「弱いって」「人権なし」…令和の「精神的ブラクラ」を斬る

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Photo by Rodion Kutsaiev on Unsplash

「精神的ブラクラ」とは、見た人にトラウマ級の強い不快感を与えるコンテンツで、とりわけ悪意を持って誘導されているものを指します。ウィンドウを無限に開くなど誤作動や負荷をかけてくる「ブラクラ(ブラウザクラッシャー)」が発祥で、掲示板などで誘導して“踏ませる”手法と、ブラウザやOSではなく見た人の精神にダメージを与えることから、そう呼ばれるようになりました。

主に使われるのは、大音量や画像で驚かすジャンプスケア、事故映像やスナッフフィルムなどの強烈なグロ・ゴア表現物です。「検索してはいけない言葉」にカテゴライズされることもあり、蓮コラなどはその代表例といえますね。一方で、基準や解釈の曖昧さからジョークとして「精神的ブラクラ」と呼ばれることもありますが、ここでは「確実に精神を害するもの」として扱います。

flash文化や2chが中心の時代に生まれた「精神的ブラクラ」ですが、SNSや各種配信プラットフォームが隆盛して久しい現代では、その在りようも大きく変わっています。令和の精神的ブラクラは、簡潔にいえば「向こうからやって来る」のが特徴です。

「踏ませる」から「拡散させる」時代へ

flashブームも既に廃れ、ネット民の5ch離れも止まらず、何よりネットコミュニケーションの中心がSNSへとシフトしていった平成末期。精神的ブラクラの悪しき文化は、泥舟と共に沈むのをよしとせず、変わりゆく時代の潮流に乗って適合してしまいました。

ひと昔前、Twitter(現X)で生首(を模したケーキ)のグロ画像を投稿した者がいたのですが、ご丁寧にトレンド入りしていたワードを入れて多くの人の目に触れるようにしていました。今でいう、トレンドの単語を羅列して無関係な動画や画像を投稿するインプレッション稼ぎの走りです。

当然、糾弾のリプライも多かったのですが、「見てくださってありがとうございます(笑)」といった調子でこちらの神経を逆撫でしていました。これを機にトレンドのワードを入れてグロ画像などを流す模倣犯が現れ、当分の間トレンド機能は精神的ブラクラの温床となったものです。

SNSへと時代が移ったことで、「バズる」ことの大切さが精神的ブラクラにも当てはまるようになりました。「罠にかかるのを待つ時代」から「人目に付くよう飛び出す時代」へのパラダイムシフトを起こしたのです。悪感情を煽る精神的ブラクラにとって肝となるのは拡散、とりわけ「怒りの拡散」をさせることでした。

例えば、猫を虐待する様子を収めた投稿があり、これが何千何万と拡散されたとします。何故だと考えますか?動物虐待という異常な趣味に傾倒する者が何万人も潜在しているからでしょうか。違います。拡散に加担しているのは、大衆の審判を仰ごうとする義憤と善意の一般人です。「このような虐待動画が回ってきました!許せない方はRT!」という感じの文面と共に晒し上げるほうが拡散としては多数派なのです。本人は虐待犯を絞首台へ上げているつもりでしょうが、実際は虐待動画を一人でも多くの人に見せて回っているに過ぎません。

リツイート(リポスト)などの拡散行為は、必ずしも同意や賛同とは限らず、怒りや正義感を帯びた晒し上げの意味でされていることもあります。バイトテロなどがいい例でしょう。あれも衛生的には不愉快な映像が多いですね。精神的ブラクラの目的が「見てもらうこと」である以上、義憤に駆られた大衆によって拡散されるのは大歓迎で、炎上騒ぎは何のダメージにもなりません。

精神的ブラクラ化するインフルエンサーたち

旧時代の精神的ブラクラでも「蓮コラ」は頭一つ抜き出た存在でした。ハスの実や花托を用いたそれは、生理的嫌悪感を大いに掻き立てる効果よりも、「たかが植物」である点が強かったのではないかと思います。人の頭部や臓物が飛び散る様子と違って、たかが植物なら全年齢コンテンツに居座れるでしょう。

また、精神的ブラクラには「俺平気だし!お前らビビり過ぎ!」と平気アピールでイキっている反応もよく確認されます。実際に何ともないのか、それともやせ我慢かは知りませんが、とにかく効いてないアピールはつきものです。

何が言いたいかというと、精神的ブラクラとして上手い所を突いて成り上がったのが「露悪系インフルエンサー」ではないかという話です。特定の視聴者層へ確実に精神的ダメージを与える存在でありながら、通報に足る理由がないよう巧妙に攻撃相手を選び、ファンは平気アピールどころか賛同者・狂信者として攻撃に加担します。これが「令和の精神的ブラクラ」です。

令和の精神的ブラクラは、自分のアカウントで能動的に発信していくのも特徴で、昔のように踏まれるのを待つことはありません。拡散狙いも含めて、向こうから飛び込んでくる時代です。

例えば、「スポーツ経験に乏しい男は弱い」とヘラヘラした顔で説いた配信者がいます。あのニヤケ面自体が下手なグロ画像よりよっぽどグロテスク(しかも蠢動する!)なのですが、弱者男性叩きにしか生きる楽しみを見出せなくなった限界ネット民からは大賛同を受けています。勿論、晒し上げとか笑い飛ばすとかの目的で拡散されており、精神的ブラクラとしては最も成功した人物といえるでしょう。最近はADHDやHSPを本人の気の持ちようなどと吠えているようで、しっかりポリコレの範囲外を突く狡猾さも窺えますね。

例えば、不適切発言でクビにされてから露悪路線に振り切っているフリーの配信者がいます。こちらも「弱者男性の味方」を標榜しながら、実態は弱者男性叩きでしか生きられない人々のためのコンテンツに過ぎず、ファン層もお察しです。聞いた話ですが、知的障害者についてどう思うか直球で質問された時に「ハンデがあるのに…カッコいいと思う」みたいな日和った回答をしたそうで、これを知って「露悪で売ってるくせに、クソダセーな…」と思いました。

こいつらの動画は実際に見た訳ではなく、拡散された情報だけでしか把握しておりません。本人の動画を実際に見て分析するのが筋なのでしょうけれども、最低限の筋を立てて人間扱いすることすら嫌になる存在なので、今後も元動画を見ることは無いでしょう。何よりも、精神的ブラクラに対する最大の対策は「踏まない」ことですので。

考えなしの拡散をやめよう

誘導の時代から自ら飛び出す時代へと転換した精神的ブラクラは、防ぐのが難しいように感じます。SNS疲れの原因にもなりますね。これに苦しまないためにはどうしたらいいのでしょうか。自分だけ救われたいならSNSから離れるのがいいのでしょうけれども、不便であることは否めませんね。

一人ひとりが出来ることとして、やはり脊髄反射で拡散しないよう努めることが挙げられるかと思います。考えなしに拡散されていなければ、ああいった存在が知られることも無かったですからね。晒し上げるにしろ笑い飛ばすにしろ、不快に感じたコンテンツを拡散することの意味を考え直しましょう。

精神的ブラクラは概念なので「炎上」はしても根絶には至りません。その存在意義が「踏ませる」ことである以上、我々が出来るのは「踏ませない」ために考えなしの拡散をやめることだけです。


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遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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