グループホームに住んでみて知った(3)~とあるアラフォーADHDの一意見
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2度の「緊急避難」を経て、実家を出なければ体調が安定しないと痛感した私。通所していた就労移行支援の専任担当者に連絡したところ「計画相談支援」という新たなサービスを紹介されます。
計画相談支援の担当者に提案されたのは「グループホームで暮らす」という選択肢でした。グループホームとは何か、入居するにあたって何か条件はあるのか。私は早速調べてみることにしました。
「グループホームで生活してみませんか?」
思い立ったが吉日……というわけではなく、即行動にうつすADHDである私は、すぐに就労移行の専任担当者に電話しました。担当者も私のここ最近の研修への出席状況がよくないこと、その原因として不仲な妹と長時間同じ空間で過ごしており「コロナ禍で受けるストレスに加えて、家族間の問題が体調に影響しているのではないか」と、気にかけて下さっていました。
「このままの生活環境では体調がよくならない」という私の言葉を受け、担当者に「これを機会に実家を出ることを決断してほしい」とまず最初に提案してもらいました。
しかし「就労移行支援」は障害をオープンにして就職するにあたって、障害特性やどのような配慮や自己対処が必要になるのかを、把握するための研修が主なサービス内容です。
ようするに、生活環境の支援はサービス提供内容には含まれていないのです。
というわけで担当者が次に提案してくださったのが「計画相談支援サービスと契約を結び、生活環境改善のための福祉資源を探し、よい資源が見つかればとつないでもらう」ことでした。
「計画支援相談サービスですか?」
私は思わず聞き返しました。全く聞いたことがないサービスでしたので。
「計画相談支援」とは?
ここで簡単に「計画相談支援」について説明します。
計画相談支援とは、市町村から指定を受けた「指定特定相談支援事業者」が障害のある人に対して、サービス利用支援・継続サービス利用支援の2つのサービスを提供することをいいます。
これらの提供を受けるにあたり、利用者側の費用負担はまったく無いので、ふところの不安な私には願ってもないことでした。
計画相談支援は、例えば大阪市であれば、各区の区保健福祉センターへ計画相談支援の申請をおこない、自分で相談支援事業所を選ぶ。もしくは、どこに依頼してよいか決められない場合は「区保健福祉センター」に事業所選定の援助を依頼することで、サービスを受けることができます。
さて、私の通所していた就労移行には、私のようにサービス利用中に住環境を改善したい、もしくは改善せざるをえなくなった利用者が、実はすでに何名かおり、以前にも同じようなようなケースは複数あったそうです。
その経緯から懇意(こんい)にしている特定相談支援事業者があったため、そちらを頼ることになりました。
特定相談支援事業者の担当者に就労移行支援のオフィスで初めてお会いした際、利用者の方が数名「お久しぶりです」「先日はありがとうございました」と担当者の方に挨拶をしていました。
もしかしたら私が気が付かなかっただけで、過去に顔を合わせていたかも知れません。
実は計画相談支援の私の担当者は、お会いするより先に電話をしてきて下さいました。実家を出るにあたって不安に思っていることを聞かせて欲しいといわれ「不安な要素がいくつかある」と答えしました。
不安な要素は
1、就業するまでには、まだ時間がかかりそうなこと
2、前職で得た失業保険も、まもなく給付が終わりそうなこと
3、貯金はあるが、いつまでそれを切り崩して生活できるのかが見通しが立たないこと
の3つです。
担当者は答えを聞いたうえで「生活費を節約するためにも、一人暮らしではなく、グループホームで生活をしてみませんか?」と提案されました。
グループホーム?それって、どんなところ?
何となく名前の通り「共同生活をする施設」なのだろうと思いましたが、その時はそれ以上くわしいことは分かりません。
この時点で、担当者は入居候補となるグループホームを、いくつか探して下さっていました。それどころか、とあるホームとは見学の日程まで調整して下さり、その上で「急ですが、見学に行けますか?」との打診があったのです。
私はその日程で問題ないことを伝えしましたが、もう1つ懸案事項を思い出しました。
「グループホームに、ピアノを持ち込むことは可能でしょうか?」
担当者の方は「ピアノを持ち込みたい、と希望した利用者の方は初めてです」と驚いておられましたが、その後ホームの方に持ち込みについての可否を確認して下さいました。「常にヘッドホンをして、外に音が漏れないように演奏するのであれば、問題ない」と連絡いただいたとき、ほっとして腰が抜けそうになりました。
思っていたよりも早く今後のことが決まっていくので、正直なところ戸惑いはありました。
就労移行の担当者に「もうグループホームの見学日程が決まりました。何もかもが思った以上に早く決まって、びっくりです」
と正直な気持ちを話したところ「あなたの体調をこれ以上悪化させないために、計画支援の方には大至急動いてもらうようにしました」と教えてくださいました。
様々な支援を利用して、今回グループホームでの生活を提案されている、つまり今後の生活がかかっているのに「グループホーム」がどんなものなのか解らないままにするのはよくないと思った私は、Googleでグループホームとは何か、と早速調べてみることしたのです。
グループホームに入居できる基準とは
まず、グループホームという単語のみで検索してみました。すると検索結果として最初に出てくるのは介護サービスなどを主とした、いわゆるご高齢の方の施設です。
そこで「グループホーム 障害者」と再度検索してみたところ、このような説明に出会いました。
「グループホームとは、障害のある人が3~4人で、世話人などから生活・健康管理面などのサポートを受けながら、共同生活を営む住宅のことをさします」
とてもシンプルで分かりやすい説明ですね。
とあるグループホームの説明では「比較的介護が不要な『自立を目的とした方』がよくご利用されます。比較的介護が不要であり、相談支援事業所や就労先などとお互いに連携して、長期的な視点から地域移行を考えていきます。生活の自立を目指したい方にはおすすめのサービスです」
と、より踏み込んだ内容の説明がホームページのトップ画面にかかげてありました。
居住地域にある施設のホームページをあちこち見てみましたが、入居可能な基準や入居定員数は施設によってまちまちのように思えました。
もっと情報が欲しいと思ったので検索ワードを変えて調べてみると
1、集団生活タイプ(シェアハウス型)と呼ばれる、一軒家で集団生活をしながら福祉支援を受けるタイプの施設
2、個人生活タイプ(アパート型、サテライト型)と呼ばれる、マンションやアパートの個室で一人で生活しながら福祉支援を受けるタイプの施設
と、全く異なる生活スタイルの施設が存在することを知りました。
最後に、見学予定のホームページを見てみることにしました。すると以下のような入居の条件が記載されていました。
<主な入居対象者の条件>
1、共同生活援助利用の受給者証の申請や発行がすんでいる方、もしくは申請中の方
2、障害支援区分の1から6のうち、2、3、4のいずれかであること(区分5については要相談)
3、平日の日中に通える活動先があること
まず、1つめの項目の「受給者証」について説明します。正しくは「障害福祉サービス受給者証」と呼ばれるものですが、これは障害者支援総合支援法などにもとづいて、運営している福祉サービスを受けるために必要なものです。
グループホームとは「共同生活援助」という福祉サービスを運営している、事業所が行っている福祉サービスの1つなので「受給者証」が必要です。
この「障害福祉サービス受給者証」を取得するためには、自治体の担当窓口への申し込みが必要になります。自治体によって窓口がことなるので、事前によく調べることをおすすめします。また、取得に当たっては障害者手帳や療育手帳の提示か、医師の診断書が必要です。
なお、この時点で、私は就労移行支援という福祉サービスを利用するために、すでに受給者証を取得していました。しかし、共同生活援助を新たに利用するために、必要書類の追加提出や認定調査員によるヒアリング調査を再度受け直しました。
次に、2つめの項目に挙げた「障害支援区分」について説明します。
障害支援区分とは「障害者総合支援法」という法律にもとづく、サービス利用申請に対する支給のための区分です。障害や心身の状態などをから、どのくらいの支援などが必要になるのかを、6段階に分けています。
高齢者の介護保険と同じく、区分1がもっとも支援度合いが少なく、区分6がもっとも多くの支援が必要になります。
それでは「5つの項目」がどのようなものかを、ざっくりと書き出していきます。
1、移動や動作などに関連する項目(移動や動作がどの程度出来るのかを調査されます。項目は12項目あり、項目の一例としては、寝返り、起き上がり、衣類の着脱などがあります)
2、身の回りの世話や日常生活に関連する項目(身の回りのことや日常生活に関連することがどのくらいできるのか調査されます。項目は16項目あり、項目の一例としては、口腔清潔、入浴、薬の管理、金銭の管理、交通手段の利用などがあります)
3、意思疎通などに関連する項目(意思疎通に関して、どの方法でどの位の意思疎通ができるのか調査されます。項目は6項目あり、視力、聴力、コミュニケーション、説明の理解、読み書き、感覚過敏もしくは感覚鈍麻があります)
4、行動障害に関連する項目(日常生活において、生活が困難になるような行動がどのくらいあるのかを調査されます。項目は34項目あり、項目の一例としては、感情不安定、暴言や暴行、不潔行為、自傷および他傷行為などがあります)
5、特別な医療に関連する項目(日常生活において特別な医療支援が必要になるのかを調査されます。項目は12項目あり、項目の一例としては、点滴の管理、気管切開の処置、疼痛(とうつう)の監護などがあります)
この5つの項目ですが、私への調査に関してはほとんどが、聞き取りのみの確認となりました。しかし、一部実際に指示された動きなどをその場でおこない、その様子をチェックされることもありました。
審査の結果、決定した私の支援区分は「区分2」でした。
最後の入居条件となる3つめの項目「平日の日中に通える活動先があること」も、具体的に説明します。
「平日の日中に通える活動先」とは、リハビリやデイケアへの通院、生活介護事業所や障害者作業所への通所、就労継続支援事務所への通所、就労移行支援事業所への通所、一般企業や特例子会社への通勤などを指します。
現在私が入居しているグループホームの入居者ですと、軽度知的障害の方は平日に一般企業への通勤、ダウン症の方は作業所への通所、精神疾患と難病を併発している方は精神科のデイケアと難病のためのリハビリに通われています。
そして私は、入居した当初は就労移行支援事業所への通所をしており、現在は就労継続支援B型事業所に通所していますので、要件を満たしています。
この章の最初に記載した「比較的介護が不要な『自立を目的とした方』」とは、まさしく私のことだったのです。
アラフォー、グループホームへ
グループホームの見学後、私は計画相談支援の担当者のすすめもあり、5泊6日の体験入居をすることになりました。このホームに正式に入居するためには、体験入居が必須だったのです。
今回入居候補となっているホームは、新規オープンしてこれから利用者の受け入れをはじめる段階にあり「定員4名に対し、正式に入居が決まった利用者は、まだ0の状態」と、事前に説明を受けました。
すでに居住している利用者の方々との相性を確認したり、共同生活でどのようなことが起こるのか肌で感じて、実際に暮らしていけるか判断する材料の1つとして、体験入居があるものだと私は考えていました。
ですので、自分しかホームにいない状態で体験入居をすることに意味があるのかと、疑問に思っていました。
しかし、いざ1週間分の荷物をまとめホームに着くと、例え入居者が1人もいなくとも、体験入居の間に確認すべきことは沢山あることが分かりました。
今回体験入居を行うホームは、マンションの比較的高層階にありました。
これはまず、災害やエレベーターの点検などで、階段での移動が発生したときのことを考えなければなりません。体調がよく元気な時は問題ないでしょうが、うつ症状が出ている体調が悪いときなどの場合、対応できるか少し心配です。
ホームの間取りは4LDKで、4部屋のうち1部屋はすでに他の利用希望者が、仮予約を入れているとのことでした。そこで残り3部屋を探検して、それぞれの部屋の広さ(5.5~6.5畳まで微妙に差がありました)、窓の大きさ、押し入れやクローゼットなどの収納スペースを確認することにしました。
さんざん好きに探検したあと、収納スペースが広く、窓が大きく、電子ピアノが確実に入りそうな部屋を仮予約しました。そして仮予約した部屋で荷物をほどき、体験入居がスタートしました。
見学の際ホームの共有スペースをしっかり確認していなかったので、まずはそこをチェックすることにしました。壁際には大きなテレビが置いてあり、その上には大きめの時計と大きなホワイトボードが壁にかかっていました。
ホワイトボードを何に使用するのかと職員の方に確認すると
「利用者がどこかに外出する時に、外出先と帰宅予定時間を記入してもらうために用意した」
とおっしゃられました。なるほど、利用者のその日の予定を確認するスケジュールボードというわけです。
リビングにはダイニングテーブルと椅子が4脚備えつけてありました。席については、どこに座って食事してもいいとのこと。ですがこれも、入居者が増えてくると、どこに座って食事するかは自然と決まるでしょうが。
そして、一番気になるキッチンもチェック。なぜなら、生活に慣れてきたら自炊をしてみたい、という目標があったのです。
キッチンスペースの奥に設置された冷蔵庫は、冷凍庫をふくめ「何か買い置きしたい場合は場所を譲り合って利用して下さい」とのこと。レンジやオーブントースターも備え付けられており、食器棚には入居者用の食器が4人分準備されていました。
「食器や家電を新たに購入する必要はなさそうだ」と私は判断しました。
その後、浴室や洗面所もじっくり見学してみることに。洗面所には全自動の洗濯機が1台設置されており、これを今後利用者全員で使用する予定とのこと。加えて、洗濯に使う洗剤や、入浴する際に使用するシャンプー、バスタオルなども自由に使用していいとのことでした。
この時点で「入居が決まった場合、荷造りは思ったより手間がかからないかも知れない」と私は考えました。
ホームに着いたのは午後3時ごろでしたが、午後5時になると世話人の方がやって来ました。この日の世話人の方は非常に朗らかで快活な方でした。
「グループホームに入居できる基準とは」の章でも出てきた「世話人」というお仕事をされている方が、グループホームには必ず何人かいらっしゃいます。大抵は交代で勤務に入られるので、世話人の方が毎日別人ということになります。
世話人の方のグループホームでの業務内容は、朝食および夕食の提供、入浴の準備、ホーム全体の掃除、ゴミ捨てなど、家事一般のほぼ全てを担当されます。
加えて利用者の体調が悪かったり、障害特性上自発的に動くことができない利用者に関しては、できないことへのサポートや誘導をおこないます。その他、服薬が必要な利用者に関しては、毎日の服薬確認もおこないます。
さらに、利用者が希望すれば、日々の悩みなども聞いてくれるようです。
世話人の方がほとんどの家事をおこなうため、入居者の家事の負担は極めて少なくなります。入居者は身の回りのこと、掃除を含む自室の管理、食事の後の下膳、食器洗い、そして洗濯をこなすことになります。
体験初日のスケジュールは夕食は午後6時半、入浴は午後8時半となっていましたが、夕食の間ずっと世話人の方と2人でお互いの過去や仕事、趣味の話で盛り上がり「もう8時半過ぎてる!」と慌てて入浴する事態になりました。
ホームの利用者だけではなく、世話人さんとも上手くお付き合いできるかどうかも、体験入居の際に確認しておく必要があります。
私が体験入居した翌日にもう1人、体験入居者がやってきました。その方は実は私と同じく、後にこのグループホームへの正式な入居をする方でした。とても優しい物腰の方で、私はとても好感を持ちました。
しかし体験入居中には、とてもアクティブにあちこちへ外出されていたので、朝のあいさつ以外はほとんどお話することが無かったのが少し残念でした。
そしてこれば私にとって一番肝心なことでしたが、就労移行支援のリモート研修は、ホームの自室で1日も休むことなく受けられました。
こうして、体験入居期間はあっという間に過ぎたのです。
これから先、どのような方が入居してこられるのか、その方とうまくやっていけるかという不安が、全くなかったといえば嘘になります。
しかし、体験期間中少なくとも世話人さんとは、どの方とも問題なくコミュニケーションすることができましたし、何よりピアノを持ち込んでよいグループホームが、他に見つかるとは限りません。
「見学の日程も、体験入居も、スケジュールがすぐに決まった。実家からも距離的には遠くない。ピアノも持ち込んでよい。これは何かのご縁かも知れない……ここに決めよう!」
そう判断した私は、計画相談支援の担当者に、このホームへの正式入居のための手続きを進めてくださるようお願いしました。
入居日は8月半ばに決まり、期日までに荷造りや自室の掃除も終わりました。
引っ越すその日、荷物が全て運び出されてから、私は家族にこれまでお世話になったと挨拶をし、実家を出たのです。
後に母から、「妹が『お姉ちゃんが家を出ていったのは、もしかして私のせいなの?私はどうしたらいい?』といっていた」との話を聞きました。思わず苦笑いしてしまったのを覚えています。
グループホームに自転車で向かう途中、みっともない嗚咽が止まりませんでした。それが辛い生活からやっと抜け出せた安堵からなのか、それとも40歳を過ぎて、独り立ちをするさみしさから来るものかは、分りませんでしたが。
頬の半分を濡らした涙をぬぐってからホームに入ると、そこには利用者であろう女性が2人いらっしゃいました。うち1人は、体験入居の際一緒になった物腰の柔らかな女性。そしてもう1人の方は初めてお会いする方だったので、職員の方が紹介して下さいました。
こうして入居者3人でのグループホームの生活がスタートしました。その半年後にダウン症の方が入居を決められ、これで定員は満員となりました。
集団生活がはじまった後、私はグループホームでの生活を通じ、私を含む障害者の集団生活とはどのようなものか、ホームで生活することが、私にどのようなメリットやデメリットをもたらすことになるのか。日々考え悩むことになるのです。(→次回に続く)
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