時間、或いは、現実での性が奪われる「ネットポルノ依存症」

暮らし 依存症
Photo by Matt Wildbore on Unsplash

コーンフレークなどでお馴染みのシリアル食品で知られるケロッグ社ですが、その初代社長にはある意味グレイトな身内がいました。初代社長の兄であるジョン・ハーヴェイ・ケロッグは、様々なエセ健康療法と過激な禁欲主義が大好きな男で、マスターベーションそのものを「飢餓や戦争や天然痘よりも人類に有害なもの」と位置づけ目の敵にしていました。

とはいえ、エセ健康療法にドハマりするような頑固親父から出てくるのはやはり疑似科学の域を出ないので、心ある人間の中で真剣に受け取る者などおりません。高校の時、性教育の講演で呼ばれた講師がこう言っていました。「マスターベーションで競技が下手になると部活で言われた人がいます。それで下手になる程度なら、元々才能がないのでさっさと辞めた方がいいです」

ただ、やり方や使うものを誤ったマスターベーションは、他の欲で例えるなら三食カップ麺で済ませたり明るい部屋で就寝したりするようなもので、習慣化すると有害性を発揮します。誤ったマスターベーションのうち、「見るもの」の選び方で起こりうるのが「ネットポルノ依存症」です。(正直、ネットポルノ依存症については個人的に眉唾物だなと感じていますが)

現実のセックスがわからぬ

ネットポルノ依存症とは、読んで字のごとくネットで利用できるアダルトコンテンツに依存した状態です。現在正式に認められている依存症には含まれていません(※)が、その影響を報告する声は多くあり、アメリカではオンラインの自助グループが作られている程です。これに警鐘を鳴らしたのが医師のゲーリー・ウィルソンさんなのですが、残念ながらこの方は2年前に亡くなられています。
(※:強迫的性行動症には含まれるそうです)

ネットポルノへの依存で引き起こされる問題というのは、端的に言えば「現実のセックスが出来なくなる」ことで、具体的にはED(勃起不全)など性的機能不全の形で表れます。実は、アンチ性表現論者がたまに言う「現実でも女性を襲うようになる!」という主張とは正反対のことが起こっているのですが、これはこれで困ってしまう訳ですね。

ちなみに、疑いのある人は女性より男性の方が4倍くらい多いそうです。性的機能不全は男性側の方が分かりやすいので、そのぶん自覚しやすいという部分もあるのでしょう。

当事者はこう言います。「時間さえあればポルノを優先してしまう」「現実がAVに負けていると思えてセックスする気にならない」「精神は既に、画面の中のセックスが本物だと認識していた」「その時に見たいものを無限に選べるのがネットポルノだ。性的機能不全に陥り、やがて現実での性欲すら消え失せた」

生物には、「様々なメスを選べるならば、オスは力尽きるまでまで交尾し続ける」という「クーリッジ効果」があります。これを踏まえて、ゲーリーさんは自身の講演で「男性は様々な性的パートナーを欲するように出来ており、ポルノはあたかも無限に性的パートナーがいるかのような幻想を抱かせてくれます。ゆえに、男性たちはポルノから離れられなくなります」と説明しました。

報酬回路への過干渉

ネットポルノへ依存する仕組みについても、ゲーリーさんは生前語っています。それは要するに、他の依存症でも見られるような脳の報酬回路への影響なのだそうです。これは、報酬回路の仕組みで元からそうなっている依存症(正義中毒など)と、報酬回路自体を組み替えてしまう依存症(薬物中毒など)、両方の要素を含んでいると言えます。

この回路への干渉がどれほど強力かと言うと、性志向と乖離した性的興味を抱いてしまう程です。具体的には、ゲイを自認する人がポルノの中の女体に魅せられたり、ストレートの人が「自分がゲイになるのではないか」と思い悩んだりする事例があったそうです。

「遺伝子の後継を最優先とする人体構造の中で、神経学的に並ぶもののない刺激がポルノだ」これもゲーリーさんの弁です。性的興奮によるドーパミンの分泌は、モルヒネやニコチンの投与に匹敵するそうですが、本来は子孫を残すための仕組みです。その刺激がアダルトコンテンツに取って代わられることをゲーリーさんは憂いていました。

アダルトコンテンツからの刺激が習慣化すると、現実で性的興奮を得ることが難しくなり、結果的に性的機能不全に繋がります。そして、ネット上でアダルトコンテンツを際限なく摂取できる現代はリスクが格段に高まります。これが、ネットポルノ依存症の全容です。

性交渉が上手くいかないことでパートナーシップ解消までもつれ込むなど、異性間での関係悪化が主な二次被害に挙げられます。一方、同性間でも「ネットポルノ依存」や「ポルノ断ち」について話すと、「アダルトコンテンツのせいにするな」「禁欲主義や性表現アンチを押し付けるな」と非難されることがあります。人間関係にも暗い影を落としかねませんね。

今のところ国内では、単純に「アダルトコンテンツのために費やす時間が増えていって、生活にも影響している」という状態が主のようです。全体的に眉唾物な話ばかりの点も含め、「ゲーム依存」と似通っていますね。

たてばたちます、いずれまた

依存症からの脱却として真っ先に考えられるのが、「断つ」ということです。そして、「ポルノ断ち」を始めてしばらくは禁断症状が起こり、より酷い性欲喪失などに苛まれます。これは依存症治療の常です。俗に言う「オナ禁」そのものはテストステロンの分泌を促すなど体にいいらしいのですが。

ただ、考えなしに止めればいいというものでもなく「根本的な原因となる、心の奥に潜んだ生きづらさなどに着目しなければならない」そうです。頭ごなしに制限するだけでは何の解決にもならない点も、他の依存症と共通していますね。

また、「ポルノに時間を取られる」問題と、「ポルノで現実の性欲が減退する」問題を分けて考える必要もありそうです。ネットポルノと言いながら、紙媒体やビデオテープといったネット普及前のアダルトコンテンツによる事例も混ざっており、ネットでのアダルトコンテンツ利用がいけないのか、アダルトコンテンツ全般がいけないのかゴチャゴチャになっている節があるからです。

ポルノの形態や内容に問題があるならば、いわゆる「優しい画像で脳を守って」いればいいのでしょうか。全年齢コンテンツを脳内でポルノ化するなど「想像」で補えばいいのでしょうか。絵や小説など自分でアダルトコンテンツを作って自分だけで消費すればいいのでしょうか。責め立てたいことは山ほどありますが、とりあえず「何事も程々に」を重んじ、自分が程々に留まっているか見つめ直すのが大切なのでしょう。

最後に身の上話をします。大学時代、支援学級の実習で担当児童の自慰行為に悩んでいる時期がありました。同じ児童を担当する仲間相手に、悩みのあまり思わず「去勢しよっかな…」と冗談を言ったら、「アホか。くだらない理由で男の楽しみを奪うな」と笑われました。ご尤もな発言だったと思います。

余談

「ポルノ(Porn)」の語源はギリシャ語で売春婦を意味する「porne」からきており、その生まれもあってか原則男性向けアダルトコンテンツを指す用語として通っています。また近年では、性的な欲求や興奮に限らず何らかの感情を沸き立たせるという意味でも「ポルノ」という言葉が使われており、「感動ポルノ」などはいい例ですね。他にも、雄大な自然を撮った「Earth Porn」や、美味しそうな料理を撮った「Food Porn」、中には配線を撮った「Cable Porn」なんてものもあるそうです。


参考サイト

コーンフレークは性欲抑制のために開発された商品だった!
https://rocketnews24.com

「ネットポルノ依存症」という大問題が、いよいよ世界を揺るがし始めた
https://gendai.media

ポルノ依存症者として。あるエリート男性の告白
https://www.esquire.com

全くエロくない意味も持つ英語の「Porn(ポルノ)」とは?
https://www.serendipity.page

「やめたくてもやめられない…」実は深刻なネットポルノ依存
https://mainichi.jp

遥けき博愛の郷

遥けき博愛の郷

大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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