自閉スペクトラム症(以下、ASD)と運動障害の関係性について解明されたこと
発達障害出典: Photo by Quino Al on Unsplash
子供のころ、スポーツ自体は嫌いではなくても、野球やサッカーなど道具を使ったスポーツになると、どうしても上手くできなくて敬遠していた人も少なからずいたのではないでしょうか?私自身もその一人です。
自分自身の体験談から
私は子供のころから体育の授業でも遊びでも、球技全般に対して苦手でした。その当時は発達障害や運動障害という概念はなく、ただ球技が下手なだけだと周りから見られていました。それでも私は短距離走が得意だったため、中学、高校時代は陸上部に所属していました。走るだけなら手先の不器用さは関係がなかったからです。
世間では「発達障害の特性は不器用である」というレッテル貼りが強いように思えます。インターネットで「発達障害」「不器用」と検索をかけると「手先が不器用なのは発達障害の疑いあり」というニュアンスで書かれたサイトが目につきます。 器用であるもしくは不器用であるという区別は、どこで誰が具体的に判断するのでしょうか?いまだに私自身には答えが出ません。
私の体験ですが、就職する前に通っていた就労移行支援所の担当職員に「子供のころ、極端に不器用ではなかったですか?」聞かれたことがあります。担当職員の考えでは私に発達障害の疑いがあるのではないかと思っていたようです。言われたときは私はまだ、病院で検査を受けておらず発達障害とは診断されていなかったため、そのとき「お前は不器用なんじゃないか、つまりは発達障害の疑いがある」と言われたように感じ、それだけで全てを否定されたと強く反発していまいました。 なぜなら、過去の仕事で手先の器用さを求められる仕事を常にしていたという自負があったからです。
しかし、その後、病院で検査を受けた結果、ASDと診断されました。担当職員の見方は正しかったのです。しかし偏りがあったのは、思考の癖や人の意見を早合点しやすいところでした。
ASDと運動機能の関係性
ASDと運動障害を併発する確率は約8割に上るという報告もありますが、最近までASDと運動障害との関係を紐づける科学的根拠は不明のままでした。 それでも、球技など道具を使用するスポーツの不得手が指摘されてはいました。体と空間の関係の問題や予測の障害が考えられてきましたが、はっきりとしたことはわかっていませんでした。
しかし近年、自閉スペクトラム症者でのスポーツの苦手は道具が身体の一部のように感じられないからかもしれない」ことと「脳内のGABAの濃度が、自閉スペクトラム症者の運動の不器用さに関係している」ことがわかりました。これにより、ASDと運動障害の関係性について、初めて科学的根拠が示された形になります。
ASDとGABAについて
GABAとは、正式名称をγ-アミノ酪酸といいます。トマトやカカオなどに多く含まれるアミノ酸の一種で、人間の脳内にも存在し、緊張やストレスなどをやわらげて、脳の興奮を鎮める働きがあるといわれています。また、GABAには睡眠の質を高め、血圧を下げる機能があることも報告されています。
また、GABAが脳内で少ないと運動スキルが低くなります。ASDと診断されている人は一般の人と比べて脳内のGABA濃度が少ないということとあわせて、ASDと運動障害をつなぐ要素がはっきりしたのです。
これらの研究をきっかけに新たなリハビリ方法や薬が生まれる可能性があり、今後ASDを取り巻く環境は大きく変わっていきそうです。まとめ
ASDと不器用さの関係が科学的に証明されましたが、全ての発達障害者(ASDも含む)が不器用というわけではありません。確かに私は球技に関しては苦手でしたが、手先の器用さを求められる仕事をこなしていました。その人が器用、不器用にはその人の主観大きく関わってきます。他人が勝手に「発達障害を持っている人は、全てにおいて不器用である」と頭ごなしに決めつけてはいけません。
参考文献
【国立障害者リハビリテーションセンター 自閉スペクトラム症者でのスポーツの苦手は道具が身体の一部のように感じられないからかもしれない】
http://www.rehab.go.jp
【国立障害者リハビリテーションセンター 自閉スペクトラム症者の運動の不器用さの神経科学的根拠を世界で初めて発見-脳内 GABA の濃度が関連-】
http://www.rehab.go.jp
自閉症スペクトラム障害(ASD)