発達障害とアレキサイミア(失感情症)~感情の行方

発達障害

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アレキサイミア(失感情症)を聞いたことありますか?自分は嬉しいのか、それとも悲しいのか、感情が言葉にならない。ただ胸が苦しい、体のどこかが痛む。もしかして、自分には感情がないのでは?そういった悩みを抱える人々の症状を、アレキサイミアと呼びます。アレキサイミアを示す方には、自閉スペクトラム症等の発達障害と心身症が多いです。アレキサイミアの症状と謎、私達の苦悩について紐解いていきます。

アレキサイミアとは~感情の自覚と表現が難しい

アレキサイミア(失感情症)とは、喜怒哀楽が弱すぎる、もしくは失っているのではないか、と思えるような性格特性のことです。周りが笑って楽しんでいる中、一人だけ笑うこともなく、かといってつまらないと思っているわけでもない人。自分と親しかった人が亡くなっても、無表情で涙を流さず、悲しいとすら言わない人。一過性のものではなく、普段から感情が乏しい状態が見られる場合、アレキサイミアの可能性が高いです。人によっては程度と個人差がありますが、自閉スペクトラム症の私自身もアレキサイミアの傾向が強いです(私自身のエピソードも後述します)。

アレキサイミアの人々は、自分の感情に対する自覚や表現・言語化が難しいのです。ただし日本語では失感情症と呼ばれますが、決して感情が欠如しているのではありません。一見寡黙でクールな人も、心の内ではストレスや負の感情をため込んでいたりします。言葉や表情の代わりに、ストレスが正体不明の不快感や身体的な不調として表れることも多いです。しかも、ストレスがかかった時に生じる心拍の上昇や熱感、呼吸等の身体感覚も自覚しづらいため、つい無理をして倒れたり、感情を爆発させたりします。

では、人は何故アレキサイミア(失感情症)になるのでしょうか?

アレキサイミアの背景~眠っていた感情~

アレキサイミアは、1972年・ハーバード大学マサチューセッツ総合病院にて、心身症の患者さんの治療に尽力していたシフネオス医師によって提唱されました。心身症とは、心理社会的なストレスが高じたことが原因で、身体疾患を発症した状態です。仕事のプレッシャーや人間関係等の過剰なストレスが原因で、潰瘍性大腸炎や気管支喘息等の身体疾患になるのは、心身症に当てはまります。
シフネオス医師によると、心身症の患者さんの多くは、①感情が淡々としている、②ストレスや葛藤場面を避ける、感情を閉ざす傾向等の共通点が見られました。そのためアレキサイミアは、心身症の背景を説明する際に欠かせない概念です。

【アレキサイミアになりやすい人とは】
①自閉スペクトラム症(ASD)等の発達障害の場合:
ASDの方は感情面での発達がゆるやかで、言葉の遅れやコミュニケーション障害もあります。そのため、自分の感情を言葉や適切な表現で伝えることが苦手です。言葉によるコミュニケーションに限らず、ジェスチャーや表情、声のトーンにおいても、感情表現が分かりづらい方が多いです。クール過ぎる、かんしゃくが強すぎる、もしくは悲しい時に笑う等の不適切な表現が見られます。
他にも、①感覚過敏のためストレスを感じやすい、②感覚鈍麻の影響で、身体的不調を自覚できない、③想像力の障害のため、自分の感情やどうして自分がそう感じるのかを客観的に見ることが難しい等、ASDとアレキサイミアには共通点が多いです。

②ジゾイド(統合失調質)パーソナリティ障害:
ジゾイドパーソナリティ障害は感情に抑揚がなく、根っから孤独を愛する性格傾向を示し、かつ日常生活での困り感やトラブルを抱える人です。まるで感情がないような表情の乏しさや寡黙さ、場違いな発言をする等、統合失調症の陰性症状と似ています。ジゾイドの方の主な特徴も、アレキサイミアとかなり一致していると考えられます。

③昔から自分の感情を大切にしてもらえなかった人々:
虐待やネグレクト等を受け続けた子ども・人は、感情が凍ってしまったような様子をよく見せます。親に否定され続けるという心理的虐待も、自分の感情を適度に表現することや、人間らしい喜怒哀楽を奪いかねます。
子どもが笑う・泣く・怒ることによって自分の感情を表現する際、周囲はそれを適度に受け止める必要があります。さらに、「〇〇が嫌だったのかな?」、「じゃあ、どうしたかったのかな?」、と感情を言語化する手助けが大切です。その積み重ねは、子どもが自分の感情を大切にされていると安心し、自分の気持ちを言葉にするスキルを成長させます。しかし、自分の想いを伝えても相手に無視され、否定されることが重なると、やがて自分の感情や欲求、それを伝えることを諦めてしまいます。

アレキサイミアの背景には、アレキサイミアの特徴と強く当てはまる発達障害や性格特性等、遺伝的要因が強く関与しています。ですが、③のように虐待等の環境要因によって、アレキサイミアのような特徴を示すケースもあります。

失われた感情をどうするのか~ASDな私の感情

アレキサイミアは病気とは言えないので、性格・個性として捉えることができます。ASDである私も、冷静で落ち着いているとよく周りに言われ、その冷静さを活かせていると思います。

とはいえ、アレキサイミアによって、本来あるはずの感情を棚上げにし続けると、やがて自分の中で溜まった感情は爆発します。それは自分の健康や人間関係、仕事や勉強等の大切な活動にも支障を与えかねません。私の場合、ASDと二次障害が背景にあるケースですが、アレキサイミアの悩みとコントロール法について触れたいと思います。

【ASDでアレキサイミアな私について】
親いわく、私は赤ちゃんの頃からいつもニコニコしており、育てやすい子だったようです。昔から今でも私は、緊張している時や気まずい時に、おかしくもないのに顔が笑ってしまいます。ASDで感情と言葉の発達が遅かったので、私はにやにやしているかぼーっとしているかの子どもでした。だからこそ、周りはもちろん私ですら、自分の不安や恐怖に気付けなかったのです。

周りは楽しいことに笑い、嫌なことに泣くのに、私だけは笑うことがあっても、泣くことも怒ることもありませんでした。そのため、周りの子どもや大人を怒らせ、悲しませたことも少なくないです。友達が転んでけがして泣いているのに、私は笑っていました。しかし、それで周りに怒られるか泣かれても、私はその理由を理解できませんでした。まるで、泣いている親を見て驚いても、その理由を理解できない赤ん坊のように。大好きなはずの母が泣いていても、子どもの私は胸をあまり痛めませんでした。。私は冷たい人間なのではないか、と自分でも疑いましたし、実際に人にそう言われたことも何度かあります。いつも遊んで仲良くしてくれた先輩達が卒業してしまった時も、普通に笑顔で送った私に対し、同級生は「涙も見せないなんて冷たい人だ」、と言いました。

ですが今思い出すと、感情を理解できていなかった子どもの私も、本当はきっと怒られることに戸惑い、いじめも嫌だったのです。何故、私の容姿や態度の悪口を言われるのか、勉強もスポーツも落ちこぼれで礼儀知らずな私を、何故みんな笑うのか。それでも私は、泣けませんでしたし、何も言えなかったのです。ただ、胸のあたりにある何かが一瞬地震のように揺れたのと似た不安感だけが残りました。

小学4年生頃になって、感情と呼べるものが私の中でようやく生まれました。同級生に嫌なことを言われたりされたりすると、私は「やめて」という言葉を発し、涙を見せるようにもなれました。それでも、私の言い方は淡々として迫力に欠けていたせいか、いじめは止みませんでした。

小学校・中学校時代でのつまずき以来、今度は周りの視線や言動に心の中で傷つき、強い緊張を感じるようになりました。私にとって、自分のできない所や不自然な所ばかりを露見させるのが嫌で、新しい体験も人との関わりも恐怖や不安でしかなくなりました。泣いたら人は余計にイライラすると言われたこともあり、私は傷ついても泣かないようにしました。それでも、相手のささいな言動にもすぐ傷つく自分に落ち込んでばかりでした。

大学では、心理学等を勉強したおかげで自分の発達特性にようやく気付き、人の心理と付き合い方について色々な知識と技術を身に付けました。今となっては、ASDでアレキサイミアの傾向が強く、自分の冷徹な一面も受け入れることができました。人がどういう時にたいてい喜び、悲しみ、怒るのか、相手の気持ちを考慮した言動を心がけるようにしています。そして、自分がどういう言動に傷ついたのかを参考にしながら、何とか人と上手く付き合っています。おかげで、人には言いづらい悩みも丁寧に聞ける自分の冷静さを、長所として活かせています。とはいえ、冷静になり過ぎて知らぬ間にストレスを抱えてないか、常に注意しています。

【アレキサイミアと伴いやすい悩みへの対処】
・アレキサイミアである自分の特性を把握する
自分がアレキサイミアの傾向が強いことを意識しておくだけでも、自分の体調や心のわずかな変化を意識しやすくなります。普段の自分の状態についてメモに記録する等で把握する手もあります。そうすれば、普段とは違う言動から不調のサインを見つけやすいです。ちなみに私は、精神的に疲れている時ほど、唇や視線が人形のように固まっていることが多いです。自分で把握することが難しい場合は、自分をよく知る家族や周囲の意見を参考にしましょう。

・自分が疲れているつもりはなくても、休憩を取る・ストレスから距離を取る。
仕事や勉強の合間に、一定時間や回数を決めて意図的に休憩を取る、自分がリラックスしやすいことを他にする等、メリハリをつけます。発達障害の場合、過集中のこともあるので、休憩をこまめにとれば心身の消耗を防げます。

・最初は共感できなくてもいいので、物語を読んでみる。
個人的な意見ですが、絵本やマンガはおすすめです。絵本とマンガは、登場人物の表情から思考、感情を文字や絵で視覚化しています。文字や絵は分かりやすいので、感情表現や対人関係の勉強にもなりますし、頭にすんなり入りやすいです。絵よりも文字を好む方は、小説でもいいと思います。ジャンルは自分の好きなもの、頭に入りやすいものなら何でも良いです。ただし、フィクションを何でもうのみにしないように注意し、これが現実でOKがNGなのか分からない時は、複数人の信頼できる人に訊いてみましょう。

私は幼少期からマンガを読んでいますが、子どもの頃は何故キャラがそう思い、そう行動するのかを理解できていたわけではありません。しかし、記憶に残っていたマンガの物語は、大人になった私の中で「人間理解のヒントと知識」として、とても参考になっています。

まとめ

アレキサイミア(失感情症)について、以下にまとめます。

・喜怒哀楽といった感情の起伏が乏しく、自分の気持ちを見つめるのが不得手な性格傾向です。

・心身症の背景にアレキサイミア、アレキサイミアの背景に自閉スペクトラム症(ASD)があります。

・感情が欠如しているわけではなく、自分の感情を自覚すること、表情や言葉にして伝えることが難しいのです。

・他にも、①身体的な変化と不調の無自覚、②外的刺激への過敏さ、③つい無理をすることで健康を損なう、知らぬ間に感情をため込んでかんしゃく・怒りを爆発させてしまう等の特徴があります。

・アレキサイミアは、ASD等の発達障害やジゾイドパーソナリティ障害等、遺伝的要因が強いです。ただし虐待やネグレクト等、感情を表現しやすい環境に置かれなかった場合にも見られます。

いかがでしたか?

アレキサイミアは病気や障害というよりも、性格・個性としての色が強いです。

とはいえ、私達にとって困ることは、感情の起伏が乏しく冷静であることから、様々な誤解を受けやすいことです。

「冷静ならこの人は何を言われても平気だろう」、「人の評価なんて気にせずに過ごしているのだろう」、「涙も流さない、なんて冷たい人なんだろう」、という言葉をかけられた人は、私の他にもいるでしょう。

ですが、私達アレキサイミアは、表現が弱々しいか不器用なだけであって、人間らしい感情をちゃんと胸に持っています。

もしも、アレキサイミアらしき人を見かけたら、見た目の雰囲気や印象だけで決めつけないでいてほしいです。その人自身の感情、と相手の言動をその人がどう捉えるのかを考えてくだされば、幸いです。

参考文献

・岡田尊司(2016)『アスペルガー症候群』幻冬舎新書

・ルディ・シモン(訳:牧野恵)(2010)『アスペルガーのパートナーのいる女性が知っておくべき22の心得』スペクトラム出版社

・日本精神神経学会(日本語版用語監修)『DSM-5精神疾患の分類と診断の手引き』医学書院

・「失感情症」e-ヘルスネット[情報提供]厚生労働省
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp

・「医師が解説!アレキシサイミアの具体的な症状と治療法」EPARKレポート
https://epark.jp

・「心身症」Medical Note
https://medicalnote.jp

・「ジゾイドパーソナリティ障害」こころのはなし・ハートクリニック
https://www.e-heartclinic.com

*Misumi*

*Misumi*

自閉スペクトラム症のグレーゾーンにある、一見ごく普通のネコ好きです。10代の頃は海外と日本を行き来していました。それもあいまってか、自分ワールドにふけるのが、ライフワークの一つになっています。好きなものはネコ、マンガ、やわらかいもの、甘いもの、文章を書くこと。最近は精神保健福祉士を目指しながらコミュニケーションを学び、今後の自分について模索する心の旅人。

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