自閉症の私の趣味と友人と配慮~カードゲームの場合
発達障害出典: Photo by Giorgio Trovato on Unsplash
私が「自閉症」の診断を受けたのは大学を卒業してからでした。
今でこそ、趣味を通した交流によって対人関係を築くことができていますが、学生時代の私は専攻していた芸術に向き合う日々を過ごし、休日でも1人で絵を描く日々を過ごしていたのです。
自閉症の「特定のものに強い興味関心を持つ」という特性による行動だったと思います。
その当時の人間関係は、かなり希薄なものだったと振り返られます。1人で思い悩むことも多く精神的に波の激しい生活を送っていました。
そして、今でも共通した趣味がなければ、対人関係を築くことが困難だと感じる場面が多いです。
トレーディングカードゲームとの出会い
現在、私が人と交流する際に使用しているコミュニケーションツールとして、絵や音楽といった芸術分野のほかにトレーディングカードゲームがあります。
このトレーディングカードゲームと呼ばれるものに初めて触れたのは、小学生のころでした。
幼少期から絵を描くことが好きだった私は、カードに描かれた様々なイラストに夢中になりました。
運動が得意ではなかった私が、同級生と一緒に遊ぶツールを手に入れた瞬間でした。
学校の休み時間、ボールを手にして外に遊びに行く同級生を見送り、私は教室で1人絵を描くことが多かったのです。
絵だけでは難しかった交流に、遊ぶためのルールが設けられることで同級生と過ごす時間が一気に増えたように思います。
今でもトレーディングカードゲームを続けているので、20年近く触っていることになります。
トレーディングカードゲームを遊んでいて困難な場面
そんな私は最近になって、初めて「デュエル・スペース」を利用する機会がありました。
デュエル・スペースとは、カードゲームを取り扱っている店舗であれば、大体の場所で設けられている「カードで遊ぶためのスペース」のことです。
具体的にはたくさんの机と椅子が並べられた場所で、不特定多数の人々が各々でカードゲームを楽しんでいます。
私はこの場所が苦手で今まで敬遠していました。
それは「聴覚情報処理障害」や「聴覚過敏」といったものが要因だと考えています。
大勢の人が同じ場所に集まり、それぞれで別々のカードゲームを楽しんでいるわけなのですが、私は必要な音だけを聴き取れずに、全体の音が全て耳に入ってくるので、相手の指示を正確に理解することが難しい場面が多いのです。
加えて、マルチタスクが苦手なので、複数の処理を同時に行う場面の多いカードゲームは、ピンポイントに苦手な要素の詰まったゲームということになります。
それでも、私はトレーディングカードゲームというものが好きなのです。
それはコミュニケーションツールとして、個性を主張できる要素が多いからです。
カード自体の絵柄やカードを保護するためのスリーブの色や絵柄、机に敷くプレイマットの絵柄といった部分で個性が表現できます。
放課後教室や福祉施設で、将棋やオセロをコミュニケーションツールとして採用している場所はたくさん目にしてきました。しかし、ゲームに直接関係のない部分で個性を主張できるトレーディングカードゲームは、絵を描くことや歌を歌うことで、自己表現をすることが好きな私にとって、同じく自己表現のためのツールとして楽しんでいる部分が大きいのです。
トレーディングカードゲームを楽しく遊ぶための工夫
自閉症に多いとされる、聴覚情報処理障害やマルチタスクが苦手といった特性があるから、カードゲームができないというわけではありません。
それらの要素が補えれば、不自由なくゲームとして楽しむことは私にも可能です。
1993年に生まれた世界初のトレーディングカードゲームである「マジック:ザ・ギャザリング」のプレイ人口は世界で600万人にもおよび、世界大会が開かれイラストだけでなく競技としてのレベルもトップクラスのものになっています。
そんなマジック:ザ・ギャザリングに関した記事で、耳が聞こえないプレイヤーの存在を知ったときに、私のトレーディングカードゲームに関する視野が大きく広がったように感じました。
近年はトレーディングカードゲームをデジタルの環境で楽しむこともでき、難しいルールを機械が処理してくれる場面も増えたので、私が小学生のころよりもハードルがかなり低くなったと思います。
それでも、実際に人と会って対戦をするとなると高度なコミュニケーションを求められる場面が多いです。
相手の説明を理解するだけでなく、自分が何をしたいのかも説明しなければいけません。
小学生から遊んでいますが、やっていることは非常に難しいコミュニケーションだったのだと最近になって振り返られるようになりました。
では、そうしたコミュニケーションで苦手な部分をどのように補えるのかというと、例に出したマジック:ザ・ギャザリングをプレイする耳の聞こえないプレイヤーの場合だと、身振りで伝えられる部分はジェスチャーで伝え、身振りだけでは伝えられない部分は事前に紙に書いたものを用意し、相手に視覚的に伝えられる工夫を凝らしていました。
私の場合だと「環境音によって口頭での指示を聴き取ることが困難」なので、人数の少なくて可能な限り静かな場所で遊ぶようにしています。また「複数の処理を同時におこなうことが苦手」なので、説明の際に何の説明をしているのか、指で示してもらうなどの工夫を相手と話し合って決めています。
自分でできる工夫だと、壁際の席なら、壁に反射した声を聴き取ることができるほか、文字の情報であれば理解が早いので集中して机に並んでいるカードを眺めるようにしています。
カードゲームの場面においても「合理的配慮」といった視点で相手に助けを求めることができるのだと、実際に遊んでいる立場で考えられるケースが非常に多いです。
合理的配慮とは、障害のある人が日常生活や社会生活を送る上で、障壁となる事柄を取り除くために相手に負荷のない範囲で求めることができる配慮のことです。
実際にカードゲームを遊ぶ相手に、自分がカードゲームをする上で困っていることを伝えてみると、遊びやすい場所を考えてもらえたり、説明をゆっくりしてくれたりと、配慮してくれる場面が多かったのです。
もちろん、全員が全員そうした点に理解を示し、配慮してくれるかというと、そんなことはありません。
しかし、最初から好きなことを諦めてしまうより、相手に何で困っているのかを伝えてみるということは大切だと感じました。
学生時代に独りで過ごすことが多かった経験や、コロナによって人に会うことが難しくなった今だからこそ、人との交流が大切だと強く思います。
独りだけだと偏ってしまっていた思考が、誰かと一緒に考えることによって柔軟になり、独りでは思いつかなかったような発見が多い毎日です。
もし今、独りで思い悩んでいることがあるのならば、誰かに相談してみるのも1つだと思います。
そして何か趣味があるのならば、交流してみるのも楽しいと私は思います。
そこで親身になってくれる人がいれば、大切にしてあげてください。
人との出会いが人生の宝物だと私は思います。
参考文献
【耳が聞こえないプレインズウォーカー】
https://mtg-jp.com
自閉症スペクトラム障害(ASD)