質検査」「精神分析」「定着検査」の4種類で、そのうち3種類が当人の内面(ストレス耐性など)を問うものとなっています。SPIにも4種類の検査がありますが、あちらは内面を問うものは1種類だけです。なお「精神分析」は心療内科などが行う正当なものではなく、製作会社も「これは発達障害を診断するものではない」と答えています。

実際に検査Sを受けた人によると「SPIに比べると質問内容が露骨」「虚偽回答に対して結構厳しい」「忘れた頃に似た質問が何度も出てくる」「能力検査についてはSPIに精通していればほぼ問題ない」といった体験談が出ています。要するに、露骨かつ厳格にストレス耐性や抑うつ傾向や注意力などをチェックしている訳です。

発達障害の診断でないのは製作会社が明言している通りなのですが「発達障害によくある事」や「ストレス耐性の弱さ」については露骨な質問で積極的に推理しようとしてきます。不適性検査が発達障害や精神疾患を落とすテストと言われるのは、この辺りが原因となりそうです。

実際に検査Sを受けた2人のレビュー

検査Sだけでも12,000社以上が使用したことから、実際に受けた人は何十万にも及ぶでしょう。一部は個人ブログなどで感想から質問内容まで赤裸々に綴っています。

過去に検査Sを受けたというAさんは、離職後にASDの診断を受けてからオープンで再就職活動をしていました。また、Aさんは前職で人事部門に勤めていた経験があり、検査Sの存在については知っていました。ただ「採用する側」として使ったことはなく、専ら「受ける側」として検査Sと接しています。

オープン就労であるにもかかわらず検査Sを受けたAさんは「印象としては心療内科で受けた質問紙、あるいはネットによくある発達障害チェックのような感じ」「他の性格診断と明らかに違うのは、内面のネガティブさに踏み込んだ質問が多い点」と述べています。Aさんは自分のASDを偽らず正直に答えましたが、これで不採用にはならず次の選考には進めたようです。

Aさんは検査Sを利用する心理について「単純にコストの低さが人気の秘訣ではないか」「中小企業にとっては(排除しようという悪意よりも)コスト上検査Sしか選択肢がないのが大きいのでは」と考察しています。最終的に使う企業の考え方次第ということで「検査Sを使うから発達障害を排除したがっているとは限らない」と穏便な感想で締めていました。

ただ検査Sがもたらす不快感についてもAさんは一定の理解を示しており、「発達障害を隠すクローズド就労にとっては非常に厳しい選考となるだろう」とも述べています。

一方、検査Sにおいて「資質検査」を受けたというBさんは「発達障害や精神疾患を排除する明確な目的がある」と断じています。印象に残った質問として「じんましん」「胃腸の調子」「破壊衝動」「独り言」を挙げており、その露骨さに驚いたそうです。

Bさんは検査Sを使った選考について然るべき場所へ問い合わせを行うほど憤慨しました。「押しに負けて導入した企業もあるだろうが、こんな検査を嬉々として使うのはブラック企業に違いない!」とまで言ってのけています。

ちなみに、製作会社は検査Sの営業を行っておらず、その分宣伝費用が抑えられて安価なコストを実現しているそうです。

「配慮が必要なら最初から入れない」の発想

不適性検査を用いる採用側の全てが「定型発達でストレス耐性もあって心身ともに健康な人だけ採用したい!」と考えている訳ではありません。純粋に悪気なく離職リスクを測りたかったという人も居れば、不適性検査を通じて逆に隠れた才能を見つけたという人もいます。

しかし不適性検査が数多の企業に大ウケしている以上、懸念される通り「発達障害・精神疾患落とし」として利用する企業も存在するでしょう。大っぴらに障害者を採用しない姿勢が取れなくなった昨今、明言せず確実に篩(ふる)い落としする手段として脚光を浴びるかもしれません。

矛盾するようですが「合理的配慮が当たり前に求められるなら、それが必要な人を最初から入れなければいい」という発想が既に存在します。「配慮が必要な人を採用しなければ、配慮にリソースを割かなくてよくなる」というある意味逆転の発想です。

「出来れば発達障害なんぞ雇いたくない」という要望は今も根強く残っており、それを叶える手段もまた巧妙化の一途をたどっています。不適性検査にしてもそうですし、表向きは障害者の雇用創出になっている「貸農園ビジネス」も本業をさせず雇用数だけ確保できるとして人気です。

使う側次第と言ってしまえばそれまでですが「差別と気付かれない程度に上手く排除するビジネス」が成熟していることには留意しておかねばなりません。「生産性」や「リスクヘッジ」への際限ない渇望が、こうしたビジネスへの需要となって「排除市場」を確立しているのです。

それでも最低賃金が出る分だけ貸農園は優しいほうです。不適性検査に至っては賃金を得るために労働するステージにすら立たせませんので。

「普通」とは高嶺の花である

そもそも「普通の人」の基準は年々厳しくなっており、コミュニケーションや忖度の能力にほんの僅かでも瑕疵(かし)があれば発達障害(少なくとも定型でないグレーゾーン)の診断を強く要請されるのが現状です。

「普通の人」の厳格な基準に満たなければ、たちまち「雇いたくないハイリスクな人」となります。そして社会からは「迷惑だから雇わない。でも福祉で食いつなぐのもムカつくから働け」と矛盾した実現不可能な要求を突き付けられます。

「高い人件費が無駄になるから、採用に失敗は許されない」という事情は理解できなくもないですが、だからといって要求が無限に通ると思えば大間違いです。「あれもこれも配慮しろ」が通らないのは募集側だけでなく採用側にも言えることです。

もはや「普通」とは高嶺の花ですが、それでも「普通」にこだわって法定雇用率のほうは大丈夫なのでしょうか。口だけ開けて待っていてもクローズドが入社するとは思えないのですが。

参考サイト

“不適性な人”を密かに排除する社会の到来 自由の名のもとに行われる「淘汰」(3ページ目)
https://president.jp

働け、ただしよそで|ちよさき|note
https://note.com

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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