書道家の武田双雲さん、ADHDや障害について、自身のエピソードを交え明るく語る

発達障害

先日、書道家の武田双雲さんへ取材を行いました。雑談も交えながら終始和やかな雰囲気でした。

達観したADHD観

──著名人がカミングアウトすることは少ないですが、双雲さんは早い段階からそうしていますね。
「隠すとか発表するとかではなく、『へえ!ADHDだったんだ!』と舞い上がってブログに書いたら、それがヤフーニュースになりました。カミングアウトするというつもりではなかったです」

ADHDである武田双雲さんは、非常にあっけらかんとしたADHD観を持っています。カミングアウトというのは言いづらいことを告白するという意味ですが、「言うか言うまいか」と悩んでいる時点でどこか否定的なニュアンスを感じてしまいます。

しかし武田双雲さんにはカミングアウトで迷うという発想すらありませんでした。己の美学を貫いて作品づくりを続けておられます。

害の字について

──「障害者」という単語を変えようという人もいますが、それについてどう思われますか。
「印象としては、『害』はカッコいいと思います。(作品で)書いたことはありませんが。例えば『害虫』と『益虫』って視点を変えれば害も益も入れ替わるんですよ。善悪と同様に。
無農薬農家の方とお話しした時、害虫であるジャンボタニシを放置していたら雑草を食べ始めたと聞きました。稲を食い荒らすどころか逆に強くしたことで益虫になったんですよ。そもそも『害』が悪いとは思わないんですけど」
──害を悪いと言うのも偏りですよね。
「本人が何とも思ってないのに、周りが騒ぎ過ぎている部分もあると思います。障害者を『可哀想~』っていうのは、個人の主観に過ぎません」
──当事者ではなく外野がうるさいわけですね。

──最近、害の字についてよく話題になりますね。
「『害』を嫌がる気持ちは分からないでもないですが、自分個人としては何とも思いません。(重要なのは)そこではない、変えたいなら丸ごと変えればいい。『癖強め』とか『凸凹強め』とか」
──名前を変えようという動きが厚生労働省で起こっているようですね。
「『凸凹』って響きが可愛いですよね。ただ、巨大な恐竜が滅びて小動物が進出したように、環境によって『凸凹』は変わります。少し前まで楽をしていた健常者が、今は苦しんでいる気がしています。『普通は嫌だ』『個性を持ちたい』『キラキラしたい』とか。凸凹激しいほうがキラキラも激しいですよね」

障害という文字については、熱く議論されることが度々あります。パニック障害も発達障害も私には昔から馴染みがあって、ひらがなに変えられたところで、何が変わるのか不思議でした。差別する人は差別するし、ひらがなだろうが漢字だろうが、理解がある人は配慮があります。生きづらさがある社会が障害だという意見もあります。変えるなら、「障害」→「障がい」ではなく、丸ごと変えるという双雲さんの発想はさすがで、大変共感しました。

「障害者とは何か、など考えても仕方がありません。ADHDの人なら、それで生活が不自由になっている方には、薬の処方により助けられることもあると思います」
──障害がどうこうよりも、苦しさやしんどさが有るか無いかですね。
「環境によりますね。自分を客観的に見て、自分自身の取扱説明書を他人に説明出来れば、『障害』が『個性』や『特性』に変わるのではないでしょうか」

メインの話題である「害の字」について持論が展開されました。本人が何を考えているかよりも、主観で騒ぎすぎている人は確かにいますね。

不安の対象は人それぞれ

「細胞の一つひとつにレセプター(受容体)があり、何を受け取り何を受け取らないか判断する高精度のセンサーになっています。その精度をどこに向けるか。電磁波が危ないと判断されれば電磁波へ敏感になりますし、他人の目が気になれば他人の目に敏感となります。全部へ敏感にはなれず、一部へ敏感になるよう出来ています。
ひとくちに感覚過敏と言っても何に敏感かは個人差があり、ひとくちに不安障害と言っても何に不安かは人それぞれです。中には『隕石が不安で仕方ない。他はどうでもいい。』という尖った人も居ました。元来、人には役割分担があって、隕石・津波・人間・事故、人それぞれ怖いものが違うからこそ皆でリスク回避が出来るようになっています」
──核兵器が怖い、という人もいるでしょうね。
「一時的ではなく長い不安なんでしょうね、不安障害というものは。自分の中でレッテル貼りをしているのかもしれません。かつて自分は飛行機恐怖症で、ずっと飛行機を怖がっていました」

昨年、一度目の緊急事態宣言が出ていた時に「ステイホームで外向的な人が不満を貯めている中で、内向的な人が元気になっている。こうした人格の多様性がヒトという種を存続させていたのではないか」と悟りを開く人が居ました。

「人間はバランスを崩せば脆く弱い生き物です。やはり自分の命を守るためには自分の幸せを守るのが一番なんですよ。合わない環境を避け、受け容れてくれる環境に入ることは、生存戦略です。合わない所で頑張る努力は必要ないと思います」
──そうですね。よく「楽な道と苦しい道があれば、苦しい道を行け」と言う人はいますが。
「何故わざわざ苦しい道を行かねばならないのか。自分ならどんどん逃げますね。逃げずにとどまった結果、周りの人に迷惑を掛けたら自分も苦しいですよ。『自分はこんなに頑張ってるのに』と逆ギレしたくなりますし、そもそも出来ないことは出来ないので、出来る人に任せて身を引いた方がお互いのためでもあると思います。
苦しむと見返りが欲しくなるじゃないですか。それに血流も悪くなり、免疫力が落ちて病気にもつながりかねないと思います」

Clubhouse(クラブハウス)が合う人

──Clubhouseを聞かせてもらっていますが、いつも穏やかで達観していますね。イラつくことはないのでしょうか。
「合わない環境に居ればイラつきますよ。イライラしないのは性格面ではなく、自分がイラつかない場所を選ぶライフスタイルの問題です」

──SNSには相性がありますが、武田さんはClubhouseとの相性がよさそうですね。
「パッと開いてワーッと喋って、けれど見られやすく編集も利かないので発言には気を付けています。その為に、気を整えてから入っていますね。自分の心を守る以上に整える習慣を身に着けることをお勧めします。それも何かあってからではなく、何かをする前に整える。凸凹が激しい人ほど、そうした準備は大事になってきますね」

──幸せになるために、ではなく、幸せになってからやる感じですか。
「その辺多くの人が逆なんです。偉くなれば幸せになれる、認められれば幸せになれると思い込み、その為に今を頑張りすぎてしまう。そこにゴールなどありません。未来の幸せの為に今を犠牲にするのではなく、今この一瞬一瞬の幸せの積み重ねが、この先の未来へと繋がっているのです。」

双雲流、新しい考え方

武田双雲さんは、ご両親にいつも褒められて育てられたそうです。すごく素敵だと思います。安心できる楽しい家庭環境はとても大事ですよね。武田双雲さんの著書「ポジティブの教科書」は30万部を超えるベストセラーですが、ネガティブな考えを否定して、「ダメだよ、ネガティブは!」と言うのは違うと仰っていました。それはもうどちらもネガティブ同士になってしまっていると。「おもしろ〜。そういう生き様もあるんだね〜」「何でもいいよ〜、何でも良か〜」とすべて面白がっている。「明るく、ネガティブもポジティブも入っちゃった。どっちでも良い」と話されていたのは斬新でした。今、まさにClubhouseを中心に双雲さん人気で、凄い勢いでファンが急増中です。「双雲さんに助けられました。癒されました」と仰る方々が続々と出てきています。

取材に行ったのに色々な質問をしていただき、逆にこちらが取材されている感じで面白がっていただいたのは、初めての経験でした。とてもリラックスして楽しくお話できたのは、さすがだなーと思いました。双雲さんには、子どものままの感性と悟りの境地が同居していて、不思議な感覚です。

書道や本や歌や、楽しく知識豊富なお話に、人生観が変わった方もたくさんおられるでしょうね。武田双雲さんのこれからのご活躍、ますます楽しみです。

障害者ドットコムニュース編集部

障害者ドットコムニュース編集部

「福祉をもっとわかりやすく!使いやすく!楽しく!」をモットーに、障害・病気をもつ方の仕事や暮らしに関する最新ニュースやコラムなどを発信していきます。
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注意欠陥多動性障害(ADHD)

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